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この世界はルド様によって造られた世界だが、ルド様はある理由から弱体化して居る。そのルド様は世界の住人にこの世界の問題を丸投げする為に後継者と成る勢力を四つ選定した。その四勢力は半年毎に模擬戦争を行い、勝者の勢力が以降半年間の代表としての振る舞いを求められる環境と言う物が出来ている。
只、敗者の勢力であろうと治世に口出しを出来ない訳でも無いので、此処で言う模擬戦争とは治世の上で自分の所属する勢力がやれる事の自由度を決めるための物に成る。その四勢力の内の一つの代表者が俺、即ち水霧浄土だ。前回の模擬戦争ではなんとか勝つ事が出来た為、全体の代表者を一時的とはいえやれて居るのだが、ルド様の弱体化が原因でルド様が抑えて居た奴らが好き勝手するように成り、今はそれの対処に明け暮れている。……まあ、ルド様の後継者が造る事で押し付けたかった事とは正しくこれなのだろうとは思うが後継者として相応の対価は貰って居るのでやめる訳にも行かないと言うね。
そんな俺は今シミュレーターの中で鍛錬をして居る。俺が持つ能力は対価が高く付く為、シミュレーター上でないと何回もやる対価を用意するのが大変だからだ。
その能力は身体機能を本来より自由に使う事。但しそれはコスト面のカバーをしてくれないので、それで大きな物を創りたければ相応の量のサプリメントとか食料とかの適宜の摂種が必要に成る。コストを相応にかければそれはもうヤバイ事も出来るが、シミュレーター上でなければコスト度外視でやる時以外は頼れない大技とかも有る。
食料周りを作れる能力とかの奴が居ればコストを自分で用意出来る為、追加で魔法や異能を得るならそれが最も現状の自分の力を嵩上げしてくれる物に成るだろう。参考モデルの実例としてルド様は対生成を根拠に食料周りを生成出来るそうなのだが、原料は塵埃や砂利等も有りなそうで、美味い味が付けて有れば元はそう言う物でも食えるのか? 問題は俺には割と命題で有る。食べ物の生成を習得した所で原料を気にしてそれを食えないとアレだからね。食料に選り好みして居る余裕が無い時にはそれでも食うしか無い訳だけども。
まあ、それなら今は良いや。体内のエネルギーと言うコストを使って五メートル位の大きさに巨大化からの体内の骨を過剰生成して突き出させてそれを地面に叩き付けて地面を叩き割る……と。うーん。これでも実際の能力の性能からすれば抑え目だが、身体機能を自由に使うだけなので対価は等価交換に成るから、今回のそれはコスト面では栄養価が多い物を事前に食料を暴飲暴食しておけばなんとかやれるだろうレベル。だから何なら能力に消費しないなら激太り間違い無しレベルを頻繫に食う必要が有る。物によっては通常なら致死量レベルの物も食うかも知れない……食料生成能力を取得しないとコスト面が馬鹿に出来ないレベルの重さに成るのは目に見えているのだ。だが、原料が塵埃や砂利か……。うーん……。
まあ、生成物の大きさを求めなければそこまでのコストを使わずとも色々と融通は効く。巨人化と言うと某作品が思い付くがアレとは違いちゃんと生成する物に大きさ相応の質量は有る。その質量の原因物質だけを大量に生成すると……。周りに重さ起因の重力場が起きるが、俺はその大質量の塊を全力で押し出し、移動させ、居る場所を範囲外にして凌ぐ。……そうは成らんのでは? 最初は俺もそう思って居た。身体の体重の原因物質が何なら世界で一番重い物質と変わらんと言う事実が有り、これはそれだけを生成した結果なのだが。と其処で身内の一人のケールハイト=スプリングスがシミュレーターの中に入って来て言う。
「外から見ていましたが、重力場を生成してその発生源を敵に殴りでぶつけるとかもう意味が解りませんね」
「とは言え、自分が重力場の重力で潰れない程度のそれじゃ無いとそもそもこれは成立し無いから、要は耐久力が自分より弱い奴にしか通用しないよ」
「あくまでも自分より耐久性が高い奴をそれで倒し切るのは無理だと言うだけで、敵への妨害や牽制としては十分すぎませんか?」
「生成してその場に配置するだけの奴でも無いと、そもそも自分が動かせるレベルの重さじゃ無いと無理だから、投げ付けに使えるのは精々数億トン、つまり、小惑星程度の重力場が限界値だな」
「いや、可笑しい事を言いますね?」
「早い話、凄く重い物を動かせるレベルまで筋肉を上乗せで大量に生成して自分の身体にして使えば良いだけだから」
「巨大化したら後はずっとそのままとは行きませんよね?」
「薬品で自分の身体にIPS細胞を大量に創り、それを起点に身体を生成し直してそれに移り小型化し直す。それが無理なら外付けの身体部分を物理的に切断する、の、二パターンかな」
「……滅茶苦茶ですね」
「別に何でもかんでも有りと言う話でも無いけどな。自分の能力と言えない部分の薬品でIPS細胞を造るのも昔から有る技術だし」
「只の人間が只の身体機能を使うだけで重力場を創り、それを敵に叩き付ける、なんて、余程世界観がインフレしてないと有り得ないと思いますが……」
「別に特殊な能力持ちなら有り得ない話でも無いと思うけどね」
「そりゃあ机上の空論で色々と出来るぜ、が、有りカウントなら腐る程に居るとは思いますが、原理的には只の人間に出来る事をして居るだけですし」
「魔法の素養だけは一応有るけれど、それはそれとしてまともに物理で出来る事も増やさないとだし」
「模擬戦争だと禁止カード扱いに成ったので急ぐ必要も無いと思いますがね」
「前回は勝てたけどギリギリでだし、ワールドシミュレーター内部と言う事を利用して重力場の物量作戦で何とかしただけでしか無く、現実世界でやるとコスト面的な意味で普通に負けるから強く成らないとね」
「なら魔法の素養で食料を造る奴を得るしか無くないですか?」
「加工しただけの塵埃や砂利を食えるかって話だが」
「それを言うなら誰かの生成物の魔力だの霊力だのを使う食べ物の生成能力だって極論他人の身体の分泌物です。そう言うのを言い出したら切りが無いので普通に食べるべきかと思います」
「……自然産の魔力だの霊力だのを使う奴なら良いだろ……」
「それについても食料への加工の段階で手が入って居ると思いますがね……」
「だとしても他人の分泌物よりかはマシだ。他人が調理した料理を食えない訳じゃ有るまいし」
「と成ると空間上に有るエネルギーを集めて食料に変換する魔法が欲しい、と」
「……それが有れば良いのだが、世界の仕様的な問題がね……」
「ああ、確か、自分由来以外のエネルギーが扱いとしてはアルコール入りの酒と同じと言う仕様でしたね。そう言えばエネルギーを他者に渡すタイプ全般、具体的に言えばバフ技や回復技も潰れますよね、これ」
「流石にそれは慣れれば良いのじゃ無いかな……」
「なら塵埃や砂利を加工して食べるのも慣れろとしか言えませんが」
「あはは、まあ、そうなのだが……まあそれはそれとして鍛錬もこれくらいにしてなんか遊びに行かないか?」
「……仕事も有るのですが、其方は良いのですか?」
「いやまあ、仕事にも一応関係有るから。具体的に言えば、最近行って無いから張りぼて都市に行こう。それでナノマシン関連の情報を調べたい」
「解りましたけど、あの場所は色々と魔境だと思うのですがね」
「良いよ、別に、行こうぜ」
「はいはい、解りました、行きましょう」
ちなみに張りぼて都市とは巨大な3Ⅾプリンタで造られた都市で爆破解体前提の映画撮影スタジオが都市に成ったみたいな場所だ。色々な物が揃っており娯楽としても質が良い場所で有る。まあ、今回の目的はナノマシン技術を使った光学迷彩をベースにした、コスプレ地区で有る。そして現地へと移動して、辺りを見回す。
「……いつ見ても凄いクオリティだな。不気味の谷なんて無いかの様だ」
不気味の谷に付いては詳しく知りたいなら各自調べてくれ。それを聞いたスタッフが話しかけてくる。見た目が奇抜なのでナノマシンに依る見た目変更だと分かるが、見た目自体は見事な物だ。
「お、兄さん、お目が高いね。どうですか?私達は一応広告塔の役目も有るので、それはありがたいのです」
「ああ、見た目は広告用の特注品か。どうりで……美女扱いされるエルフの彫像レベルの見た目だな」
「まあ、物扱いとか褒め方が微妙なのは頂けませんが、褒め言葉として受け取っておきます。ですがお連れさんが居るのに私と話していて良いのですか?」
「それはアレだと思うが、広告と言うなら造り主は誰かな?」
「おお、お客さんでしたか。それでしたら付いてきてください。受付に案内します。お連れさんもどうぞ」
「おお、助かる」
其処で移動しながらケールハイトが小声で耳打ちをして来る。
「いきなり何のつもりですか? その店に行く意味有ります?」
「ああ、色々と興味が有る」
制御力不足に依る違和感が基本的には生まれないレベルの見た目を常時貼り付けるナノマシンのプログラミングとか明らかにヤバイだろう。出来ればスカウトしたい所だが。そして場所を移動し、あるビルの所に行くと……其処は至る所に攻撃に使える極小のナノマシンが浮遊して居る魔窟だった。エルフの見た目の人に話しかけてみる。
「これは穏やかじゃないね」
「周りに展開して居るナノマシンの事ですか? 仕事柄美女の見た目に成って居る人が大半なので、其れ目当てのストーカーや暴漢も偶に来ますから、それ対策です。さて、受付をしますのでお名前をお聞かせ頂いても?」
「ああ、水霧浄土だ」
「……ええと、聞き間違いでしょうか? 何故治世の重役がこんな所に来て居るのでしょうか? いえ、恐らく名乗って居るだけの別人ですね。承りました、では此方でお待ちください」
「……いや、本人なのだけど……って聞いて居ないな、これは」
ケールハイトは笑うのを軽くこらえながら言う。
「そもそも見た目を自由に変えられる場所で、治世の代表者の名前を名乗るとかロールプレイに見られたと言う事ですね。事前にアポイントを取らなかったのもアレですし」
「そりゃあ突発的だったのは有るから何とも言えないな……。まあ、良い。誤解は後で解くとしよう」
そしてナノマシンの大量に浮かぶ待合室で二十分くらい待った所で名前を呼ばれて部屋を移動すると、……其処には超美形の女性モデルの見た目の人が居た。いやまあ光学迷彩で見た目を創っては居るのだろうが……。その人は言う。
「さて要件は見た目の変更の話でしょうが……水霧様の見た目にわざわざ成れる物が自前で有るのにわざわざうちに来ないで下さいよ」
「それ誤解、俺は水霧浄土本人だ」
「ああ、確か、百人程分身創って活動して居たのでしたね。水霧様の見た目が嫌に成りましたか? それでどう言う見た目が宜しいでしょうか」
……事前にアポイントを取らなかった俺も悪いが、碌に信じちゃ居ねーな、これは。仕方ないので腕を前に突き出して触る様に言う。ナノマシンで見た目を変えて居る場合、身体の周りをナノマシンで覆って居るので、見分けたいならナノマシンの制御が間に合わないレベルに突発的な形で触れば良いのだ。そしてその女性は不意打ちで俺の肩を軽くさすった所で俺が本人だと気付き、慌てて謝罪を入れて来る。
「すみません。権力者に化けて色々として来る輩も居る者でして、基本的には権力者の名を騙る人は信じない事にして居るのです」
「……なら、そうだな、一度場を改めようか?」
「いえ、結構です。それでご用件は何でしょうか?」
「単にスカウト、かな。クオリティがヤバイ事に成って居るし」
「断らせて頂いても宜しいでしょうか? 現状でも十分稼がせて貰って居るので……」
「……そうか……その見た目が作品ならナノマシンのプログラミングの技量が凄そうだから高待遇は出来そうなのだが……」
「まあ、見た目を創って商売する仕事柄なので見た目で判断される事は仕方無いですけど、そう言う方とは仕事での関係以上には成りたくないですね」
「見た目しか見せて来ないのに見た目しか見て来ない奴は恋愛対象外とか言われても、門前払いレベルで拒絶して来て居る訳だが」
「見た目で依って来る人は多い物なので仕方無いです」
「……化粧をして居る姿しか見せて居ないからそれを好きだと言って来ても論外です的な事言われて居る訳だが、それ以外も見せる迄は此方からしたら化粧をした姿が全てだろ」
「……口説きに掛かって居るのですか? 貴方は既婚者ですよね?」
「……それはそうだが、要は化粧無しの姿を見せない事で一律で門前払いをして居るのに相手側が悪いみたいに言うなよ……」
「そうしないと余計な人迄寄って来るので仕方無いです」
「……けどさぁ、なんとかならんのかね……」
「あくまでも仕事ですので」
「……なら仕事として言わせて貰うが、権力者の後ろ盾とか欲しくない?」
「それについてはルド様の後ろ盾は有るので問題ないです。そうでないとそもそも張りぼて都市に拠点を構えられませんので」
「ふむ、ならそうだな、これに興味は無いか?」
そして俺は薬品を腕に掛けて、腕に大量にIPS細胞を造りそれから小型の人型を創り動かす。
「へえ、これが魔法と言う奴ですか。これを見せてどうしたいのですか?」
「魔法では無いがそれは良いや。現物としてのグラフィックの元ネタをこれで用意する。これで協力を出来る」
「……ふむ、グラフィックデザインの手前を減らせる物の提示、ですか。しかし滅茶苦茶しますね」
「やるのに薬品を使っては居るが、あくまでも人体の機能を使っただけだよ」
「水霧様、偶に絵空事を堂々と言って居るとか言われませんか?」
「心外だな。別に摩訶不思議な真似をするだとか、片手間で天変地異を起こせる的な事を言って居る訳じゃ無いのだが」
重力場の生成とかも含めての話として、身体機能で出来る事をそのままするのでは無くて、出来る事を一つ一つ精査して噛み砕いて、その中の部品を極端にやって居るだけなのだが……。そもそも人間には身体機能を通常使えるレベルを超えて自由に使うと言う事自体が無理なので絵空事に聞こえるのだろう。じゃあ何故それを俺が使えるかは、他の奴が関わるから話すのは後回しにするけども、原理自体は圧倒的に通常の物理で有る。
「小型の人型を生成し、創るのが摩訶不思議な事で無いとでも?」
「理屈の説明が放り投げられた創作の魔法や異能よりかは明確に科学だが」
「……聞くのは止めにします。どんな感じに成るかを見たいので、早速一つ創って貰います」
「おう、いいぞ。どう言う物を作れば良い?」
「そうですね。今の私の見た目の人型を創ってください」
「……別に良いけど、バストサイズとか聞くのはアレだし、今回の場合はそう言うのは目測だからそう言う差異は勘弁してくれよ?」
「じゃあお願いします」
「少し待て、これを飲んでからだ」
そして俺は栄養価がかなり凝縮されたサプリメントを幾らか飲み、布を用意した後に目測でモデルの見た目の人を生成し、布を被せた。それを彼女は見て言う。
「……人体錬成なんて錬金術だとかなり難易度が高いとか言うのですがね」
「それとこれとは難易度が違いすぎる。錬金術は零から身体を造る試みるだとしたらこれは既存の身体を使っただけだからな」
「さっき水霧様が飲んだ薬品が有れば私にも出来ますか?」
「あれ自体は超が付くレベルに栄養価の高いだけのサプリメントだから、能力で体内のエネルギーを使う系統持ち以外が飲むと激太り間違い無しだしやめた方が良いぞ。物によっては致死量以上含まれる分だけ飲む事に成るかもしれんし」
「……だとしてもそのサプリメント自体が創作で出るレベルの代物なのですが」
「まあ、それは言えているけど、それで、どうだろうか?」
「解りました。良いでしょう。ですが、日を改めて後日にしてください。それで改めて証明をしてくれれば良いです。では最後に名乗りましょう。私の業界での通り名はミラージュ=ペンタクルです。これからよろしくお願いします」
「おう、よろしく、で……最後に、この身体なのだが、どうしようか」
「……締まりませんね。ですが、必要ですよね。能力で一時的に出しただけの物じゃ無さそうですし、私共が回収させていただいてもよろしいでしょうか? グラフィックの研究に使えそうです」
「まあ、前金としてそれくらいなら良いか。じゃあ解った。そう言う事で良い。但し、ちゃんとした肉体だから、処理するなら俺にまた連絡するか、ルド様に頼ってくれ。そうじゃないと誤解されるだろうから」
「解りました。じゃあ後でルド様に連絡を取って見ます」
「じゃあ取り敢えず俺らは帰らせて貰う。明日また来る」
「またのお越しをお待ちしています」
そして俺達はペンタクルさんの所を後にした。