9品目
「ここが別館だよ!多分モモちゃんそんなに来ないと思うけどね!」
連れてこられた先は桃達の部屋がある本館とは渡り廊下で繋がった2階建ての建物で、レンガ造りの暖炉やソファ等があるこの場所は談話室のようだった。
「ここの別館にはさっきのモラばぁ達や部屋が変な人達が住んでるんだよ。」
「た、例えばどんな人?」
ホトは眉間にシワを寄せあの人かな、この人かなと唸りながら考えている様子だ。
「うーんと、あっ!魚とか!」
「さ、魚?え、魚!?」
「なんでそんなに驚いてるのか知らないけど、魚の部屋は1階の隅だよ。」
朝食を作る時にも魚が居るらしいとは思っていたが、二足歩行をする魚なのかどうか考えると頭が痛くなりそうで深く考えたくはない桃だった。そして自分自身が苦手な類いの幽霊が居るかどうかを聞き出したいと必死になる桃だった。
「へ、へー。他にはどんな人が居るの?足が無いとか、透けてるとか、顔半分無い人とかいないよね!?」
「そんな人居ないよ!うーん、ネコさんも居るし、羊さんとかも居るよ。」
「猫さんに羊さんか。ホトと同じような感じの人?」
「そうだよ、わたしと同じ動物なの!」
ここには動物一体どのぐらい居るのだろうと考える桃をニコニコしながら見るホト。
その時、近くの時計がボーンボーンと12時を報せる鐘が鳴る。
「うわ!え、もうお昼だ!食堂に行こ!」
走り出すホトが角を曲がる時に何かにぶつかったが、咄嗟に何かに支えられ転ぶのを免れた。
「うひゃぁ!」
ぶつかったのはゼノだった。
「おやおや、すみません。でも危ないので走っては行けませんよ、ホト。」
「あ、ごめんなさい。」
良い子良い子と優しく頭を撫でるゼノとそれが嬉しいと言った感じに目を細めるホト。
「良い子ですね。あぁ、そうでした。桃さんお昼ご飯を食べてからでいいのでノヴァーリスの所へ来てください。少し、頼みたい事があるのです。」
「わ、分かりました。」
それだけ言うとゼノは近くの部屋へ消えていった。
そして桃達は食堂にて、カーティお手製の昼食をお腹いっぱい食べたのだった。
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桃はホトと別れた後に制服に着替え、1人ノヴァーリスの部屋のドアをコンコンコンとノックする。
「失礼します。」
「あら、来たわね。ちょっとこっちにいらっしゃい。」
そこにはゼノの姿はなく、ノヴァーリスしかいなかった。
か?」
「あら、聞いてなかったのかしら?全くもう!ゼノはここの事はぜーんぶ私に丸投げするのよ!酷いわよね。」
「そ、そうですね?」
捲し立てるノヴァーリスについていけない桃だったが、何かを思い出したかのようにあっと手を叩く。
「そうそう、モモちゃん最初の仕事は、配達に行ってもらいたいの!」
「配達ですか?」
「そう!モモちゃん1人だと心配だから、もう1人つけるわ。ラヴィ、おいで。」
ラヴィと呼ばれたその時、何?と隣の部屋から1人出てきた。長髪で銀髪、そしてノヴァーリスと同じような紅い目をしているその子の服装は、まさにゴスロリと言ったようなフリフリばかりだった。どこからどう見てもどうやらここの制服では無い。
ノヴァーリスが美女ならばその子は佳人と言ったところだろうか。
しかしその顔はどこか不満げである。
「そうムスッとしないの。じゃあ、あとはよろしくね♪」
「え、ちょっ、待って。」
ノヴァーリスが部屋から出ていくと、ラヴィと呼ばれた人物ははぁとわざとらしく息を吐いた。
「なんでボクがこいつの世話しなくちゃいけないの。」
「う、ごめんなさい。」
「あんたに謝られても困るんだけど。」
「うぅ。」
縮こまる桃に仕方が無いと言ったように肩をすくめる。
「ボクはラヴィーニア。よろしく、モモ。」
「わ、私は桃です、ってなんで名前知ってるんですか?」
「姉さんに頼まれたから調べた。」
「姉さん?」
「ノヴァーリスの事。ボクも姉さんと同じ悪魔だけど姉さん程の優しくないよ、だから甘く見ないで欲しいね。」
威嚇するように言い放つラヴィーニア。そして既に部屋のドアに手を掛けていた。
「じゃあ行くよ。」
「え、配達する物は?」
「もう持ってる。とっとと行くよ。」
「は、はい!」
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「ここは?」
「ボクがいた所からすぐ近くの世界。人間は珍しいから気を付けて。まぁ、このフードで顔隠せば多分大丈夫。」
「はい。ありがとうございます。」
あの後ゼノが入っていった部屋にラヴィーニアと共に入り、気が付いたら別の場所にいた桃。ラヴィーニアは、キョロキョロする桃にフード付きの羽織を仕方が無いと言ったように渡した。
しばらく無言でただただ歩く2人。それは気まずいものだった。
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「着いた。目的地はここだよ。」
長い間移動してたどり着いた場所はキラキラと青く光り輝く海岸だった。
「うわぁ、綺麗な海ですね!」
「綺麗なのは海だけだよ。住んでるのはちょっとあれだね。」
『酷いわその言い草。』
突然聞こえてきた不思議な、そして惹き付けられるような声。それは、耳から入って聞こえるのではなく、頭に直接響いているようだった。桃は狼狽えるばかりだったがラヴィーニアは声に動じず、嫌なそうな顔をさせるのみだった。
「ホントの事でしょ」
「え、誰?」
「一応、客。」
『一応って何よ。ちゃんとしたお客ですぅ。』
「うるさいなぁ、ちょっと黙って。」
『はいはい。』
客と言った人に対し背中を堂々と向ける。
「ここはいわゆる人魚の入江。油断すると誘い込まれて喰われるからね。ここにいるあれも例外じゃない。」
「喰われる?」
「人魚は肉を喰うから、人間も例外じゃない。逆に1番食べてんの人間かも知れないぐらいだからね。」
「ひぇ。」
人魚は海の中に居り、上半身のみ海の外に出ていた。桃は人魚と聞き一瞬可愛らしい人魚つまりマーメイドを想像したが、実際にはその人魚は可愛いよりも麗人と行った方が似合う雰囲気だった。
『その子は可愛らしい反応ね。ってかお腹空いてんのよ。ご飯食べたいから早く渡しなさいよ。』
「はぁ。はいこれ、ちゃんと魚が作ったやつね。」
『ありがとう!あいつが作んの好きなのよね。』
ビシャビシャと急かす人魚に対し、ラヴィーニアはどこからともなく出されたバスケットを浮かせ手も触れずに渡す。
そんな事には気にもしない桃だったが、一つだけ気になった事があった。
「魚って誰ですか?」
『あら、会ったことないの?』
「魚は料理人だよ。そのうち会うと思うよ。」
「魚が料理人。」
魚がどうやって調理しているのだろうか、そもそも厨房に立てるのだろうかと姿を考えるも、分からなくなっていく桃は会った事のある2人に聞いてみることにした。
「どんな人なんですか?」
『確か、手がキレイだったわね。』
「キャラが濃い。」
『なるべく関わりたくないけれど、料理は美味しいわよ。』
「うるさい。」
「綺麗な手をしたキャラの濃く料理上手なうるさい魚。全く想像出来ない。」
「会えば分かるよ、会えば。」
そう答える2人は何故か遠い目をしていた。