あの日。
初めてなので読みにくかったらごめんなさい。
「叶くん…」
聞き覚えのある声だった。
叶くん、と僕を呼ぶのは今まで出会ったなかでこの子しかいない。
この子と会うのはあの事件以来だ。
高校二年生になってやっとバイトを始めようと面接に来た喫茶店で、まさか再会するとは思わなかった。
「久しぶり…。元気だった…?」
なんて声を掛けたらいいかわからず、ぎこちなくなってしまう。
「うん、なんとか。叶くん、私のこと覚えてたんだね。やっぱりあれのせいかな…?」
気まずそうにこの子が言った『あれ』とは事件のことだろう。
この子は、『海砂星空』という、いわゆるキラキラネームで小学校の頃から目立っていた。
ただ、彼女は勉強も運動もできてきれいな顔立ちをしていたおかげで悪目立ちはしなかった。
むしろその逆で、学校中の人気者であるほど性格も何もかもが完璧だった。
でも、そんな彼女でも水泳だけは苦手だといって授業にも参加しなかった。
彼女の不思議なところはほかにもある。
一年中黒のタイツにカーディガンを着て、どんなに暑い日でも体育の時間は長袖のジャージを着ていた。
噂では、彼女は日焼け対策だと言っていたらしい。
おかげで彼女は、不思議ちゃんだとか美意識が高いとかでより注目を集めることになった。
僕と彼女の関係といえば、『たまたま席が隣になったクラスメイト』で、授業や給食の時間に会話をする程度だったが、みんなが僕を『安川』と苗字で呼ぶなか、彼女だけが『叶くん』と呼ぶことがとても印象的だった。
中学二年生の夏だった。
ちょうどその頃、体育の担当の先生が産休に入り代わりに男の先生が担当になった。
その先生は僕の所属している陸上部の顧問で、彼がとても厳しいことを知っていた僕を含む部員たちは、プールの授業なのに完全にテンションが下がっていた。
渋々水着に着替え、冷たいシャワーを浴びていると、海砂がジャージ姿で先生に声をかけていた。
やっぱり授業出ないんだ、と思いなんとなく彼女と先生の会話を聞いていた。
「先生、具合が悪いので見学してもいいですか?」
「具合悪そうに見えないぞ」
さすが頭の固いうちの顧問。
見学なんて許さないだろう。
前に部活で無理やり練習に参加させられて倒れた部員がいたのを思い出した。
「でも…生理なんです。」
気まずそうに生理といった彼女に、男子生徒は当然反応し彼女をからかい始めた。
顔を赤らめ下を向いている彼女に先生は
「嘘つくな。着替えてこい。」と冷たく言い放った。
泣きそうな顔で更衣室に向かう彼女。
女子たちはそんな彼女を見て、かわいそう、先生最低、でもいくら日焼けしたくないからってそんなに嫌がらなくても…とコソコソと話していた。
たしかに、日焼け対策にしては度が過ぎる。
きっとなにか他に理由があるんだろう。
「海砂が戻ったら授業再開する。」と先生が言うので
彼女が着替えている間に僕らはシャワーと準備体操を済ませ、整列をした。
整列が終わる頃に彼女は戻ってきた。
泣きながら更衣室から出てきた彼女の姿に、僕たちは言葉が出なかった。
彼女は全身に無数の痣と傷があった。
肌の色がほとんど見えないくらい。
僕は開いた口が塞がらなかった。
気がついたらクラスメイト達が騒いでいた。
あれやばくない?どういうこと?なにあれ?
そんな言葉が飛び交う中、彼女は顔を伏せて静かに更衣室へ戻った。
その日はみんな授業なんかに集中できるはずもなく、先生も自由時間にするといってどこかへ行ってしまった。
体育の時間が終わり、教室に戻ると彼女の鞄や私物はすべてなくなっていた。
そして、彼女が学校に来ることもなくなった。
最後までお読みいただきありがとうございました。




