第32話:はじまりの書
図書館に隠された禁書の閲覧室で、俺が最初に読んだのは【はじまりの書】。
読む前から気になっていた事がある。
上司から部下まで大人数揃って転移されたこの世界。
猫型獣人しかまだ見かけてない。
創作の世界みたいに、ヒューマンとかエルフとか他の種族はいないのか?
とりあえず、最初に読むならコレと薦められた本を開いてみる。
【はじまりの書】より
原初、神は「ニンゲン」を創り、知恵を与えた。
ニンゲンは道具を創る事を覚え、やがて文明を築いた。
彼等の文明は驚くほど早く発展し、栄華を極める。
ニンゲンたちは、他の生き物たちへの影響を考えない。
文明の発展の陰で、多くの生き物が滅びていった。
神はそれを憂えて、ニンゲンを戒めようとした。
けれどそうする前に、彼等は自滅してゆく。
欲を極めた一部のニンゲン同士の争いが、世界を巻き込む戦争を呼ぶ。
ニンゲンは、自らが生み出した物によって、この世界から消滅した。
次に神は「ネコ」を創り、知恵を与えた。
しかし、ニンゲンの失敗を知る神は、文明の発展に抑制をかけた。
自然と共に生きるように。
戦争を起こさないように。
この書は、ニンゲンと同じ過ちを犯さぬ為の知識として、神霊タマ・ヌマタに託す。
「………ニンゲンて…」
読み終えた本をパタンと閉じて、しばらく呆然としてしまった俺。
社内異世界ツアーみたいに転移してきた人々。
そのメンバーの中で、髪と目の色や顔立ちが日本人離れしてしまった俺やモチたち。
占い師ジャミは、俺たちがこの世界の住民の生まれ変わりだと言う。
でも、水晶玉に映っていたのは、猫型獣人ではなく、今の姿に近い人間の容姿だった。
モチが前世から継承したという「爆裂系魔法」は、現代のこの世界では他に使える者はいない。
俺が前世から継承したユニークスキル「完全回避」も、他に使える者はいない。
それって、俺たちの前世は前の文明の「ニンゲン」って事だろうか?
「俺の前世って前の文明のニンゲン?」
「ん~、それとはちょっと違うよ」
聞いてみたら、タマが微妙な答えをくれた。
「まあ、ここにある本を読んでいれば分るけどね」
と言いながら、タマが片手で空中に円を描くと、そこに水晶玉が現れた。
そこには、以前ジャミの水晶玉に映っていたのと同じ、青い髪と瞳の子供が映っていた。
でも風景は前回と違い、前回は一緒に居た赤い髪とピンクの髪の子供は映ってない。
「これが君の前世。ほら見て、一緒に今の文明の人がいるでしょ?」
タマに言われてよく見れば、確かに二足歩行の猫が服を着たみたいな獣人が一緒に映ってる。
「つまり、君は今の文明に生まれた人って事だよ」
ニンゲンが絶滅した後の文明に生まれたのに、ニンゲンの容姿?
それが何故なのか、もう少し本を読まないと分からない。
「次の本、読む?」
「明日また来るよ。この本って借りて行く事は出来る?」
「いいよ。君の双子はここに入れないみたいだから、持って行って見せてあげて」
タマの許可をもらって、俺は【はじまりの書】を異空間倉庫に収納して持ち帰った。




