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【完結】アサケ学園物語~猫型獣人の世界へようこそ~  作者: BIRD
第1章

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最終話:選ぶ道~EPILOGUE

話を聞いた後、モチと俺は【両親】に連れられて、森の中心にある世界樹の根元へ向かう。

そこに創世神(かみさま)がいて、話す事が出来るらしい。

世界樹の根元にはカジュちゃん、リユ、E原が、王様と2組の夫婦らしき人々と一緒に来ていた。


世界樹と呼ばれる木は、まさにその名にふさわしい巨大さで、横へ伸びている枝がどこまで続いてるのか分からない長さだ。

よく見れば枝は、近くの木に繋がってる。


その構造は、沖縄の植物として知られるガジュマルに似ていた。

ガジュマルは枝をどんどん伸ばして、枝から気根を伸ばして地面と繋げ、新たな幹を増やして森を形成する植物だ。




『…おかえり、世界樹の子らよ…』


俺たちが根元に歩み寄ると、大木から声が聞こえた。

脳に直接言葉を送り込んでくる、召喚獣が使う念話に似た【声】が響く。


『私がお前たちに組み込んだ運命とは違った形になってしまったが、白き蛇が異世界を荒らさずに済んだ結果は、良いものと言えるだろう』


もしも魔王が集団転移させなかったら、社内で蛇将軍VS勇者パーティの対決になってたんだろうか。

ゲーム会社としては、そんな事態になったら、間違いなくネタにしてゲーム作るだろうな…

俺はぼんやりとそんな事を考えていた。


『蛇が捕らえられた事で、今のお前たちには自由がある。そこで問おう、お前たちはどちらに根を下ろしたい?』

「それは、この世界に残るか、日本に戻るか、どちらか選べるという事ですか?」


モチが問い返した。


「僕はこちらの神殿に就職して、日本にはたまに里帰り出来ればいいんですが、それは可能ですか?」


E原も聞いた。


『先に日本からの転移者たちについて説明しておこう。魔王の力で送られて来た人々は、魔王に頼めばこちらと日本とを行き来出来るだろう』

「じゃあ僕は予定通りこちらの世界を活動拠点にします」


E原は決断が早かった。


『続いて世界樹の子らについてだ。お前たちは元々この世界の人間ゆえ、状況は異なる』

「もしかして、私たちはもう日本には住めないの?」


今度はカジュちゃんが聞いた。


『今のお前たちは肉体が転生前に戻されている。そのまま転移すると地球の毒によって命を失うだろう』


神の言葉に、転生者の俺たちは一瞬言葉を失くした。


『地球人がこちらで生存する事は出来るが、世界樹の民が地球で生存する事が出来ない理由は、地球の大気がこちらの生物にとっては猛毒になるからだ』

「転生後の状態にして日本に転移は出来ますか?」


リユが、しばし考えてから聞く。


『出来るが、代わりにこちらでの記憶は全て失う。今こうしてここで話している事も含めて』


再び俺たちは言葉を失くした。


『地球での記憶は残る。名前は今は忘れているようだが、向こうへ移動すれば思い出すだろう』

「つまり…異世界転移した事とか、みんなで過ごした事とかは思い出せなくなるんですね?」


最後は俺が聞いてみた。


『そういう事だ』


俺たちはしばらく考えた。


ふと視線を向けると、心配そうにこちらを見ている【両親】と目が合った。

我が子たちの転生は、2人にとっては死別と同じ筈。

千年の時を生きる世界樹の民は、滅多に子供に恵まれないと禁書には書かれていた。


「…俺は、こちらに残ります」


最初に答えたのは、モチだった。


「!!!」


【両親】が、ぱぁっと明るい表情に変わる。


モチは2人の方へ歩いて行き、それぞれの手を握って微笑んだ。


「日本にはもう親はいないから。こちらの両親を大切にしたいです」


日本でのモチに父親がいない事は聞いていた。

母親についてはこの時は聞いてなかったけど、再婚して疎遠になったと後から聞いた。


「あたしは日本に帰るわ」


不意に声がして、振り向いて見たらY根さんが来ていた。


「あたしはこちらに親いないし。こっちにいたらシリーズ最新刊が買えないもの」


世界樹の民としてのY根さんの両親は亡くなっているらしい。

あのシリーズを買う為に帰る辺りは、Y根さんらしいというかなんというか。


「私は残ります。物価が上がってばかりで給料ちっとも上がらない日本より、こっちの生活の方がいいから」


リユも答えた。

765人の異世界転移の中で、早くから仕事を見つけたリユは、経済重視な考えを持っていた。


「私も残ります。日本の両親は弟に任せとけばいいし、こっちの両親の方が長生きだし」


カジュちゃんも居残り組だ。

後で聞いたらカジュちゃんは里長夫妻の一人娘だった。


『イオ・アズール・セレストよ、そなたはどちらを選ぶ?』


創世神(かみさま)にフルネームで呼ばれた。

気が付けば、まだどちらか選択していないのは俺1人になっていた。


俺は、日本での生活を思い返す。


朝は通勤ラッシュに揉まれ、夜は日付変わってからの帰宅。

ゲーム会社は、休日出勤や残業は日常茶飯事だ。

母は人嫌いで別居していて、俺は妹と2人暮らしだった。

父は物心ついた頃には母と離婚していて、顔も覚えてない。


───…あんたは、あんたの好きな道を行きなさい…───


いつだったか、母に言われた事を思い出した。


また視線を感じて振り向くと、モチを抱き締めている【母】と、それに寄り添う【父】が、心配そうにこちらを見ていた。


日本での母は独りで気ままに生きる事を望み、父は離婚時に「子供?そんなもんいらん」と言ったと聞いた。

なら別に帰んなくてもいいよね?


気持ちは、定まった。


「俺は、この世界に残ります」


記憶が無いなら、これから増やしてゆけばいいよね?


   ◆◇◆株式会社SETA・契約社員イオの手記より◆◇◆




「上手くいったようだね」

「ええ、本来あちらに在るべき者を、戻す事に成功しました」


株式会社SETA、本社。

ATP事業部メンテ社員・詩川は瀬田社長に報告をしていた。


765名を巻き込んだ異世界転移。

それは、異世界アーシアとの行き来が可能な転移装置を保有するSETA社に、異世界ナーゴへの転移経験を持つ詩川が入社した事が始まりだった。

詩川は人材育成のため開校されたSETA学園の卒業生で、在学中に異世界転移を経験して、転移装置を自作して戻って来た者。

SETA入社後は社長のバックアップを得ながら、アミューズメントテーマパークに大掛かりな仕掛け、大規模異世界転移装置を完成させた。


それは、トゥッティの悪事を防ぐだけでなく、異世界ナーゴからこちらへ転生してきた勇者たちを元の世界へ送り返す目的もあった。

約1名は日本を気に入って戻って来てしまったけれど、4人はナーゴを選んでいる。

目的はほぼ達成といってよい状況だった。


「ナーゴにも異世界派遣部を作れそうかな?」

「はい。江原など、あちらを拠点に望むスタッフが複数いますよ」

「では準備にかかろうか」


こうして、SETAの新たな異世界派遣部の開設準備が進められる。

あちらの住民を日本に招待するための環境最適化プログラムも、後に開発される事となった。



   ───END───

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