第14話:学園内見学その3.体育学部
美味しい肉じゃがで空腹が落ち着いた後、案内してもらったのは体育学部。
日本の学校の体育で習う事だけじゃなく、異世界ならではの剣術とか武器を扱う技術も学べるらしい。
冒険者を志す子供たちが入る事も多いそうで、ここも人気の学部で複数クラスがある。
よく見れば、うちの会社の人たちも多いな。
格闘ゲーム好きが集まってるみたいだ。
「武道館でI上くんが練習試合するみたいだよ」
「お!面白そう」
「行こう行こう!」
カジュちゃん情報に食い付くモチと俺。
I上は同じイベントチームの大学生バイトで、180cm超えの長身に骨太の割とガッチリした体格だった。
力持ちだが敏捷度は低く、ドジなところもあって、たまに会社の備品を壊してカジュちゃんに怒られてた。
彼も異世界で若返り子供に変化したけど、骨太な体格のイメージは残ってる。
子供の姿になったら敏捷度は上がる筈だけど、素早そうな猫型獣人との対戦なんてついていけるのかな?
興味津々で見に行った【武道館】は、日本にあるアレとはデザインが違った。
円形闘技場っていうのかな?西洋にあるような建築物。
それに屋根が付いていて、その屋根から風が吹いてきて、中の空気が澱まないようにしてある。
他の建物の中より室温が低いのは、運動するための施設だからかな。
中ではI上が猫型獣人と向き合って、対戦前の一礼してるところだった。
日本ではいつもかけてた黒縁眼鏡をかけてないから、別人みたいに見える。
「あ、M本係長だ」
ってモチが言うから気付いた。
審判はイベントチームの上司、M本係長だ。
社員さんたちは元の姿と変わってない。
「今は体育学部の先生だよ」
カジュちゃんが教えてくれた。
元々ゲーム大会で審判やってた係長は、場慣れしてる感じがする。
始まった練習試合、先に仕掛けたのは猫型獣人。
床を蹴って一気に距離を縮めると、猫パンチを繰り出した。
爪は出してないけど、人間サイズだから打撃力はありそう。
I上はそれを何発か避けた後、最後に相手の腕をガシッと掴んで、ブン投げた。
獣人は猫らしく空中で回転して軽やかに着地して、また距離を詰めると今度は猫キックを仕掛けた。
I上はその足を掴むと、身体を捻って相手を床に叩き付けた。
床、というか土がむき出しで地面と変わらない。
土煙が上がった。
その土煙がおさまった後、対戦相手の獣人は倒れたまま動かないので、どうやら気絶したっぽい。
審判のM本係長もといM本先生が、I上の片腕を掴んで挙げさせ、勝利を宣言した。
「…I上がこんなにカッコイイ筈がない」
モチが鼻の穴を広げて真顔で言った。
予想外の展開に動揺したっぽい。
「I上くん、子供の頃はカッコ良かったのね」
カジュちゃんが感心した様子で言う。
っていうかアレだ、異世界補正。
異世界へ来ると能力が上がるという、創作ではほとんどお約束のアレ。
なんで分かるかっていうと、さっきの対戦の獣人の動きもI上の動きも、全て視えたから。
俺も異世界補正かかってるな。
多分みんな強化されてるんだと思うよ。