第29話:知らない黒猫
氷菓子パーティも終わりに近付く頃、俺はふと気付いた。
獣人の生徒たちも学園長たち先生方もみんな食べに来たみたいだけど、来てない子がいる。
図書館見学の時に会った、黒猫獣人の子。
男の子か女の子かも分からない。
猫型獣人は体つきに男女差がほとんど無く、性別が見分けにくい。
図書委員だったのかな?
ふと気付いたらいなくなってたから名前は知らない。
図書館の司書さんは来てる。
司書さんはフサフサ長毛の灰白斑猫さんだ。
「司書さん、図書館にいた黒猫の子は来ないの?」
俺は司書さんに聞いてみた。
「え? 黒猫の子? 誰の事?」
司書さんがキョトンと首を傾げる。
「えーと、俺たちが図書館見学に行った時に奥の方にいた子です」
「あの時は君たちしかいなかったけど」
司書さん、あの子が中にいたのを知らなかったらしい。
図書館は司書さんがいる受付の前を通るから、見かける筈だけどなぁ。
「黒い毛色の生徒なら今来てる子たちで全員だけど?」
司書さんが数えるように指差す先にいる黒猫獣人たちは、俺が図書館で見かけた子より大きい。
今ここにいるのは黒ヒョウみたいなやや筋肉質で厳つい顔の体育会系男子ばかり。
図書館にいたあの子は華奢で、まだ仔猫みたいなあどけない顔で可愛かった。
「ん~、もっと小柄で、俺の肩くらいの身長の子だよ」
「そんな子は今の在校生にはいないなぁ」
…あれれ? どういう事??
「え~? じゃあ誰だったんだろ? 図書館の奥に居たけど」
「何色の本がある辺り?」
俺が首を傾げてたら、司書さんが聞いてきた。
「棚の本には黒い表紙に金の文字でタイトルが書いてありました」
「?!」
って答えたら、司書さん何故か凄いビックリしたみたいに固まって、シッポが逆立った。
司書さんのシッポ、長毛だから逆立つとタヌキかキツネみたいに太くなる。
「黒地に金文字…って、そのコーナーは普通は入れない筈だけど」
「………えっ?」
今度は俺がビックリする番だった。
そういやあの子、「ここまで入って来れたから、読む資格がある」とか言ってたような?
つまりそれって普通は入れない場所って事?
「そこに黒猫獣人の子がいて、俺もそこに入れたんですけど…」
「………」
話したら、司書さん真剣な顔して考え込んでる。
「放課後、図書館に来てくれる? 試したい事があるから」
司書さんに言われ、俺は放課後に図書館を訪れる事になった。




