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第五十二話 や、悟久しいね。

 俺たちは服を着替えて玄関に待つニャル子のとこへと向かう。


 デートだから気合を入れて服を選んだはずだが、いつもと変わらない服装に落ち着いた。

 崩れるように着た白シャツにキュッと締めた黒のネクタイ、灰色のスラックス、そして上着にジャケット、薄茶色のサングラス。


 月島ちゃんはというと、学校に登校する制服を着ていた。改めて見てみるとあの時、毒入りスープの時に着ていた白い服によく似ている。


 ニャル子「お二人ともいつもの服でいいんですか?」


 悟「なんかこっちのほうが」


 月島「しっくりしたので。」


 『あっ…』


 ニャル子「つくづく仲が良いですね。じゃ門作るので離れてくださいね。」

 

 ニャル子は呪文:門の創造の詠唱を開始する。


 ニャル子「Он соединяет и сжимает пространство и использует свою магическую силу, чтобы сделать это возможным.Его врата ведут ко всему. Будь моими воротами.」


 いやこれ何語だよ!!聞いてるこっちはわけわかんねぇ!でも何かかっけぇ!!


 クトゥルフ神話に登場する公式的な呪文の詠唱は神話生物の召喚などを除きほとんど存在しない。呪文の名前と効果、必須条件については基本ルールブックと各種サプリメントに載っているが、それを発動するための詠唱は載ってない。


 だから基本的に本人の解釈によるんだが。こう生で聞くと何と言うか何かすごくいい!

 

 そして詠唱が終わったと同時にニャル子の目の前に扉ほどの大きさの次元の裂け目のようなものが出現する。

 

 悟「これが門の創造…」


 その門の先に映るのは、空間に一部を切って乱雑に張り付けたかのような無数の場所が映し出されていた。


 悟「これ本当に入っていいのか?次元の狭間に行って一生戻れなくなったりしないよな??」


 月島「大丈夫ですよ。そんな某ガメッシュみたいなこと起きませんから…たぶん…」


 悟「たぶんが一番怖いんですけど!?」


 ニャル子「もうじれったいですね。後ろから押してあげましょうか?」


 悟「行けばいいんだろ!行けば!すぅーーー……行くぞ。」


 俺は恐る恐る門をくぐる。暑く、ジメジメとした梅雨の空気が纏わり付くような嫌悪感が体に走る。


 これが門の創造…いや、本物の呪文か。ステータスには影響は出ないと思うが、直接食らったことがなかったからか体に拒否反応みたいのでちょっと気分が悪い。


 それを払い除けて奥へと進むとぼんやりとだがどこかの部屋に通じているのが分かった。

 門をくぐり終わると客室のような場所に出た。そして気持ち悪さが勝って視界がぼやけて気付かなかったが客室には二人程先客がいたようだ。


 俺がよろけているとニャル子と月島ちゃんが続けて部屋に入る。


 ニャル子「社長、連れてきました。」


 「ご苦労だったね。」

 

 そう言って席を立ち振り返ってこちらに向かって声をかけたのは。


 萬「や、悟それに月島ちゃんも久しいねー。」


 悟「久しぶりだな、萬さん!」


 月島「お久しぶりです!」


 そこにいたのはルーズフィットパンツにパーカーとチェスターコートを上に着たサングラスをかけた全身真っ黒コーデの萬代社の社長、萬操矢であった。俺たちは秘書に促されソファーに座る。


 萬「まずはVIPパスの購入ありがとう。その特典を渡させてもらうよ。第二秘書君例の物を。」


 「…了」


 秘書はアタッシュケースを取り出し机の上に置く。


 悟「これは?」


 萬「開けてみればわかるさ。」


 置かれたケースを開けると中には一つの少し大きめの銀色のハーモニカが入っていた。


 月島「ハーモニカですか…?」


 萬「ただのハーモニカ時じゃないよ。一度手に取ってごらん。」


 普通のハーモニカだと思って手に取ってみると意外と重い。吹けないかと言われるとそうではないがちょっと支障が出そうであり、それ以外にも気になった点があった。


 スイッチか?これ?


 ハーモニカの右側面にスイッチのような物が付いていた。


 萬「気付いたようだね。そのスイッチを押してごらん。」


 スイッチを押すとハーモニカがメカメカしく変形を初め。ハーモニカの面影を残しつつ、銃剣へと形を変えた。


 悟「うぉぉぉ!!すっげぇ!!かっこいい!!」


 萬「どうだいかっこいいだろ!これは僕が作った音楽楽器変形型武器、通称:音器と僕は呼んでいる。」


 悟「音器……」


 月島「ロマンがあります!」


 萬「悟に渡したのは無音器Hベヨネッタ。拳銃としての性能は、あの時悟が使っていた32口径をモデルにナイフ部分は呪文:刀身を清めるを使用して僕独自の技術で結合させたんだ、だから物理無効相手にも有効のはずだよ。」


 悟「でもこれどうやってリロードとかするんだ?カートリッジ交換できるような構造になってないけど…」


 萬「リロードはナイフでの攻撃と時間経過で自動で補充される仕組みになっているよ。」


 悟「なるほど、実質的に装弾数無限の近接もいける万能武器か…強くね?」


 月島「でも何で萬さんは悟さんにこれを?」


 萬「COC世界と悟の世界が融合して、この世界は大きく変化した。世界のいたる所で非日常(シナリオ)のフラグとなる事象が発生し、それの影響で神話生物の異常発生と被害が相次いでいる。」


 「そこで社長はその非日常を攻略することでこの世界との繋がりを断ち、神話生物の発生を防ぐため音器を作ったのです。」


 萬「悟、君は今後も非日常に巻き込まれていくだろう。非日常を攻略し切り離していけば、いずれ恐怖は無くなり、世界平和に繋がると僕は考えている。だから君にこれを託すことにしたんだ。COCを熟知し、いくつもの非日常を攻略してきた君に。」


 悟「世界平和ね……俺に出来ることがあれば是非協力させてくれ。」


 萬「ありがとう。渡すものは、これとVIP専用のカードね。」


 萬は懐から二つのカードを取り出して渡す。


 萬「これを使えば、このパーク内のすべてのサービスを半額で使えるから。お金は気にせず楽しんできてね。」


 月島「萬さんは一緒に行かないんですか?久しぶりの再会なんですから少しの間だけでも……」


 月島ちゃんがそう言うと、萬は困った顔をして答える。


 萬「行きたいのは山々だよ。でも僕はこう見えても社長だからね。やる事が多くて行きたくても行けないから僕の分まで楽しんできてくれ。ネコ君、二人の事邪魔しないであげてね。」


 ニャル子「わかってますよ。二人とも彼方の門を使えばンガイの森に直行できるので。」


 そう言ってニャル子は俺たちが使った門とは別の門を指差す。


 萬「それじゃ、二人とも楽しんできてね。」


 悟「おう、そうさせてもらうぜ!行こうか月島ちゃん。」


 俺はそう言って門をくぐる。


 月島「はい、悟さん!萬さんありがとうございました!」


 一礼した後に悟を追いかけて門をくぐる。


 ニャル子「えっ!?僕には!?あっ行っちゃった……」


 二人が完全に門をくぐると、萬はニャルラトホテプへと話しかける。


 萬「ニャルラトホテプにしては、酷く感情的じゃないか?これも僕のおかげかな?」


 ニャル「それはどうかな?」


 萬「僕に嘘をついてもバレることを忘れたのかい?心拍数が上昇して君の心臓の鼓動が早くなって音がダダ漏れ、それに声のトーンもさっきとは違う。」


 ニャル「本当に気持ち悪いね。後者はともかく、前者に至ってはこの僕でさへ、心から嫌悪するよ。」


 萬「それは君が油断し切っていた事、そして僕も予想だにしなかった事に起因するよ。」


 ニャル「珍しく宮殿内に人間が連れ込まれたから、興味本位で地球産の空気を充満させた事が間違いだった。」


 萬「そのおかげで僕の目標は果たされ、世界平和のための尊い犠牲になったんだ。有難いことだと感謝してほしいね。」


 ニャル「それは死んでもごめんだね。君のおかげで故意に死亡できなくなっちゃったけど。」

 

 萬「そうかい、そうかい。まぁ、僕は別に神話生物(君たち)からの賛美の声を聞きたい訳じゃない。僕が掴みたいのは永久(とわ)に続く未来、平和、無意味な争いの根絶、この三つだけだ。」


 ニャル「本当に狂ってるね君は。僕たち神格に近しい頑強な精神と欲。流石は神話生物に飲み込まれることなく、むしろその純粋な力、権能を逆に取り込み。その魂を喰らって、意思を消滅させただかある。」


 萬はニャルラトホテプの言葉を聞き流し、門を創造する。


 ニャル子「お出掛けですか?」

 

 萬「ああ、とある知神のところにね。呉々も仕事をサボるなよ。まあ、僕の力の前ではそんな事、誰もできないけどね。」


 そう言って萬は門をくぐる。


 ニャル子「いってらっしゃいませ。」

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