8品目
「きっとここに来れない事情がある種族が居るんだよね幽霊とかじゃないよねきっと。」
「いきなりどうしたの?モモちゃん。」
朝から色んな事を考え続けた桃は頭がパンクしそうになっていた。ホラーやグロ等が苦手な桃は幽霊がいたら関わらないようにしようと決意した。そんな桃に全く気づかないホトが桃に対して更に頭を悩ます発言をした。
「ここには色んな人がいるんだ。わたしは動物だけど、働きやすいように店長にこの姿にもなれるようにしてもらってるんだ。ホシもそうだよ。ただ、わたしは人になるのがニガテで、耳とか手が兎の時のままなんだ。
わたしのような動物の他にカーティの様なエルフだったり、店長の様な悪魔だっているし、妖精さんもいるよ。
まぁ、只の人間は食べられやすいから、モモちゃんだけだったと思うけど。」
「え。た、食べられやすい……?人間が……?」
「うん。だって人を食べたいってお客さん来る時もあるもん。そういうお客さんはね、すごいよ!目がなんだろ、普通じゃないの!」
「……それ、完全に逝ってる目だよね。こわ!」
ここは無意識に安全な場所だと思っていた桃だが予想外な危険に驚き、震えた。
「ひょぇぇ!あっでも、人前に出なければ大丈夫……?」
「昨日のモモちゃんの制服からみてウエイトレスだと思うよ。だから一緒に接客とかできるね!」
「終わった。短い人生だった。」
「?何が終わったの?」
自分の体を抱きしめるように震える桃に対し、こてんと首を傾げるホトは意味が分からないと言ったような表情だ。
「次は中庭に行こーね!」
「……うん。そう、だね。」
モフんと片手を上にあげ、次なる目的に向かうべく元気良く歩き出したホトにとぼとぼとついて行くしかない桃だった。
そこにたどり着くと色彩豊かで綺麗な花畑だった。季節の花や見たことの無い植物がどこか誇らしげに咲き乱れていた。そんな花畑を見ていると沈んでいた気持ちが無くなっていくような感覚がした。
「綺麗だね。」
「でしょ?ここは妖精さんが管理してるからね。」
妖精さんが管理していると聞き、何処にいるのだろうと辺りを見渡すと花の周りをうろうろ飛び回っている光が2つあった。しばらく見ているとこちらに気がついたのかその光がどんどん近づいてくる。ツインテールの金髪の女の子に黒髪のとんがり帽子を被った男の子だった。どちらも20センチ程の大きさだった。
『ホトだ。』
『ホトが来た。となりの子はだあれ?』
「モモちゃんだよ。昨日からここに居るの。モモちゃん、この子達はね、ツインテールの方がシーちゃんで帽子被ってる方がピー君って呼ばれてるの。」
「え、シーちゃん?それにピー君?」
『そうだよ、わたしはシーちゃん!』
『ぼくはピー君!君の名前は。』
『モモちゃんだって。』
『モモちゃんはお花好き?』
『モモちゃんはどの花が好き?』
『これ?それともあれ?』
桃は好奇心旺盛で2人交互に、そして次々と質問され圧倒してしまう。
妖精2人はそんな桃にカーネーションやアネモネなど様々な花を見せられ突きつけてくる。そのうちの一つ、アヤメを指さした。
「ええと、この花が好きです。」
『これも可愛いでしょ。わたしたちが育てたの。』
『ひとつあげる。』
『お守り。』
『大事にしてね。』
「うん、ありがとう。」
手渡してくれたアヤメをじーっと見ていると妖精達がが両隣りにずいっと来た。
『大事にしてくれなかったらぼく達イタズラしちゃうからね。』
「い、いたずら?」
『うん。』
『例えば、タンスに足の小指ぶつけたり。』
『足の小指がずーっと痒かったり。』
『足の小指に重いものを落としたり。』
「なんで、足の小指ばっかりなの?」
『『足の小指いじめ週間!』』
「それは、辛いね。」
実際にイタズラされる所を想像してしまい、小指に意識が言ってしまった桃の近くにホウキを持った腰の曲がったお婆さんが近ずいてきた。そのお婆さんはおやおやといった表情で桃を見つめた。
『おや?お客さん…ではないねぇ、新しい子かい?』
「うん、そうだよ!モモちゃんって言うの。」
『そうかいそうかい。可愛いねぇ。こっちさおいで。』
モラばぁが近くの椅子に座りおいでと手招きしたのを見、ホトはテトテト近ずいて行った。桃は仕方がなくその後を歩く。近くに行くとホトと2人、両隣りの椅子に座らせられた。
『わたしゃここで掃除とかをしている者さね。他の皆からはモラばぁと呼ばれとる。モモもそう呼んでくれな。』
「も、モラばぁ?」
『そうさね、モラばぁさ。よしよしモモは良い子の様だからおまじないをかけてあげよう。』
『ウダーチ』
優しい、そして穏やかな囁きでその言葉が放たれた瞬間桃の周りがキラキラと光輝き、そして瞬く間に儚く消えていった。
「わっ、何これ。すごい。」
『ただのまじないさね。これからお仕事頑張るんだよ。』
「はい!ありがとうございます、モラばぁ。」
ニコニコと笑う桃を微笑ましく見ているモラばぁが、さぁ仕事仕事と立ち上がった。
『わたしゃ仕事に戻るが、ホトとモモはどうするんだい?』
「今はね、ここを案内してるの!次はどこにしよっか。」
『じゃあ別館案内したらどうだい?普段そこに居るからね、わたしゃらは。』
「わかった、そうする!」
ホトはぴょんと立ち上がり桃の手を繋いで元気よく歩き出したが、転びそうになるのを必死に我慢しついて行った桃だった。