第五十六話 ファンブル的な気づき。
ゲートから歩いて数分、レンガ造りのバンガロー風、いや悪霊の家風の小規模の館が目の前に現れる。
悟「これが初心者の館か。確かにシナリオとしては初心者的ではあるが。
月島「早速中に行ってみましょうよ!」
悟「ちょっ、待ってよ!」
どうやら資料館形式となっていて、順路に合わせて歩いて行くようだった。
原作者H・P・ラヴクラフトが使っていた部屋の再現や、クトゥルフ神話における神々の序列やその設定をまとめたものなど様々なクトゥルフ神話に関連する資料が立ち並んでいた。
悟「すっごい感動だな、あのラヴクラフトの部屋が再現されてるとか!神話はここから生まれたのかぁ!!」
俺は目をキラキラさせながら再現された部屋を見て感動していた。
月島「前々から思ってたんですけどクトゥルフ神話って何なんですか?私たちの世界にそんな単語ありませんでしたよ?」
悟「そっか、あくまでそっちの世界じゃ一般人には縁遠い魔術師とかぐらいしか知らない、魔導書に書かれた古い神話的な扱いだもんな。資料もあるし適当に……」
俺が説明を始めようとすると、後ろから肩を叩かれた。
振り返ってみると典型的な女性ガイドの人みたいな服を着たニャル子がいた。
ニャル子「そういったことならガイドの私に任せてください!今ならツアーもやってますよ!」
悟「元気いっぱいなところ悪いが、俺たち他に回りたいところとかあるし。今回はパスで。」
ニャル子「はい。」
やけに素直だな。萬さんに邪魔するなとか釘でも刺されたのかな?
悟「じゃ、簡単に説明すると。クトゥルフ神話っていうのは、同じ設定つまりは旧支配者や外なる神などの設定を共有した作品群の総称がクトゥルフ神話って訳だ。俺の好きなアニメの這いよれ!ニャル子さんとかもクトゥルフ神話の要素というかそれを題材とした作品だからな。」
月島「はいはーい質問!別にアザトース神話とかでもしっくりしそうなものですけど、なんで”クトゥルフ”なんですか?」
悟「おっ、いい事聞くね、月島ちゃん。なんでクトゥルフ神話なのか、それには諸説あるんだが。一般的には、原作者である怪奇・幻想小説者の一人。H・P・ラヴクラフトの作品たちが、ラヴクラフトの死後に広く知られて、その代表作であるこの「クトゥルフ(クトゥルー)の呼び声」のクトゥルフから、同じく原作者の一人のダーレスって人が考案したって言われてるな。」
月島「なるほど、私あの空間でほとんど一生を過ごしてたからクトゥルフ神話について詳しくなかったんですよね。だから旧支配者とか、外なる神とかよく知らないのでそこも教えてください!」
悟「それだったら、まずは旧支配者について話そうか。旧支配者、グレート・オールド・ワンとも言われているクトゥルフとかハスターは「人類史以前に地球を支配していた」とされる神々というかどちらかといえばエイリアンに分類される存在だな。旧支配者たちはダーレスによるアレンジによって善の旧神と対立する邪神ともされているな。その旧神たちに敗れた旧支配者たちは各星々に幽閉され、その眷属や信者たちが復活を画策しているってのが旧支配者の大まかな設定だな。」
月島「もし旧支配者が復活しちゃったらどうなっちゃうんですか?」
悟「仮に復活すれば、人類とかの文明は確実に滅ぶだろうな。”星辰の正しき刻”3月23日にルルイエは浮上し、クトゥルフは復活するとも書かれてるけど、それも今から約百年前の出来事とも書かれてるし復活することなんてないと思うけどな。バッドエンド、人類滅亡ルートに行かない限りはな。」
月島「なんて恐ろしい……」
悟「外なる神、外神はそれ以上、もはやいや、文字通り別次元の存在だな。ざっくりとした話、白痴の魔アザトースを中心にした激ヤバ集団。」
月島「私が信仰してるニャル様もここに入るんでしたっけ?」
悟「どういった経緯で今のニャル子になってんのか不明だが、確かにあのガイドさんも外なる神、しかもその中で唯一、自由に活動ができるのがニャルラトホテプ。外なる神のメッセンジャー、這いよる混沌、闇に吠えるものetc…とにかくあそこで話聞いてエッヘンと踏ん反り返ってるのが、外なる神の中で二三番目に偉い存在なんだ。」
月島「あれでなんですね。」
悟「そうあれでだ。大まかに説明したけどこれらは公式な設定とかじゃないから、あくまで参考程度にとどめておくように。」
月島「はーい!じゃ次どこ行きましょう?」
悟「せっかくここで知識を得たんだし今度はCOC会場にでも行ってみるか!」
月島「前から気になってたんですけど、COCってクトゥルフ神話trpgって意味ですか?」
悟「そうだよ。文字通りクトゥルフ神話のtrpg。用意されたシナリオの中でロールプレイを通して楽しむいうならばその小説の主人公になって、ダイス運に左右されながらも物語を楽しむ大人のごっこ遊びみたいなもんだな。」
月島「そう言われると簡単そうですね。というか私たちにはそれが日常になってますしね。悟さんは今までどうやって過ごしてきたんですか?」
悟「俺は今までは普通に暮らして、ある日ニャルラトホテプに「お前も探索者にならないか?」って言われてキャラシを作って、絶望の孤島に飛ばされた時に初めてダイスロールしてだったからな。世界が融合した影響とか何とか言われたけど今の俺にもよくわかってないんだよな。何か行動したいなと思ったらダイスによる判定が行われて、可能か不可能かを決めるってのが日常って言われたら、どちらかって言えば非日常に遭遇したときしかしてないし、日常生活でダイスなんて振らなかったな。」
月島「私も悟さんと一緒です。その非日常に巻き込まれた時ぐらいしかダイスによる判定なんてなかったですし。でも私、悟さんとは違ってキャラシ?なんて作ってないですよ?」
悟「そりゃ、月島ちゃんはCOC世界の人間なんだし、キャラシを作る必要なんて無いからな。俺の方の世界は刺されてもダメージ判定なんて無いし、痛みが走って動きにくくなるとかだし。でもいちいち判定とかしなくても動けるしある意味自由だからな。」
月島「だったら悟さん、ダイス判定しなくてもシナリオ攻略とかできるんじゃないですか?」
悟「・・・!そうじゃん!俺ダイスに頼らなくてもいいじゃん!!何で早く気づかなかったんだ!?」
確かに今までシナリオ中にダイス判定が必要になる場面でダイスを振らなかった時があった。それに気づいた時には嬉しさで俺は月島ちゃんに抱きついて頭を全力でヨシヨシしていた。
悟「ありがとう月島ちゃん!!うぉーー!試してぇ!すぐにでも試してぇ!!でも今は月島ちゃんとのデートを楽しまなくちゃな。」
月島「わかりましたから、ちょっと離してください!人目がすっごい気になって恥ずかしいので!!」




