疲れてしまいました…。
その1
私たちは、1日の中で必ずどこか疲れている。大人になるたびに、その疲れは加速していく…。私は、小学校からいじめられてきた。最初はとても悲しかったが、それが起きる度、ショックで虐められていた記憶はほとんど忘れてしまった。たまに断片的に思い出してしまう程度だ。大学生になり、オンライン授業に追われる中、バイト先で何軒かパワハラに合い、人間関係がハチャメチャになった挙げ句、いじめがフラッシュバックして、職場で倒れた。そんな事を2,3回ほど繰り返し、今は親のスネをかじりきって、実家で生きている。就職するかは、まだ分からない。
頭の回転は良い方なのか、1日のノルマは大抵、午前中に終わらせてしまう。
「疲れた、疲れたよ。もう、どうしたら良いのか、全然わかんない…。」
私は突然流れ出した、目の洪水をクッションに押し付け、泣いていた。
そのまま数時間が経ち、夢の中で彼に出会った…。
気づいたら、あたりいちめん白い場所にいて、目の前には、父くらいの年齢っぽくみえる男性が立っていた。
「こんにちは、リンちゃん。」
「こっ、こんにちは。」
「私は、疲れてしまいーマン。あなた相当、疲れちゃってるね」
「疲れてしまいーマン?なんで、私の所に出てきたの?」
「僕は見ての通り、いつもすごく疲れています。」
全く疲れは目に見えないが…ま、いいや。
「ですが、僕より疲れている人がいると、僕のかけているお疲れサングラスに、疲れている人の場所が映し出されるんです。」
えっ、怖っ!個人情報も何もないじゃん!
「だから、私はあなたの疲れを癒すべく、あなたの夢に出てきたのですよ」
「いやいやいや…ちょっと、意味がわからん。というか、人間誰しも疲れますよね?なんで私?あなた、そんなに疲れているんですか?」
…。
なに、この沈黙。
「色んな考えがありますが、ほんらい疲れるのは、残業圏ブラック星出身の、私だけでいいのです。私は、疲れるのが仕事ですから。」
えっ?ますます分からなくなってきた。
「そんなに疲れて、大丈夫なの?」
「はい。僕は疲れるのが、大好きなんです。好物は人の疲れですし。」
「疲れてしまいーマンさん、あなたの職業は何ですか?」
「人の苦しみ・悲しみ・トラウマコンシェルジュです。」
職業名なっが!というか、何それ!?
「でっ、でも、わたし以外に疲れている人なんてうんざと居ますよね?」
「わたしは貴方に呼ばれて来ました。あなた専用のコンシェルジュですから、安心して下さい。」
そうなんだ…。このコンシェルジュ、いったい何人くらい居るのだろうか。
「なんて呼べばいい…ですか?」
「そのままで。疲れてしまいーマンとか、どうですか?」
「そうですか…。失礼ですが、ご年齢は?」
「年齢は、無いんです。僕の国では、年齢という概念が差別にあたった時代があったので、法律で禁止されて以降は、存在しないんです。」
「じ、じゃあ、歳取らないんですか?」
「いいえ。ですが、自分が今いくつか分からなくても、いずれは死にますよ。」
「じゃあ、国が違うだけで、私たちと何ら変わりないじゃないですか笑」
「もしかしたら、そうかも知れませんね」
「私が推測するに…疲れてしまいーマンさんは、5,60代くらいかな?」
「残念ながら、もう少し若めだと思います。」
「ふふっ。」
気がついたら私は、いつの間にか笑っていた。
「ところで、どうしてリンちゃんは、そんなに疲れてるの?」
「いやいやいや…急に敬語無くなったなぁ!」
「あっ、敬語の方がいいですか?」
「いやっ、というか、口調変えるんだったら言ってくださいよ!なんか、ドキッとしちゃうんで…」
「ふふっ。そうですか。」
「何笑ってるんですか。まじめに、お願いします!」
「かしこまりました。クスッ。では、リンちゃんのお疲れ原因をお聞きしたいと思います。」
「うーん…。疲れの原因かぁ、なんとなく、自分の無力さを感じて、情けなくなっちゃうんだよなぁ笑」
「情けなく?」
「そう。まぁ、これまでも色々あったけれど、今は別にとくべつ何か大変っていう訳では無いし。贅沢な悩みなんじゃないの?」
「ほぅ…。では、何故ぼくが呼ばれたのでしょう?」
「だけど…。どうやって生きていけばいいか、生き方を忘れちゃった…。って、何いってんだかね笑 それだけ!」
しばらく間があって、
「わかりました。リンちゃんは、生きる意味を失っている。そして、それは相当疲れてしまっているという事です。」
「えっ?」
「あなたは、正真正銘疲れています。」
私は疲れている…。そう言われているのに、この人は、何だか嬉しそうだ。まぁ、そこそこイケメンだから許せてしまうけれど。
「では、あなたを疲れから解放し、生きる意味を見出さなくてはなりませんね」
「簡単に言ってるけど、そんな事どうするつもり?そんな簡単に出来てたら、苦労しないわっ!」
「クスッ。どうやらあなたは、私をみくびっていらっしゃるようだ…。」
気がついたら、私はお姫様のように、疲れてしまいーマンに抱かさっていた。
「えっ?何この少女漫画的てんかい。」
「今からあなたを、連れ出します。」
「えー!どこに?なぜ?えっ?ますます意味が分からなくなってきた…」
周囲には光が溢れ出し、突然頭が真っ白になった。
気がつくと、見知らぬ図書室の机でうつ伏せになっていた。
「ここは、どこ?」
「お目覚めですか…。リンちゃん、おはようございます。」
「疲れてしまいーマンさん、ここどこ!?」
「言うなれば、図書室です。ここは貴方が作り出した理想の世界。相当な本好きですね…奥にキッチンまで付いていましたよ。」
「えっ?たしかに…むかしよく観ていたアニメの中みたい。」
「アニメの中?」
「うん。アニメっていっても、おとぎ話の。大きな図書室が出てくるアニメなの。」
「ほぅ、そうでしたか。リンちゃん、僕は紅茶を淹れてきますね。」
そう言って、図書室の奥に消えていった。
中は360°ぎっしりと本棚があり、丸い天井からは太陽の光が入るようになっている。
「ここ、アニメで観た所によく似てる。本当そっくり…。」
すると、お茶のいい香りが漂ってきた。
「お待たせしました、ルイボスティーです。よく飲むんですか?」
「どうして?…さっき、紅茶って言ってたはずじゃ、」
「いや、戸棚を見てみたんですが、ここ全部ルイボスティーしかなくて…参っちゃいましたよ笑」
「そんなに笑わないで下さいよ!…はい。よく飲みます笑笑」
これは、夢の中だよね…?何でこんなに楽しいの?
「いつか覚めちゃうんですよね…夢だから。」
「えっ?」
「夢でも、すごく楽しかったです。本当にありがとう」
「覚めませんよ?…あなたが生きる意味を見出せるようになるまでは」
「えっ?…。じゃあ、ちょっと待って!私の問題を解決するまで、私は永遠に眠り続けるの!?どうしよう…そろそろお母さんが起こしにきちゃうかも!」
「ハッハッハ…。」
「えっ?何笑ってんの」
「時間のことなら、現実世界とは噛み合ってないので大丈夫ですよ。この世界は何日経っても、向こうとは違い、つねに時間が止まっているんです。」
「よかった…本当に焦った…このまま単位取れなかったら、私、ますます疲れる日々を…」
「それだけは絶対にないので、安心してください。」
その時、彼のくしゃっとした笑顔が、私の心に陽をさした。あれ?…彼ってこんなにカッコよかったっけ?…ってダメダメ!この人、疲れてしまいーマンだよ?すっごく変な名前だし、恋愛対象になるわけ…ないじゃん!笑
「それで、私の生きる意味を見出すって言ってたけど、何か具体的な方法はあるんですか?」
「はい、もちろん!」
「それは一体?」
「まず、私と付き合ってもらいます。恋人になって、一緒にデート…」
「えぇっ!待って待って待って!何それ?あんたバカ?何考えちゃってるの?」
「あ、僕のビジュアルと年齢ならいくらでも変えられるので、問題ないと思うのですが…」
「そそっそういう事じゃなくて、わたし、最近、恋愛とかぜんっぜんしてませんよ!?デートとか、久しぶりすぎてその、いや、…ごめんなさい。言い逃れですね…わたし、自分に自信ないんです。」
「自信がない?」
「はい…。こう見えても私の中では、綺麗になれるように努力してるんですよ。でも、ウェーブ体型だから、人より全然痩せてないし、ちょっとのストレスで、ニキビもしょっちゅうできちゃうし、おしゃれしようと思っても、服がキツくなっちゃう事もあるし、靴擦れも…」
「あの…リンちゃんはご自分の事、かなり批判しているみたいですけど、キレイですよ?」
「えっ?何言って…」
「あなたは綺麗です。それに、他の理由も皆が悩んでいる事で、あなただけでは無いですよ。」
「それって、どういう事?」
「ウェーブ体型だから痩せてない。というのは、あなたの主観です。私から見たらリンちゃんは、ふつうに痩せて見えます。知っていますか?ウェーブ体型って、女性らしく品のある体型なんですよ…。それに、ちょっとでもストレスがかかっていれば、ニキビは出来るもんです。そのストレスを減らしに、僕があなたの所へ来ています。」
「そうですか…。」
「あと、ウェーブ体型なのに、足にピタッとする感じの服に挑戦するなんて、リンちゃんは、ストイックと見た。着れているだけで、すごい事なんですよ。靴擦れは、お洒落な靴で歩き過ぎている証拠です。無理するのもたまにはいいですけど、自分を苦しめたり傷つけるお洒落は、やめてください。僕からのお願いです」
そっか…。私、自分を自分で苦しめてたんだ…。
「これからあなたに心がけてほしい事は、自分に優しくなること。」
「はい…出来るかわからないけど、やってみます。」
「ふふっ、お願いします。」
こうして、私と、疲れてしまいーマンの生きる意味を見い出す日々が、始まった。