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第1話 火事

 彼女は、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。燃え盛る炎に取り囲まれ、呼吸が苦しくなっていく。


「助けて...。」


 なんとか口から発せた言葉も、揺らめく炎の轟音に消えてしまう。重くなる空気と、炎による熱線。彼女は倒れる。弱った獲物を狙う蛇のように、炎が徐々に少女を取り囲んでいく。


 あぁ、私はこのまま死ぬんだ。彼女は虚ろな目でそう思った。段々と意識がぼんやりしていく。

じわりと溢れる涙。


 もっと生きていたかったなぁ...。彼女がそう願った、その時。


「今助けますからね!」


 男の声が響く。

 そして次の瞬間、少女が感じたのは冷たい水の感触だった。瞬く間に、火が消えてゆく。


 朦朧とする意識の中、自分を抱え起こそうとする少年の顔ははっきりと見る事ができた。少女は、その少年の顔を知っていた。


 彼の名は、臼井 涼。少女と彼は同級生であった。


「臼井...くん...?」


 彼の名を呼びながら、少女はゆっくりと意識を失っていった。





 少女は、はっと目を覚ます。放課後の図書室で本を読んでいる間に眠っていた彼女は、つい1週間ほど前に起こった出来事を夢に見ていた。


 はぁ、と短いため息をついた彼女は、本に少しだけ目を通すが集中力は続かなかった。彼女は読書を諦め、帰り支度を始める。


 彼女の名は、栗矢 日菜。素材は可愛らしいがどこか地味で内気な彼女は、特に友達がいるわけでもなく、放課後はこうして図書館で本を読むのが唯一の楽しみであった。


 そんな彼女は、ここ最近ある悩みを抱えている。それは、1週間前に自分を火災から助けてくれた少年への恋心であった。


 日菜は色恋沙汰にとんと疎く、これまで恋などしたことがなかった。それが、どうだろう。あの時から、日菜の頭の中は臼井 涼の事でいっぱいになっていた。火災という特殊な現場で助けてもらったから、こうなっているのだと日菜は何度も自分に言い聞かせた。


 それでも、気づけば涼の事を考えてしまう日菜。ぶんぶんと頭を横に振り、下駄箱から自分のシューズを取り出す。


 そのまま、帰ろうとしたその時、幸か不幸か日菜の視界の端に涼の姿が映った。涼の姿を無意識に目で追ってしまう日菜。


 そんな花の視線に気がついた涼は、軽く会釈をする。その後、涼はまた廊下を歩いていく。次の瞬間、日菜は、取り出した靴を下駄箱に押し入れ、涼の後ろをバレないようについていっていた。

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