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ブラックホールを対処する。と言うがやる為の方法は幾つか有る。だが、脳筋回答としては、ブラックホールに吸い込まれる前に高火力でブラックホールの核を消し去れば良い。只、自然現象のブラックホールに対してそれをやるのは巨大惑星を消し去るのとサイズはともかくとして、質量的には変わらん訳だが、インフレまくって居る世界観の奴ならやれる奴も居る気はする。
それこそそれをやれるなら苦労しないよ、検案だが、一応理論上はね。それに方式上のブラックホールの核のサイズが天然物に比べると小さい為、防御貫通効果系付きの範囲高火力が出せる奴には達成出来る奴もある程度居るのだが。……ぶっちゃければそれを二回前の模擬戦争でオクタゴンさんの所にやられたのだ。本当ギリギリだったよ。
だから色々と禁止カードが設定されたのに、グランテさんは俺にもオクタゴンさんに対してもメタに成る物を用意して来た。……それが前回の結果な訳だが、それもオクタゴンさんの所の出したエネルギーの巨人にやられはした。まあ、どうせなんか追加で用意して来るだろうし、そもそも俺らが直接勝てた訳じゃ無いからな。次は先に潰しに来るのは目に見えている……。
さて、前置きは此処まで。さあ、ブラックホールの核をぶっ潰そうか。俺は蟻を二十階のマンションのサイズレベルに巨大化し、吸い込まれる勢いも載せて蟻に物理でブラックホールの核を何度もぶん殴らせる。
俺は蟻に掴まって居る訳だが、まあ、蟻は体重の二十倍の物を持ち上げられる。普通の人間サイズでも、数トンは持ち上げられるだろう……まあ、只の物理的な巨大化だと構造的な理由で蟻は自壊するのだから、科学だけでやろうとすると何も調整しないシンプルな巨大化だけでやるなら只の机上の空論なのだがね。エネルギーで補強はしているのだから何とか成って居るだけだし。……科学で同じ事をしようとしたら、自壊する理屈をどうにかしないとなのだよな……。
まあ、仮に蟻の体重を一万トンとすると二十万トンを持ち上げられる腕力に依るパンチのラッシュである。……うん、机上の空論と説明している自分でも言いたくなるね。実際、科学だけでは適切な調整無しには同じ事はやれない訳だからしょうが無いけど。と思って居たら蟻があと少しの所でブラックホールにより潰れた。そしたら大量な蟻酸がばら撒かれ、残りの核が溶け、後は此方の攻撃で何とか成った。
「……うーん、机上の空論的な勝利だな。科学だけでやろうとしたらただ単に蟻をコピペした物を巨大化させただけでは本来なら成立しない的な意味で」
「……風船的な補強材を大量に入れたから出来た、が、そんなに机上の空論的ですかね」
「科学に依らない回答では有るから」
「前提と成る理屈でとんでもの物は特に無いですけどね。特殊エネルギーが云々とか言うなら魔法エネルギーとか異能エネルギーとかを根拠にするやつ全部死にますし」
「それもそうか……」
「次はオクタゴンさんの所がやっていた対生成ビーム、と行きたい所ですが、シミュレーターに該当データが入って居ないので、通常のビーム避けでもやりましょう」
「……だが、ビームが撃たれたのを見てから回避出来る程速くは無いから、前回はそもそもビームの照準を合わさせないくらいだったな?」
「媒体化した生物を見てから回避が出来る様に盛れば良いだけです」
「……ふむ、せっかく色々と弄って別物に出来る力を使って居るのだし、やってみるか。性能向上は既に出来ているのだし」
そしてやってみたのだが、……俺が蟻を掴んでいる腕力が足りなかった故に蟻だけが避けて取り残された結果俺はビームに直撃した。生成した骨盾で防ぎはしたが……。
「駄目だな、こりゃ。対生成ビームは防御貫通してくるから、本番ならやられていた」
「……蟻に体を固定します?それとも腕を追加で生成して、腕力を補う方向で行きますか?」
「出来れば固定はしたくないけど、掴むだけじゃある程度ダメージくらって腕力を発揮出来ない時にビームくらったら詰むから固定する方にしよう」
そして蟻の体を一部弄る事で、コクピットの様な場所を造り、そこから外を見る事にする。……能力媒体化しているだけで別に蟻との視覚共有とかが出来る訳でも無いので視界が限定的に成ってしまう訳だが、外で掴んで居るだけだと蟻にビームを見てから回避余裕でしたのムーブをさせたら俺の腕力的な問題が出るからキツイし……。それで運用してみると粗方上手く行った。……十人くらいメンバーを一時的に抜けて貰ってこの運用が出来るでかい奴を十体くらい次の模擬戦争では導入するかね……。ひとまず今日の所は鍛錬を終了し、飯を食って寝た。
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次の日。相変わらず色々な検案が動いて居るが、今日はそちらではなく、本業の方を済ませたいと思う。基本的な事は他に丸投げ出来る様にしてあるが、俺の能力を利用した内容の物もあるしな。
俺は顧客から預かった髪の毛等の細胞をベースにIPS細胞を造り、それを成長促進させ、義手や義足、内蔵等を造って行く。……闇金とかで内蔵を高くで売るとか有る作品も有るけど、用意なんて楽勝なのだ。まあ、他の人にも此処までなら出来る。それに俺は少しだけ俺の細胞を移植した。これはセーフティとしての物に成る。要するに俺の能力媒体だが、昔それのおかげで助かった奴が居るため、能力媒体を入れているのがむしろ売りに成るとかなんとか。……まあ、造った義手や義足とかが俺への呪いのわら人形とかに使われても困るって感じで入れているので、俺が造る場合はセーフティの行使媒体として入れ込んで有る。……わざわざ呪いのわら人形に最適な物を入れるな?……そもそも義手や義足を生成しているのは俺の身体機能を応用した物だから、義手や義足だけでも十分そう言うのに使えてしまうからセーフティ入れないと不味いし、しょうが無い。
そして百個程造った所で休憩しながら考える。蟻の巨大化と能力媒体化に依る超強化。……無理なドーピングにはデメリットが付き物な訳だが、使い捨て出来るレベルの数が居る物が媒体の元だ。だから、デメリットを無視して運用してもどうとでも成る。……“本来なら”だが。……人数制限のルールの都合上、過ぎたドーピングで自滅展開とかが起きても代わりの補充は難しいし、シミュレーター内部でやる都合上、シミュレーターの演算処理の関係で、ステージに持ち込みではない微生物なんかも基本的に居るまい。
……そう言う物に耐性の高い特注存在を造る、とかは、運用目的的にペット虐待者的な評価をされても文句は言えないし……。
うーん人数制限ルール……。数の暴力を禁ずる為の物とは言え、やりたい事が結構制限されてしまうな……。とりあえず造った物を納品しとくか……。そして造った人体パーツを専用の容器に入れて納品しに移動したついでに、ワールシミュレーターが沢山有る場所に移動した。すると研究者達が雑談をしている。
「ワールドシミュレーターで記憶を消した人格コピーデータを使っての疑似ラーマーヤナを行う話がまた出ているが、良い環境が故にそれで良い結果を出せないと環境のせいに出来なくなる物なのだよな……」
「良い環境とは言うが、割と過酷だと思うがね。自分の能力構築を間違うとモブレベルの立ち回りしか出来ないし、あの環境で水霧が結果を出せた事は明確な例外と考えた方が良いのに……」
納品ついでに話しかけてみる。
「あの、すみません、納品に来たのですが……」
「あはは、すまない、変なことを話してしまった様だ。納品は確かに受け取った。サイン書くから少し待て」
「はい、確かに。疑似ラーマーヤナをまたやるって参加者居るのですか?」
「パラレルワールドの自分を見られる物と考えれば需要は有るそうだよ。……まあ、パラレルワールドの自分がリア充に成っても提供者側がリア充と=と言う訳では無いが……」
「……うーん、疑似的なパラレルワールドの自分が例え最強に成ろうが自分が最強に成った訳じゃ無いのですが……」
「自分の類似の性格の奴が主人公の話を見られるリアリティショー的な意味の只の娯楽として見るなら価値は有る。娯楽だよ、娯楽。……まあ、舞台調整を兼ねる研究として運営側も干渉を色々やらせて貰うがね」
「……結果のデータを抜き出してAIに転用するのは許可を取って居るのですか?」
「最初の参加の為の契約書を書く段階で、大まかな許可は取って居る。まあ、ワールドシミュレーター内部だからこそ通用する理屈で強い系の能力を使って無双している系は此方の世界に受肉させても残念な性能になり易いし、特注品と言うレベルな奴は少ないがね」
「運営側が止めるヤバイ奴って具体的に何が有りました?」
「……コンプライアンス的に不味い気がするが、条件を満たさない限り永続ループの満たすべき条件に破棄不可能な契約を大量に結ぶ事って奴が有ったな」
「えぇ……そんなの有りなのですか?」
「物理で相手は強かったし何回も倒して居たが、倒した時点でループをするから結果としてループを抜け出す為に契約で何もかもごっそりと奪われていたな、アレはエグかった……」
「うわぁ……ゲームだと選択肢が出るけどストーリー展開上実質一択の奴の流れで最悪な契約を散々結ばされるのか……」
「そうそう、ゲームで例えるなら提案を飲まないと他の行動を取れない形で行動のループが発生する奴。まあ、メタ創作的には物理で殴って脱出される奴だがね」
「そう言うのも無理だからループに成って居ると思うのですが……と言うかそれは運営側が介入して止めたのですよね?」
「止めたと言うかそれが起きたので潰した、が正しい」
「……ああ、契約締結までは行っちゃったからああ言う言い方ですか」
「ま、まあ、ね」
「本当アレですね」
「後は記憶を全部奪った上で、それが無かった体で偽りの記憶を植え付け、NTR、とか」
「……要するに記憶喪失の人に実は私は貴方の彼女でしたって実際は彼女じゃ無かった人が言う奴の極悪版ですか……」
「他にもヤバイ奴は有るけど言うのはこれぐらいにしとこう」
「ははは、そうですか……顧客データ見せてくれたりしませんか?俺が参加した際の人格コピー元の人とか知りたいのですが」
「……それを言うのは野暮って物だ」
「……もう既にその人と俺が知り合って居るとでも?」
「さて、如何だろうな。否定も肯定もしないが」
「……本人に名乗られても俺は多分信じないと思うので、確実なデータが欲しいのですがね」
「知ってどうする?」
「……その人と恋愛的に仲良く成りたいとかは特に無いのですが、……一応嫁の親戚ポジションの人扱いしても良いとは思うので、挨拶くらいはしたい所でして」
「……そうか、だが、駄目だ」
「……」
「そうそう、それはともかくとして、オクタゴンの所の奴もシミュレーター内部でのやばかった奴を確認に来ていたから、次回の模擬戦争もなんかヤバイ奴来ると思うよ。データに有る奴とそっくりそのままの奴が出るとは限らんがね」
「……不穏なフラグは止めてくれませんか?」
「別に予告無しにヤバイ奴がいきなり出ても良いならそれでも良いがね」
「……なら、俺も少しデータを見せて貰っても?」
「サーバーは五千そこら有って、疑似ラーマーヤナは数回行われているから、全部把握するだけでも骨が折れると思うが……」
「……なら、ヤバイ奴のピックアップをお願いします」
「答えても良いが、どう言う意味でヤバイ奴が知りたい?」
「……どう言うのが有るか把握するための確認で把握済み前提の質問ぶつけるのは止めてください」
「サーバー毎の最強能力だけをピックアップするとしても五千は有るのに漠然とした検索ワードを言われても、と言う話だが」
「……じゃあ物理でどうしようも無い奴でヤバイ奴を」
「敵側のみ一方的な当たり判定零とか幽霊系とか、超耐久とか構造的に物理が意味ない奴とか、色々有るがね」
「……なら、その中で最強の奴を」
「何を持って最強とする?」
「……もっとこう、融通を効かせてくれませんかね」
「ネット検索と同じだよ。検索対象が多すぎて具体的な検索をしないと関係ない奴も大量に引っ掛かって役に立たない奴だ」
「ですがそれでは結局総浚いしないと自分が自前で思い付いた範疇の奴しか知れないじゃ無いですか」
「同じ条件で彼方も調べて貰って居るから譲れないな」
「……人を大量に連れて来て総当たりさせても貰っても良いですか?」
「最低でも自分が参加した際に体感した能力数×五千×五、六回くらいは考えた方が良いけど、総浚いだと拘束時間はえげつなく成ると思うよ?確認した全部に一度に対策を打てるならともかくとしてだし、同じ物が出るとも限らないが」
「……自分が想像付く範疇を調べるだけじゃ余りやる意味無いのですがね……」
「そう言う事なら止めとく?」
「……今回は必要の無い対策に時間を膨大に取られるだろうし、止めときます……」
「そうかい、じゃあ納品された人体パーツを処理してくるから、それじゃまたな」
「……それでは失礼しますね」
そして帰る事にした。……露骨にはぐらかされたが、仮に一つのサーバー毎に百個他と被らない能力が有ったとしたら、百×五千×六、……つまり、三百万個の能力データ……次回使われるのはどうせ片手で収まる程度だろうに、三百万個の能力の対策を組む。……流石に無駄が有り過ぎるし、無理が有るか……。
さて、それはともかくとして、納品も済ましたし、今日はもう休むか。何をしようかな。……そうだな、知り合いにコピー元の人が居るなら知りたいし、知り合いの何人かにやんわりと鎌を掛けてみるかね?能力関連で聞きたい事も有るし、スカジさんに会いに行ってみるか。