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第六十六話 TSは楽しんだもの勝ち

 とりあえず朝食を済ませた。

 しかし、どうも落ち着かない。リトルサンが収まるべき場所に無いという違和感と履きなれていないパンツとスカートの違和感。二つの違和感によるダブルパンチでソファーの上でぐったりとしていた。

 

 よく月島ちゃんたち女性の皆々様は、こんな無防備なものを履くことができるのか。小学生時代からの疑問が自分が女になったら分かるものだと思っていたが、まさにその逆、さらに疑問が深まった。


 それとキャラシメーカーの仕様が二つほど分かった。

 キャラシの変更は一日三回まで。能力などの変更は一日に一回まで、ということ。じゃあキャラシ変更をすればいいと思うだろう。かという俺も最初はそれで解除できると心躍ったが…


 《既に本日のキャラシ変更及び、能力の変更は上限に達しているため、ご使用できません。》


 結果はこの通り、俺は今日一日は、中川悟子として生活することを余儀なくされた。


 月島「悟さん、伊角さんとの約束はどうするんですか?そろそろ出発の時間ですけど。」


 悟子「えっ、どうしよ。このままの姿で行きたくない!!」


 月島「駄々を捏ねたところで一日中そのままなんですから。せっかくなら女の子として今日を楽しんでみては?そっちの方が気が楽だと思いますけど。」


 悟子「なんと言う逆転の発想。でも……」


 月島「でも、なんですか?」


 断ろうにも月島ちゃんからの圧がすごい


 悟子「あーもうわかったよ!今日は一日中女の子として過ごしてやラァ!!」


 そして、月島ちゃんを連れて駅前まで歩いて行く。自分が妙に照れながら月島ちゃん(APP16)の隣を歩いているせいか、周りからの視線がすごい。

 それに月島ちゃんが、さっきからすっごい見てくる。動くたびに上下へと揺れ、肩にとてつもない負担をかけてくる。引き離すことのできないランクE相当の呪いの装備をじっと見つめてくる。

 月島ちゃんもランクCはあるであろうに、なぜ、こんな呪いの装備を凝視しているのか。嫉妬か、はたまた心配してくれているのか、何にせよここまで凝視されると恥ずかしいものがある。それを訴えようと月島ちゃんの顔を見ると、何故かそっぽを向いた。

 

 外を歩いて数分、駅前の広場に着いた。時間としては既に昼頃。周囲を見渡して伊角を探していると背後から声をかけられ、肩を触られる。


 「突然声かけちゃってすみません、あまりにもタイプだったんで。普段は絶対こんな事しないんですけど、今、少しでも会話しないと一生後悔すると思って。良かったら、俺たちとお茶しない?」


 振り返り背後を見ると、そこには明らかにチャラそうな黒髪マッシュの二人組の男がいた。俗にいうナンパ男。言葉の節々にそのヘヤスタイルと同様に圧倒的なまでの下心が垣間見える、いや丸見えだ。最初は「いいなぁ」と女子が思いそうなチャラい見た目とは裏腹にたどたどしく、口下手。そのギャップは良いと思う。しかし、後半になるにつれて口調もチャラくなる。まさに如意棒丸出しである。

 まあ、声をかけたくなるような気持ちもわかる。確かに駅前で暇そうな女二人?(APP平均15)がいるのだ、やつらナンパ男にとってのとびっきり上質な獲物である。


 月島「私たちは…」


 「いいじゃんよーちょっとくらいさぁ」


 月島「……」


 話が通じないと判断したのか、月島ちゃんは黙り込んだ。表面上は無視するようだ。しかし


 月島ちゃん抑えて押さえて!!ナンパ男には伝わってないだろう神話生物の独特な殺気のようなものが月島ちゃんの方からものすっごい勢いで溢れ出てやがるッ!ここは俺が代わりに出なければ!そうしなければこの哀れなナンパ男たちの未来が軽く想像つくぐらいに悲惨なことになる!!


 悟子「悪いけど、結構で……」


 俺が断り、肩に置かれた腕を解こうとすると


 「ちょっとごめんね君たち。そこどいてくれる?」


 ナンパ男たちに聞きなじみがある声がかけられる。


 「私の友達に、手を出さないでくれるかな。」


 「こ、こいつは!?」


 「人気カリスマモデルの伊角真人ぉ!?」


 伊角「で、()()()()()()()()()?」


 「「し、失礼しやしたー!!!!」」


 ナンパ男たちは驚きながらその場から逃げ去っていった。

 

 伊角「二人とも大丈夫かい?変な事とかされてない?」


 月島「はい、大丈夫です!ありがとうございます伊角さん!」


 伊角「悟の方は大丈夫?」


 悟子「えっ!?何で俺だってわかってんだ!?」


 伊角「そりゃ、悟は月島ちゃんを一人で行かせるような、()()()()()()()()()じゃないからね。それに悟の面影も少し残ってるからね。」


 悟子「お前ってやつはよぉー!このぉー!」


 なんと言うか伊角への好感度がグッと上がったような気がした。やはり持つべきは親友である。そんな親友に経緯を説明する。


 伊角「よかったら悟もモデルの仕事やってみる?」


 悟「この姿でか?」


 伊角「もちろん」


 悟子「やるにしても、俺モデルのあれこれとかわからないぞ?」

 

 伊角「この前は君の無茶を聞いたんだから、今度は私の無茶も聞いてもらわないとね。」


 月島「悟さんも一緒にやりしょうよ!!」


 悟子「もう、好きにしてください……」


 伊角「それじゃ、スタジオに行こうか」


 伊角に連れられて仕事場に着いた。

 今日は雑誌モデルの伊角、読者モデルの月島ちゃんと、飛び入り参加の俺、中川悟子の三つ巴の撮影となった。


 「伊角さん、スタンバイお願いします。」


 伊角「はーい。カリスマモデルの腕の見せ所だ。」


 衣装に着替えた椅子無我カメラの前に立ち、そしてシャッターがすごい勢いで連続して切られる。素人の俺でもわかることだが、撮影を行う際にはフォトグラファーの指示に従って、商品が魅力的に見えるようにポーズをとる。

 こんな連続してシャッターを切れば全く動きがなく静止画に等し写真。下手にポーズを変えようと動くとシャッターに間に合わずにブレた写真になってしまう。しかし、フォトグラファーは何一つ文句を言わずにシャッターを切り続ける。そんな芸当ができるのは何故か。それは、伊角がシャッターが下りる速度に適応しているからであった。

 最小限の動きで、寸分狂わずの完璧なポーズをシャッターとシャッターの間を縫うように繰り出す。まるで機械のように、しかし魅せるポーズにはアンドロイドが見せるような違和感ある不自然なものではない。自然で軽やかな表情としぐさであった。


 悟子「何というか…」


 月島「圧巻ですね…」


 伊角のすごさに語彙力を失われながら月島ちゃんと共に感嘆としている俺たちに声がかけられる。


 「お二人さん次撮影なので、準備の方をよろしくお願いします。」


 悟子「俺…いや私たちモデル経験とかないんですけど…」


 「大丈夫です。指示通りに行う、ただの写真撮影なのでそう気になさらず。」


 と言われてしまった。こっちは素人だぞ!?さっきの伊角の15連続の完璧なショットを見せれれたら不安でしかない。いくら指示通りにやったとしても指示通り動ける自信も無い。下手に自分から動いたとしても上手くいく気もしない。奇跡でも起きない限り、良い写真なんて撮れる気がしない…


 悟子「どうしよう月島ちゃん…」


 月島「自信を持って挑むだけですよ!いつも通りに運頼みで!」


 悟子「運頼み…運頼み…ダイス判定!そうだよ、ダイスで判定すればいいんだ!」


 月島「シナリオ中以外でダイス判定なんて行えるんですか?」


 悟子「一応はこの世界は現実とCOCの両方の性質を併せ持つ。だったら、シナリオ以外でもダイス判定を行えるはずだ。」


 シナリオ中にダイス判定からなしに切り替えることができたのだ、その逆もきっと可能なはず。


 「中川さん、スタンバイお願いします。」


 スタッフに案内してもらい着替えを済ませてカメラの前に立つ。フォトグラファーの指示に従ってポーズをとる。


 今だッ!!!


 [悟子 APP×5(65)→成功(15)]


 シャッターが下りる


 「あと2、3枚撮りますね。」


 あと三回成功…一気に行くぞ!!!


 [悟子 APP×5(65)→成功(56、34、51)]


 俺の撮影は無事に終わり、次に月島ちゃんに声がかかる。

 

 月島「悟さん私もできますかね?」


 悟子「大丈夫だ!とは言い切れないが、月島ちゃんは可愛いから大丈夫だ!」


 そして、月島ちゃんの番となり、月島ちゃんがダイスを振ると。


 [月島 APP×5(80)→成功(32、14)、決定的成功(クリティカル)(4)]


 「す、素晴らしい写真が撮れました!」


 月島ちゃんは、握手され腕ごとぶんぶんされている。各々の撮影が終わり、着替えが終わったところで伊角が話しかけてきた。


 伊角「すごいね、まさか初心者の二人が数テイクでOK貰うだなんて。どんな手を使ったんだい?」


 悟子「それはだな…」


 それに答えようとすると


 「すいません、ラストにモデル全員での写真をお願いします。」


 と、声がかかる。


 伊角「おかしいね、今日の写真は全て撮り終えたと聞いていたけど。」


 準備を終え、再びカメラの前に今度は全員で立ってカメラの方向に視線を向けると。カメラマンが先とは違う黒髪の肌は褐色の男性へと変わっていた。


 ん?あれニャルじゃね?


 悟子「おいお前、こんなのとこで何してやがる。」


 伊角「誰の事を言ってるんだい?」


 悟子「そこの這いよる混沌の事だよ!!!」


 そう言われたカメラマンは不敵な笑みを浮かべ


 ニャル男「いや、ばれちゃったか。にゃはは」


 悟子「おめーだろ、俺をこんな姿にしやがったのは!!!」


 ニャル男「そんなこと言って、写真撮影をしてた時はノリノリだったじゃないですか~」


 悟子「アーもうキレた、プッツンきたはこれ。覚悟しろよニャル男。いくら俺が女でも容赦しねえからな!変身ッ!!!」


 ニャル男「えっ、ちょ、ちょっと待ってライダーキックだけはやめて!あれすごく痛そうだから!!!」


 悟子「うるせぇ!」


 《スキャン!アプールヴ!AMC:ライダーキック!》


 触手という触手がニャル男を捕らえる。


 ニャル男「このままだと…ままよ!テレポート!!」


 触手に捕らわれていたニャル男は突如として姿を消した。俺は変身を解除して腹を立てながらスタジオから出て帰路に着く


 悟子「クッソ逃がしたか。」


 月島「ですけど、今日はもう遅い時間ですし。仕事も終わったしでいい、時間つぶしにはなったんじゃないですか?」


 悟子「それもそうだな。伊角も家来るだろ?今日は三人で季節外れの鍋でもつつこうぜ?」


 伊角「それ賛成!じゃあ食材買いに行かなくちゃね。今回は私がおごるよ。」


 悟子「おっ?じゃあ良いお肉買っちゃおー!!」

 

 その後、俺たちは買い物を済ませて季節外れの鍋を冷房がガンガン効いた部屋でつついて、キャラシメーカーを更新して元の身体へと戻して俺はぐっすりと寝た。

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