4品目
「ただいまー!疲れたー!カーティ、ご飯食べたーい!」
そう元気よく、ホトは戻ってきた。
「……分かった。…待ってて、今持ってくる。」
「うん!」
嬉しそうに笑うホトの後ろから、長身の男が歩いてきた。
「カーティ!俺の分もお願い!」
カーティに向かってそう叫ぶと、ぐだっとさっきまで桃達が食べていたテーブルに伏せったが、その後すぐガバッと効果音が付きそうなほど勢い良く顔を上げた。
「あれ?…あぁ、お前ノヴァーリスが言ってた奴か。俺はホシだ。よろしくな!ホトと名前似てるが、偶然だからな。そこん所よろしく!」
茶色髪に点々と模様がある、つり目の青年はニカッと人懐っこい笑顔を見せた。そこにホトが乱入してきた。
「あぁー!せっかくモモちゃんの事紹介してあげようと思ってたのにー!」
「えっと、桃です。よろしくお願いします、ホシ先輩。」
「俺、先輩ってのいやだからさぁ、ラフにしてくれや。てか、ここの連中は皆先輩って付くの嫌だと思うぞ?」
「え、うん。分かった。」
勢い良くそう言われ、桃は頷くことしか出来なかった。
「……ご飯…持ってきた。」
「ありがとう!」「ありがとな!」
ホトとホシは似た者同士のようで、同じ様なタイミングでお礼を言った。そして無我夢中になって食べ始めた。そんな様子をカーティは微笑ましそうに見ていた。
「カーティ、今日もご飯美味しい!ありがとう!」
「…うん。…どういたしまして。」
「美味しかったぜ!ごっそさん。」
「…そっか…良かったよ。」
ホトとホシはいそいそと食器を片付けた。
その様子を桃とカーティはぼんやり見ていた。その時、カーティの方からぼそっと声が聞こえた。
「……モモはさ…なんでここに、来たの?」
「…なんでですか?」
「……なんか、気になっちゃって。」
「そうですか。…私は、家に帰る途中にここに迷い込んじゃいまして。そこでノヴァーリスさんに帰れるまでここで働いたらと誘われたので…。カーティさんはどうなんですか?」
「……。僕は、エルフの里から旅に出た時に、ここに寄って……友人に……置いてかれたから……ここにいる。」
桃は予想外の理由にびっくりした。それに、カーティはエルフの里と言った。
「エルフの里ですか?エルフの里出身なんですか?」
「…え、あぁ、うん。そうだよ。」
「じゃあカーティさんはエルフなんですね!でも、私のイメージだと耳がすごく尖ってるんですけど、そうでも無さそうですね。」
「…そうなんだ。僕達の耳は…そんなに尖ってはないよ。」
と言いながら、カーティは髪を退かし、耳を見せてくれた。その耳は人間と同じサイズだが、若干尖っているように見えた。しかしそれは注視して見なければ分からないほどであったが、桃は興奮してまじまじと見ていた。
「なぁ、モモは人間か?」
突然後ろからそう、問い掛けてきたのは片付けを終えたホシだった。その後ろにはうさ耳が見える。
「私は人ですよ。ホシさんも人ですか?」
「いや。俺はこう見えて烏だぜ、烏。」
そう言うホシはどこから見ても烏ではない。完全に人の姿をしている。その為桃は首を傾げた。
「人にしか見せません。」
「俺は擬態が得意なんだ。ここでウエイターをやるのには元の姿じゃちと辛くてな。」
すると、ぼふんとホシから煙が舞い上がった。そしてヒラヒラと青光沢のある黒い羽が落ちてきた。
煙が収まったあと、そこに居たのはさっきまで居たホシではなく1匹の鳥だった。
『へへん。どうだ。これで、俺が烏だって信じたろ?』
「え。この声、どこから聞こえるの?」
『え。』
聞こえてきたのは明らかにホシの声。しかし、その姿は見えない。声がした方には鳥とホトだけ。
『おい、モモ!俺はお前の目の前の烏だよ!』
「…これ、カラスだったの?」
桃が烏とは思えなかったのは、普段目にしているのは真っ黒い姿をした烏だけ。誓って目の前の鳥のように頭だけチョコレートの様な色に白い斑点のある鳥では無い。
『失敬な!改めて、俺はホシガラスのホシ。安直な名前だが、覚えやすくて良いだろ?』
鳥もとい、ホシは大袈裟に桃に向かって礼をした。まるで、コメディアンがお客さんに対しお辞儀をするように。
「………。ホシ。」
『ん?なんだ?』
「……僕今、怒ってるんだけど、意味わかる?」
カーティが黒い雰囲気をまとい、笑っている。が、髪の間から見えた目は全く笑ってない。
『ひぇ!』
「…ねぇ、分かる?」
『すみません!全然分かりません!』
その応えを聞き、さらに雰囲気がどす黒くなった。それは怒られていないはずの桃とホトをビビりあげる程である。
「……。ここは、何処?」
『厨房です…。』
「…じゃあ、分かるね?」
『……。……?あっ、羽…。』
「……。……言うことは?」
『すみませんでした!ぜひ、今日は掃除させて下さい!』
ホシは土下座する勢いで、頭を下げた。
「……1週間掃除、よろしく。」
『はい!分かりましたぁぁ!』
桃が手伝った方がいいのか迷っていたら、くるっと、カーティが桃の方を向き笑顔で、
「……モモは掃除しなくて、いいからね?…こいつ1人で、やらせないといけないから。……大丈夫、全然可哀想じゃないよ。…常に清潔にしてねって言ってる場所で、あろう事か羽を撒き散らしたんだから。」
桃はこの短時間で、カーティがあんまり長い言葉を話すのが苦手だと分かったが、今のカーティは長い言葉を話している。
どれほど怒っているのかが、誰の目にも明らかだった。
「モ、モモちゃん!違う所行こ!ここだと、ほほほ、ほら、ホシの邪魔になっちゃうから、ね!ね!ね!」
「え!うん!そ、そうだね!じゃあカーティさん!お邪魔しましたー!」
「……うん、またね。桃、ホト。」
手を振るカーティに振り返すことなく、こうして桃とホトは逃げるように厨房を後にした。