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世界の命運を握るダンジョンの後継者は酔いどれ娘?~モンスター? いいえ。おつまみセットです~

 拝啓。父様、母様。娘は異世界で元気にやっております。


 先立った親不孝者ですが、こちらの世界で私は美味しいモノと美味しいお酒を楽しんでおります。


 どうか嘆き悲しんだりしないでください。




「おいっ! エリーッ! あれは何だ! 何の化け物を作りやがったっ!」




 血相を変えて部屋に飛び込んできたのは私をこの世界に呼んだ住人さんです。


 明るい金色の髪と高身長、切れ目の鋭い青い瞳。


 できる宰相風のいい男ですね。




「ちなみにどれですか?」




 宰相さんが怒りそうなモノなんて何か作ってましたっけ?


 今まで作ったモノを思い出していきましょうか。


 お米。麦。小麦。芋。お酒の原料になりそうな作物関係。




 ここら辺は問題ないでしょう。


 十分な実をつけたら畑から抜け出して私の酒造所の原料置き場に向かうだけですから。


 ちゃんとお芋達は川でドロを落としてくれるように設定してあります。




「全部だ! 全部!」




 全部と言われても困りますね。


 お客様へのおもてなし用のギミックもちゃんと仕込んであります。


 モンスターはちゃんとモンスターをしていますよ。




 ご飯食べたら身がついて、一定以上ついたら私のおつまみ所にお肉を置いていくスケルトンサーモン?


 切っても切っても再生するリジェネクラーケンとかリジェネジェリーフィッシュとか軟体系?


 ちゃんとご飯になるだけじゃなくて防衛機能もあるんですよ。




「いいじゃないですかー」




 美味しくて、手間がかからなくて、それでいて誰も困らない。


 溜め込み過ぎたエネルギーを回収しているだけだからモンスターにも負担はない。


 それと私以外に消費する人がいないから全て少量でおーけー。問題ない。何の問題もない。




「あんなモンスターどこにもいるかっ!」




 あ、次のおつまみは山の幸にしようかしら。


 山だと何が美味しいかしら? 山菜? ワラビ? タラの芽?


 そういえばイタドリの若芽が美味しいなんて話をどこかで聞きました。




 イタドリは大分生命力が強いらしく、放置しているとどこからでも生えてくるという話だ。


 蓄え過ぎたエネルギーはこちらで回収という事で、若芽をもらえば帳尻合わせになるかしら?


 冒険者対策なら相手の体から生えていく仕組みで問題ないでしょう。ホラーですね。




「まぁまぁ、そんな気張ってないで、こちらで一緒にお酒でも飲もうよー、これ、ダンジョン産なんだよ?」




 掘りごたつで足をパタパタとさせながら宰相君に手招きをする。


 今日のお酒はどぶろく。このダンジョンで初めて作ったお酒ですよ。


 おつまみは鮭とば。この塩気がどぶろくの甘さを引きたてる。




 甘いお酒で塩辛いおつまみ。たまらないですね。


 ここに山菜を加えたり、唐揚げを加えたり、焼き魚もいいですね。


 クラゲの和え物も珍味で美味しいですし、イカの塩辛も美味しいです。




「酒を飲まずに話を聞けーっ!」


「いやじゃ」




 あぁ。もう。素面でダンジョンマスターなんてやってられますか。


 私はただの一般人。それもただの事務員です。事務員が趣味に走れる機会は少ないんですよ?


 お酒で理性を反転させないと、やる事なす事全部歯止めがかかってやってられますか。




 今回のどぶろくは熟成が弱いかしら?


 甘酒に近いレベルの甘さですね。もう少し発酵させた方がいいかしら?


 まぁ、しょうがないですね。初めてなのだから。次回はもっと工夫していきましょうか。




「だから話を聞けっ! この酔いどれ娘っ!」




 宰相さんが怒ってる。まぁ、気にすることはないでしょう。


 私が作りたいように作れと言ったのは宰相さん。貴方なんだから。


 私がしたいように、私の望むように、このダンジョンは満ちていく。




 これは貴方の決めた約束事だよ? 前マスターの宰相さん。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 事の始まりは私が仕事帰りにお風呂でお酒を飲んでそのまま寝落ちて死んだ時。




 たぶん、一番楽な死に方だったんじゃないかな? 苦しさを感じる事はなかった。


 酔っぱらって寝落ちて、お湯が冷めて体が冷えて、最終的に心臓が止まって死んでしまう。


 もしかしたら途中で湯船に顔を沈めてしまい、溺死していたのかも。




 営業部だった彼に浮気されて、振られてついお風呂でがぶ飲みしてしまった。


 いつもならおちょこ1杯で止めて、のぼせる感覚と合わせて楽しむ程度だったのに。


 私は真面目過ぎたのかな。つまらなかったのかな。今、考えても答えはでない。




 私の意識は暗闇に落ちていた。けれどある時光が見えた。


 私はその光を朝日かな? と思った。その時は死んでいる自覚はなかったから。


 その光を私が意識したら一気に世界が開けた。




「こんにちは。お姉さん。ようこそ、我がダンジョンへ」




 宰相さんがいた。先程怒鳴り散らしていたあの宰相さん。


 この時は後ろに暗くて黒い煙のようなオーラを、いや、うん。オーラって目で見えるもんなんだね、そんなオーラをバックに漂わせながら、アンニョイな顔つきで私の事を見てたんだ。


 手をこちらに向けながら。肌とかも黒ずみ大分、疲れた体をしていた。




「我はこのダンジョンのマスターだ。異世界の住人よ。唐突で悪いが、代替わりのために呼び寄せさせてもらった」




 目に見えて疲れている様子でしたし、何か問題が起きていたんだろうね。


 宰相さんってイケメンさんだからなんか弱弱しい体で言われたら聞かざるを得ない雰囲気になっていた。


 本来強そうな人が弱っているのみると珍しいものを見た気がするんですよね。




 そこに憐みまして蔑みなどの感情は一切ありませんが。


 理性の反転なしの真面目人間状態のこの時は(ビタミンCが不足しているんじゃないかな? 生の果物を食べたらいいかもしれない)なんて考えてたと思う。


 人がいいのはいいけれど、返しがつまらない真面目人間ですからね。




「我の代わりにこのダンジョンのマスターをしてくれないか?」




 老人の死に際の一言みたいに、思い残した事をしているだけなのだろうなと軽くとらえていたと思う。


 健康状態はあまりよろしくないようだけど、見た目的な年齢は30代いくかいかないだから。


 きっと意識が朦朧とした結果の気迷い事の1つだと思い私は軽く「いいですよ」と答えてしまった。


 どうせ後で撤回されるだろうし、その時「大丈夫です、分かってましたから」と答えればいいと思って。




「承諾を確認した。これより冥王のダンジョンのマスターはお前だ」




 その言葉と共に私の手は宰相さんに握られた。その手は想像していたよりも力強かったですね。


 間髪入れずにオーラとして纏っていた黒い煙は腕を伝い流れ込み、私にダンジョンの情報を教えてくれた。


 腕から流れ込んでくる煙は生暖かく、私に触れると透明になっていきました。




 煙は消えたわけではなく、ただ私に見えなくなっただけのようなのです。


 暖かな空気を周囲に感じるので、空気の壁を周りにつくったようなのです。


 異常をきたすと宰相さんがなっていたように色が黒ずむのだそうです。




「後は自由にしてくれ。我は疲れた。ちょっと眠る」


「おやすみなさい」




 必要な情報は? 全部煙にダウンロードされてた。


 何ができるか、よくわからないよ、と思っていたら、パソコンのようなウィンドウが出来た。


 過去から現在の私までのダンジョンマスターの記憶がメモリにあったので、そこを参考にしていくとだいたいがわかった。




 このダンジョン。潰れたら世界が終わる。文字通りこの世界が崩壊する。


 そしてこのダンジョン、代替わりで余命を伸ばしたけど、このままでは残り30年しか稼働できない。


 原因。過疎。強いアンデッドモンスターばかりで誰もここに来ない。




 延命手段として選ばれたのは異世界の魂とそのリソースを使って補う事。


 ダンジョンマスターとは人柱だったのである。


 見返りは自由にできるダンジョン世界、そのもの。




 そして人柱に選ばれるのは、見てて面白いけど話すとつまらない真面目な人、だそうです。




 さぁ、世界に盛大にディスられたので私酒盛りを始めます!




 飲まずにいられるかっ!

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