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ごーお! おーわり

 

 バアン!!


「お兄様! 行きますわよ!!」


 今日もザックはエフィリナに拉致され、ただいま空の中の精霊の国である。


 精霊たちと空魚(くうぎょ)が空を舞う美しい国である。手を離すと落ちるので、ザックは今日もエフィリナにしがみついていた。


「なんでぇ!? なんでぇ???」


 と、混乱しながら。


 ようやくエフィリナとロンヴァートがまとまって(ザックのおかげ←後日過労で入院した)、明日はようやっとの結婚式だというのに、なぜまた自分がエフィリナに連れられてこうしているのかザックは理解が出来なかった。


「この国にしかない、しかも今日しか咲かない花があるって女神様が教えてくれたの! それをブーケにするわ!」


「なんで殿下と来ないんだよ!?」


 尚更だとザックは思った。

 花嫁のブーケのために花を摘みに来たのであれば、尚更自分でなくて殿下と来るものだと思ったのだ。


「なんでって、なんで?」


 ザックの手を握りながら空を泳ぎ、エフィリナがきょとんとした。


 なんでってなんでってなんで? は、こっちのセリフだよ……。

 ザックは溜め息を垂れ流した。


「もうこれからは俺ではなく殿下と一緒に来なよ。……人妻なんだから、従兄妹といえども、だめだ」


「ロンヴァート様は帰る場所だもの。お兄様とは違うわ」


「いや、だから、これからは殿下と……」


 ザックが言葉を重ねようとしたのをエフィリナは遮った。


「もしかして、女神様が言ってたの知らないの? お兄様は私が(自分)を失わずにすむ『人間である理由』なのよ?」


「……は?」


「私の魔法は強いの。時々、人間から『人間でない者』に引っ張られてしまうのよ。周りが何も見えなくなって、目的(欲望)を果たすために何でもしてしまいそうになる。でも、後ろを向けばお兄様がいる。腰に必死にしがみついてる時もあったけど、いつも手を繋いでくれていたでしょう? その温もりの先にお兄様がいると思うと、自分が『お兄様と血の繋がった人間』であることを忘れずにいられるの。もし私が人間じゃなくなったら、女神様は私を討伐する勇者を選定するそうよ」


 それって、何百年に一回現れるという魔王なのでは……。

 ザックは思いもよらぬ魔王の誕生理由に、人間の考えとは相容れぬ『神の気まぐれ』を思い知った。動揺を隠しながら一言だけ絞り出した。


「……人間の自覚があったとは」


「ふふ、そうなの。お兄様がずっと私を人間側に留めていたのよ。女神様も感心していたわ。お兄様ほど私に耐性がある人間はいないって。私が魔法を使っている時は並の人間なら正気でいられないほどの神気が出ているのですって。女神様は「色々力を詰め込み過ぎちゃってゴメンね~」って言っていたけど、どれだけ私のこと好きなのかしらね。そんな私の側にいて平気な人間は数えるほどしかいないのよ。中でも、お兄様は側にいてくれて、叱ってくれて、私の話を聞いてくれた」


 ふわりとエフィリナが雲の上に降り立つと、ザックの手を握って横に立たせた。


「お兄様は永遠に私の大切な家族なの。ずっと、失うことなく、ずっと」


 そう言ってエフィリナは、ザックの手を握ったまましゃがみ、足下に咲く小さな花びらがいくつも重なる花を一本指差した。


 形は雨の季節に咲く花に似ているが、キラキラと虹色に光を反射する不思議な花だった。


「お兄様」


「……なんだよ」


「私のために、摘んでくれる?」


「ちくしょうが」


 ザックは目から溢れる水分を袖で乱暴に拭うと、丁寧に花を雲から引き抜いた。


 すると、花びらが鮮やかな青紫色に変化した。


 ザックの瞳の色だった。


 その花びらを無言で見つめたザックは、やがてエフィリナに差し出した。


「幸せになれ」


「もちろん」


 ザックはエフィリナのことを誰よりも知っている。

 物心ついた頃からずっと一緒にいたのだから、この世の誰よりも知っていると言っても過言ではない。

 エフィリナは感情と欲望に素直で、努力と労力を惜しまない。破天荒で猪突猛進だけれども、伯爵家の娘として、人の子として、人間社会のルールを重んじてもいたのだ。

 ロンヴァートのことがいくら大好きでも、本人の心をねじ曲げてまで結婚しようとは思っていないことも、ロンヴァートがエフィリナではない女性を選ぶ可能性を潰すようなこともエフィリナはしなかった。その身に有り余る力を何も使わずに、自分の努力で王子の側近になり、ただただ愚直なまでにロンヴァートに愛を告げるのみだった。


 そのエフィリナが、ザックだけは失いたくないと言った。


 結婚相手にと考えてしまえば、貴族としての責務が(しがらみ)となり、叶わないかもしれない。

 家族であれば、たとえ離れていても、お互い伴侶がいたとしても、ずっと、共に()れる。

 だから、エフィリナの中でザックは『お兄様』でなくてはならなかったのである。

 そう、無意識に心が防衛したのだろう。

 意識の外でザックに恋することを自ら封じたエフィリナが、ロンヴァートに恋をしたとしたら。

 ロンヴァートの次点。

 ザックはずっと自分をそう思っていたのに、エフィリナの中でぶっちぎりの一番だったとしたら。心情が複雑過ぎて、泣けた。


 いや、夫になりたかったわ。


 ザックは心の中でそう突っ込んだ。


 やりたいことがあったら真っ直ぐに突っ走って。

 その心はいつも大切な人を守るために怒りをまとい。

 時折、卑怯でずるいこともするが、ただひたすらに一人の男を想い、ひたすらに家族を大切にする、女神に愛されし人間。


 それがエフィリナだった。


 青紫の花びらにキスを落とすエフィリナがあまりに幸せそうだったから、ザックは嬉しくて悲しくて悔しくて愛しくて、涙が止まらなかった。


 自分がエフィリナの側にいても平気なのは、エフィリナにとって必要な人間だと女神が認めてくれたのだろうとザックは思う。

 陳腐な言い方をすれば、愛、故に。

 女神に愛されしエフィリナを(おそ)れず、害せず、温もりを与え()()として正しく導く存在。


 この愛はきっと永久(とことわ)


 フラれたのに報われたことでザックの心はとても満たされて、また泣いた。







 翌日のとても晴れた日。

 エフィリナはロンヴァートの妻になった。

 この世のものとも思えない美しい花嫁衣装に負けないくらい美しい笑みを浮かべた花嫁は、神々とかつて戦ったドラゴンに見守られ、愛する兄の祝福を受けた花をその手に持ち、愛する男の胸へと飛び込んだ。


 式場の最前列には、感極まって回りが引くほど泣くザックの姿があった。

 娘を嫁に出す父親よりも泣くザックの側には、泣くタイミングを逸してしまったエフィリナの父と母と兄と弟が苦笑して寄り添っていた。


 兄、本物いるじゃん……。


 会場の皆が心の中でハモったのは言うまでもない。







 ロンヴァート王とエフィリナ王妃は若くして結婚し、すぐに年子で三男二女の子宝に恵まれ、大変仲睦まじい王家として大陸中に名を轟かせた。


「お兄様、行きますわよ!! 海の上の大樹が実をつけたんですって!! (とろ)けるように甘いそうですの!!」


「おじちゃま、いくよ!!」


「「「「よ!!」」」」


 そう言って王妃と王子王女たちに拉致されるザックの姿もまた、この国の名物として大陸中に知られていった。


 時代に数人しかいないとされる神に愛されし子だが、稀有(けう)なことに、王と王妃の子たちもまた、神に愛されていた。

 父であるロンヴァートと母の従兄のザック、それから、遅くに恵まれたザックの一人娘の温もりが、彼らを人間に繋ぎ止めていた。

 特に三人の王子はザックの一人娘にゾッコンとなり、婚約をめぐって争いが勃発。世界の滅亡三歩手前まできたが、「いい加減にしろ」とザックが三人に拳骨を落として終息した。

 ちなみに、後で国王夫妻にもザックは雷を落とした。「娘は生まれてまだ三ヶ月だ」と。


 王妃たちに拉致される度、ザックの「なんでぇ!?」という叫びが響き渡り、王の「気を付けて行ってらっしゃ~い」という、留守番が定着して連れて行ってもらえない諦めの向こうにたどり着いた微笑みは、この国が平和である(あかし)として、民たちにセットで尊ばれたとか憐れまれたとかオモシロがられたとか。



読んでくださり、ありがとうございました。


全五話、いかがでしたでしょうか。


エフィリナはいつも全力で幸せ。

ロンヴァートはいつもエフィリナを追いかけて「あああああ゛」と言いながらも幸せ。


次男であるザック君は結婚せずに領主のお兄さんの補助をしていましたが、三十手前で九歳年下のしっかり者に狩られ、遅い結婚をします。ザック君の奥さんは『ひめ様』ごとザックを包み込む懐の深さ。


彼はどんなに苦労しても泣いても、ふんわりといつも幸せ。嬉しい時楽しい時はもちろん幸せ。


幸せはきっといつも自分の中に転がっていたり隠れていたり。

幸せとか満ち足りるとかって、なんだろうと思って書きました。


では、また別の作品でお会いできたら嬉しいです。

ありがとうございました。

m(_ _)m


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