燃ゆる、始まりの明日
「彼はもう・・・」
「・・・奴らは・・・なんの罪もない子供まで殺すのか!」
「親を選べねえのが、子供の最大の不幸だからな!」
「〇・・・僕は・・・」
「これで・・・我が国は核を超える力を手に入れたのだ!」
「じゃあ、今日は帰ってこれるんだ。」
夏の始まり、6月の初め。
蝉がちらほらと鳴き音を立てるある日。
中学校の校舎裏で、少年、斎藤紡基は電話で父親と会話していた。
『ああ、土曜日の基地見学のことで話しておきたいこともあるからな。』
「基地での立ち振る舞いなら大丈夫だよ。俺、父さんがくれたマニュアルは五回ぐらい見たから。」
紡基の父親は、高い階級に立つ軍人である。
昔から礼儀作法や態度に厳格で、端的に言えば面倒くさい人間ではあるが、彼の求めているものを満たせていれば褒めることを欠かさない、そんな人間でもある。
そんな父親に様々なことを叩き込まれた紡基は、父親が高級軍人であることを除けばいわゆる一般家庭の子供であるにもかかわらず、上流階級顔負けの作法を当然のようにこなすことができた。
母親もまた、紡基の努力を積極的に支えるために、時に厳しく、時に優しく接してきた。
紡基は両親を深く尊敬していた。
中学生と言えば親に反抗的な時期であるといえるが、紡基がの場合で反抗的な態度を取るのは、本当に、どうしようもなく気に入らない人間相手のみである。
なお、そんな実例は紡基の周りにはいない。
『それとは別件でな、見学の時に見せておきたいものがあるんだ。』
「見せておきたいもの?」
『今日帰ったら話す。…そろそろ授業が始まるだろう、また帰った時にな。』
「うん。それじゃあ、また。」
通話を切ると、角で友人の紫崎冬弥が左半身を出して紡基を眺めていた。
「冬弥?なんで見てるんだ?」
「いや・・・歩いてたらお前の話し声が聞こえたからさ。・・・ほんとお前って親好きな。」
不可解そうな表情を見せる冬弥に、紡基は首を傾げて言葉を返す。
「尊敬できる親だからだよ。父さんと母さんは俺を大切に育ててくれてるんだから。」
「普通そんなこと自覚するか?・・・まあいいや、授業五分前だぞー、急がないとまたあのデカ声歴史教師にどやされるぞ。」
「マジかっ!今日午後イチ歴史だったっけ!?」
紡基の額に冷や汗が浮き出る。
歴史を担当する教師は極めて厳しいことで有名であり、男は学ばねば何もできない、女は学ばなければ何にもなってはならない、という独自の考え方を持っている。
学ばない学生を、彼は何かを成せない人間であると言っている。
学ばなければ物事を成せず、それを許さないという点において、この教師も生徒の未来を彼なりに案じているのは明白だった。
また、ここに赴任するまでは社会学全般を教えていたようである。
「まーさーか、教科書忘れてないだろうな・・・。」
「忘れてない忘れてない!行こう冬弥!遅れたら最悪だ!」
二人は渡り廊下を駆けていく。
彼らの教室である弐年四組は校舎裏からは少し離れた位置の二階である。
五分なら問題はないが、五分前にはできればいるべきなのだが・・・。
「結局どやされたな・・・。」
放課後、二人はそれぞれの自転車を押しながら帰路についていた。
「五分前に来れないことぐらいあるのになー。」
「でもお前は授業中めちゃくちゃ発表なりなんなりして好感稼いでたじゃんか。俺なんか寝ちまって完全に目ぇつけられたよ・・・。」
冬弥がうなだれるように嘆く。
「まあまあ、冬弥も挽回のチャンスはあるって。」
二人がしばらく話しながら帰路を辿っていると、遠くのような、近くのような、空気を震わせるような小さな轟音が響いてきた。
それに気づいたのは紡基のみであり、冬弥は全く気にしていない様子で話し続けている。
しかし紡基が話とは違う方向に意識を向けていると気づいた冬弥も、なんらかの出来事があったことを知った。
「なんか・・・音した?」
「俺には聞こえなかったな。どんな音だよ?」
「なんか・・・ボンって音だよ。空気が震える感じ。」
「爆発音?どこかで事故でもあったのか?」
「さぁ・・・。」
二人が訝し気に音について話し始めた頃、周りがサイレンの音で騒がしくなっていくことが二人の不安をあおっていく。
やがて、空が煙で真っ黒になっていることに気づいた二人は、しばらくその場にたたずむことしかできなかった。
燃えていく。
秩序が焼け落ちるその音に、二人は気づかない。
はい、モブ3Dです。
構想7年というクソ長であるにも関わらず、途中で投稿する羽目になるというカスムーブをしてしまいました。
この作品はかなり暗い話になると思いますので、心が辛い時はこんな作品は見ずに優しい作品でも見て心を整えておいてください。
あと、この作品の伏線はちょっとした違和感から辿れます。ぜひ違和感を覚えておいてください、必ず絶句させて見せます。