春は私に似合わない
私は春が嫌いだ。
何でかというと。昔に女友達から「あんたって春らしい服とか色が似合わないよね」と言われたからだった。それ以来、春という季節が嫌いになった。今日も綺麗に咲く桜の花を見上げる。憎たらしい気持ちを込めながら。目線を元に戻して歩き出す。
十数分してカフェにたどり着く。今日は十年来の友人の夏帆と待ち合わせをしていた。オシャレな感じのドアを開ける。カランカランとドアに取り付けてあるベルが鳴った。
「いらっしゃいませ!」
店員のお姉さんが入店の挨拶をする。私は小さく会釈をした。店内を見渡すと栗毛色の緩くウェーブした髪を肩まで伸ばした女性――夏帆が小さく手招きをしている。近づくと薄い朱色のワンピースにベージュの丈の長いカーディガンを羽織っていた。足元はベージュのパンプスを履いている。
「……ごめん。遅れちゃったかな?」
「ううん。そんな事はないよ」
夏帆は優しげな顔立ちをより緩めて笑った。
「……あたしの方が早く来過ぎたみたい。気にしなくていいよ。愛海」
「ありがとう。夏帆」
私の数少ない友人の中で夏帆は信用できる。ちなみに「春っぽい服とか似合わない」と言った友人は郁実という。
「それよりも。愛海、何を頼む?」
「……うーん。コーヒーと苺のタルトにしようかな」
「わかった。すみませーん!」
夏帆が大きな声で店員のお姉さんを呼んだ。少し経ってからお姉さんがやってきた。
「……はい。お待たせしました。ご注文はお決まりですか?」
「……ええ。愛海」
夏帆に促されて慌てて注文をする。
「えっと。ホットコーヒーと苺のタルトをお願いします」
「わかりました。ホットコーヒーと苺のタルトですね。少々お待ちください」
お姉さんは用紙に注文したメニューを書き込む。その後、厨房の方へと行くのを見送った。
しばらく経ってホットコーヒーと苺のタルトが運ばれてきた。ほかほかと湯気の立つコーヒーや赤いルビーのような苺がたっぷりと入ったタルトは見るからに美味しそうだ。テーブルの上に置かれるとお姉さんは「それではごゆっくり」と言って持ち場所に戻っていく。
「……美味しそうだね」
「うん。夏帆は食べないの?」
「あたしはいいや。レモンティーだけで十分だから」
夏帆の言葉を聞いて手元を見る。既に半分程に減った紅茶が入ったティーカップがソーサーの上にあった。なる程、私が来る前に注文をしていたらしい。
その後、二人でたわいもない話をしたのだった。
2時間近くは喋っていただろうか。すっかり、互いの紅茶やコーヒーは空っぽになっていた。お開きにしようと立ち上がる。
「……じゃあ。そろそろ帰ろうか」
「そうしよう。愛海。帰りにちょっとだけ服屋に寄っていい?」
「いいよ。何を買うの?」
「……ちょっと。新しいワンピースとかカーディガンが欲しいんだ」
「わかった。近くにアンリエットっていうお店があったよね。そこに行ってみない?」
私が尋ねると夏帆は頷いた。ならと言って店員のお姉さんを呼ぶ。レジに行き、お会計を済ませた。こうして服屋のアンリエットに向かった。
アンリエットにたどり着くと店長らしき女性が「いらっしゃいませ」と笑顔で言ってくれた。茶髪の背が小柄な感じの可愛い女性だ。私や夏帆で24歳だから少し上くらいだろうか。そう思いながらも2人で店内に入っていく。ハンガーに掛けられたいろんな服がずらりと並んでいる。商品棚にも下着などがビニールの袋に入れてあり陳列していた。とりあえず、目当てのワンピースやカーディガンを見るためにハンガーに掛けられた服の方に近づく。
「結構、充実しているよね」
「うん。愛海はどれがいいと思う?」
夏帆に訊かれて似合いそうな色のワンピースを選んだ。淡い山吹色やパステルカラーのオレンジを勧めてみる。夏帆は考え込みながらもオレンジの方を選ぶ。カーディガンも淡いオレンジ色の同系色を選んでいた。私も適当なシャツやスラックス、靴下を選んでみた。それらを両腕に抱えてレジに向かう。店長の女性が応じてくれた。他に店員さんはいないようだ。
「……ワンピースとカーディガンで合わせて六千円になります」
「わかりました。じゃあ、これで」
「はい。六千円丁度ですね。ありがとうございます」
店長の女性――お姉さんはそう笑顔で言うとお札をレジの抽斗に仕舞い込んだ。手早く夏帆の持っていた商品をレジ台の上に置くとハンガーを外したりする。そうしてから紙袋に入れた。私も同じようにしてもらう。お金を支払うと金額は五千六百円だった。互いにお買い物を済ませるとアンリエットを出た。
店を出ると外は夕暮れ時になっていて空がオレンジ色に染まっていた。夏帆とは自宅の近くで別れた。ゆっくりとアスファルトの道路を歩く。春は似合わないかもしれないけど。まあ、私には知った事ではない。郁美には明日そう言ってあげよう。どんな顔をするかな。くすりと笑いながら家路を急いだ。
――終わり――