6品目
ノヴァーリスが静かに浮いている皿にティーカップを置く。
「さて、たっぷり休憩したし、モモちゃんの質問に応えるわね。」
今は休憩が始まってから約20分が経過したところである。
「最初に言霊について、説明しましょうね。」
ニコニコしながらノヴァーリスは言う。
「言霊って簡単に言うと言葉の力、ここまではさっき言ったわよね。どうしましょうか。そうね…。実際に見た方が早いわね。」
『浮け』
ノヴァーリスがそう一言言うだけで桃の体が浮き上がった。
「これが力。つまり、話した事が実際に起こる現象の事を言霊と言うの。」
「凄いですね!」
「でしょう?だから、安易に名前とかは話しちゃいけないのよ。力が宿ってしまうから。あと、呪詛もダメね。最初はいいけど、あとから還ってくるもの。」
ノヴァーリスが指を鳴らすと桃の体はゆっくりと元に位置に戻った。
「言霊に力が宿るのは生物には魔力があるから。例え弱っちくても魔力は魔力。それがどんな作用するかは、まだよく分かってないわ。」
魔力?と桃は首を傾げた。
「生物に魔力があるって事は私にもあるんですか?」
「えぇ、そうよ。貴方がそれに気付かないのはただ単に弱いから。まあ、植物よりはあるわよ。下手したらこの世界にいる動物よりないけど。」
「動物以下……。」
「普段魔法を使わないから良いじゃない。」
動物以下という事にガッカリした桃だったが、魔法という単語を聞いた途端にキラキラ目を輝かせた。
「魔法あるんですか?使ってみたいです!」
「使わない方がいいわよ?一歩間違えたらそうねぇ、貴女だったら爆発しちゃうわ。」
桃は爆発しバラバラになってしまった自分を想像してしまい、青ざめた。
「やめときます!」
「賢い判断ね。」
ノヴァーリスはにっこりと微笑んだ。
「さて、質問はもういいかしら?」
「はい、ありがとうございました。」
「契約書、書き終わったわね。じゃあ貰ってくわ。」
桃は休憩中に書いていて、とっくに終わらせていたのだ。ノヴァーリスは契約書を仕舞うと立ち上がった。
「じゃあ、またね。おやすみ、モモちゃん。」
「おやすみなさい、ノヴァーリスさん。」
ノヴァーリスが部屋から出て行った途端にどっと疲れが押し寄せてきた桃はそのままソファで寝てしまった。
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「こいつはなんでここで寝てるんだ?」
ソファで寝ている桃の傍らに1人の影。この者にはノヴァーリスと同じ様な尻尾があった。
「姉さんは何でこいつをここの仲間にしたんだ?
人間は客に、食べられてしまうかもしれないのに。」
ふぅとため息をついたと思ったら指をパチンと鳴らす。
「…世話が焼ける。」
気が付いたら桃はベットへ寝かされられていた。
「姉さんに今日の事、報告しに行かないと。」
そう呟いた声は、部屋に響いた。
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ちゅんちゅんと窓の外から鳥の声が聞こえる。
「……ん。……あ、さ?」
ベットの脇にあるテーブルの上の時計は5時を指している。
「……。え、5時?なんだ、もうちょっと寝れる……ってここ何処?」
キョロキョロと辺りを見渡すとぼやけていた頭がハッキリしてくる。
「あ。そっか、ここは知らない場所じゃなくて、昨日来たレストランだっけ?夢じゃなかったのか。」
ベットの中でモゾモゾ動く。が、どうしてももう一度寝れる気がしない。
「……とりあえず、起きよ。服は、どうしよ。」
ベットの近くにあるクローゼットらしき所を開くと、中には桃の高校の制服の他にも色々服が入っていた。
「あ、あった。結構色んなのはいってる。」
適当な服を選び着る。それは桃がよく好んできるような服だった。着終わったあと、ぐぅとお腹がなった。
「ご飯は厨房で、だっけ?早いかもしれないけど、行ってみよ。」
これまた、沢山ある靴のうちから良さそうなのを履き、桃は厨房へ向かった。
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「……おはようございます。」
静かに挨拶して入ったが、見えるところに人影は見えない。
「……あれ、モモ?」
「はい、おはようございます。カーティさん。」
「……ん、おはよ。早いね、まだ誰も来てないよ?」
今回は後ろから来ていたカーティに驚かなかった桃だが、誰もいない事に驚いた。
「え、そうなんですか?誰かはいると思ったんで、ご飯食べに来たんですけど。……そうですか、まだなんですか。」
桃のお腹は部屋を出た時から空腹を訴えていた。
「……僕食事当番だからこれから作るけど……。手伝ってくれる?」
「はい、もちろん!」
「……着替えてくるから待ってて。」
そう言って厨房の奥の方へ進んでいった。
カーティは昨日着ていた白いコックコートではなく、Tシャツにズボンとラフな格好をしていた。少し待っていると、昨日と同じ様な格好をしたカーティが出てきた。
「……ごめんね、待たせちゃって。」
「大丈夫ですよ!とりあえず、お腹がすきました。」
「……そうだね、なに作ろっかな。」
うーんと考え事をしながらテキパキと調理の準備を進めるカーティを見ながら桃はどうしようかとあたふたしていた。
「……。人用はすぐ出来るベーコンエッグにトーストにしよう。魚用は後でで良いとして動物用は……。」
カーティの口から漏れる朝食のメニューを聞いてると人用、魚用等普段なら信じられないような事を言っていた。
「……じゃあ作ろ。」
いつの間にかメニューをホワイトボードに書き終えてたカーティはようやく桃の挙動不審に気づいた。
「私は、何すればいいですか?」
「……ベーコンエッグ作ってくれる?これ、エプロンね。」
桃は手渡されたエプロンを付け、朝食作りに取り掛かった。