第34話;猪突猛進と完全回避
翌朝、俺を先頭に、二番目にモチ、最後方をE原という並びで進むのは「夏の森」。
夏というから暑いかと思ったら、半袖で過ごせる気温は快適な範囲。
木の葉や草の香りを運ぶ風が、サワサワと心を安らがせる音をたてる。
深緑の木々が茂る森の中は、木漏れ日が差していて、明るくて気持ち良い場所だ。
しばらく進むと、地面が掘り返されて土が散らばっている場所があった。
「イノシシのヌタ場かな。土が乾いてないから近くにまだいるかも」
ヌタ場とは、イノシシなどが身体の表面に寄生した虫を落とす為に、転がって泥を塗り付けた場所。
時間が経てば泥は白っぽく乾いてくるけど、ここのはまだ充分な湿り気がある。
「さすが本好き、詳しい~」
「というか、俺の実家もイノシシ多い地域だからね」
「僕の実家の近くも多いですよ。友達が愛車にイノシシアタックされて泣いてました」
モチが褒めるので田舎な実家の事を話したら、もっとデンジャラスな地域だったE原の実家。
「イノシシアタック…」
モチが鼻の穴広げて呟く。
被害を想像して、ちょっと動揺したらしい。
車がベッコリ凹むイノシシアタックは、山間部ではたまにある事故だ。
ちなみに、北海道ではそれと似たエゾシカアタックがあるよ。
ガサッ
話してたら出て来た、ヌタ場の主。
掘り返された穴から大きいだろうと予想してたけど、やっぱりデカイ。
モチとE原は後ろに下がり、E原は早々と自己防衛のため防壁を張る。
「じゃあ~やってみよっかイノシシ狩り」
言いながら剣を抜いて構える俺。
1頭なのか、仲間がいるのか、最初は様子見。
「ブヒッ!」
イノシシがこっち向いた。
ダダダッ!と突進してくる。
その牙で切り裂こうと襲いかかってきたけど…
スカッ
…見事にはずれた。
「ブヒッ?!」
言葉は分からんけど、イノシシ驚いたっぽい。
また襲ってきたけど、やっぱり当たらない。
「ブヒーッ! ブヒーッ!」
怒ったっぽい。
その声に呼ばれたらしく、新たに3匹出て来た。
合計4匹で次々にイノシシアタック、そしてスカる。
「ブギィィィー!!!」
激怒したっぽい。
4匹で俺をタコ殴りにしようと取り囲んで、距離を詰めてくる。
残念だけど、それはこちらにとって、おまとめ攻撃のチャンスなんだよ。
「爆裂魔法!」
モチの範囲攻撃、炸裂!
うん強い。イノシシも一撃だ。
「イノシシアタック、当たらなければ、どうという事はない」
カッコつけて、剣を鞘に納めながら言ってみた。
倒したの、俺じゃないけどね。
むしろこの剣、抜いただけで使ってないけど!




