第72話:狙われる終点ボスたち
ジャミが送ってきたリストの終点ボスは、いずれも鳥タイプの魔物だった。
氷雪の洞窟で、鶏タイプの終点ボスだけが繰り返し襲われたからかもしれない。
四季の森に複数あるダンジョン。
その中から指定されたものだけを先に見て回る。
他の場所でも同じ事が起きているかもしれない、ってジャミはメッセージしてきた。
蛇は地球だと自分で体温を作れない変温動物で、氷点下では動けなくなる。
けど、異世界は違う。
属性という概念があるからかな、さっき見た蛇なんかは氷点下の方が得意っぽい。
北に位置する冬の森を抜け、隣接する春と秋のうち、とりあえず東にある春の森へ。
風神の息吹発動中は、魔物たちは俺を目視出来ないようだ。
通信魔道具の機能で測定したら、発動中の移動速度は秒速約340~350m/s前後を記録していた。
速度UPの身体強化で音速に近いとか。さすが禁書魔法だ。
春の森、百花の洞窟。
様々な花が咲き乱れる、華やかなダンジョンだ。
トラップは無いけど、蝶や蜂系の魔物が厄介かもね。
気付かれないのを良い事に全スルーして通過しよう。
指示があった終点ボスを見に行くと…いなくなっていた。
ここには雉に似た鳥系ボスがいる筈だけど。
校内の狩り情報では、昨日今日は誰も狩ってないボスだ。
いない事をグループ送信して、次へ向かう。
春の森は冬と夏の森に隣接してる。
冬はさっき確認を済ませたので、夏の森へ。
夏の森、青空の洞窟。
洞窟の中なのに、澄み渡る青空が見える。
屋外の空とは異なり、時間帯による変化は無い。
高速で飛び回るツバメみたいな魔物たちが、狩り難易度を上げている。
まあ、音速移動してる俺からは、ツバメも止まって見えてるけどね。
ここのボスはハヤブサ系で、健在だった。
ツバメの倍以上の高速で飛び回る鳥は、さすがに蛇には捕らえられないのかも。
健在な事を報せて、次は秋の森だ。
秋の森が隣接するのは、夏と冬。
四季の森は学園の建物と校庭を中心に4つの花弁のように広がっている。
北に冬の森、南に夏の森、東に春の森、西に秋の森があった。
秋の森、豊穣の洞窟。
ここは魔物だけでなく、食べられる植物があるので人気がある。
確認する終点ボスは、鴨に似た魔物。
洞窟内、ルート奥の広間の池にいる筈が…いない。
ちなみに池の周囲には、葱みたいな食べられる植物があった。
鴨ボスは昨日狩りに来た学生たちがいて、その時には葱も採集してる。
24時間経って葱が再生してるから、鴨ボスも再出現する筈だけど。
鴨ボス不在を報せたところで、ジャミからメッセージがきた。
「動植物学部校舎内でヘビ発見、すぐ戻って来ておくれ!」
…学園内に?
動植物学部というワードで、とっさに浮かんだのは夢幻種のウサギたちだ。
大型の蛇はウサギを好んで食べる。
彼等が狙われている予感がする。
「ベノワ、出てこい!」
命じると、右手の中からシュルンと出て来る青い鳥。
福音鳥のベノワは、前世から俺に仕えていると言う召喚獣だ。
『いつでもどうぞ、御主人様』
現れたベノワが、スッと伏せて主が乗りやすい体勢になる。
俺が背中に乗ったら、指示しなくても学園目指して飛び立った。
召喚獣は主人と繋がっているので、俺にかかってる身体強化はベノワにも共有される。
つまり今、音速で飛べるという事。
俺が木々を避けながら走るより、ベノワに乗って障害物の無い空を飛ぶ方が断然速い。
ベノワが音速滑空したら、周囲の気温と空気圧が変わり、周辺湿度が凝縮して円状の雲が出来た。
まさか異世界で、戦闘機並みの速度で空飛ぶとは思わなかったよ。




