現代っ子エルフと異世界探検
「全く、探検隊が何故防衛戦をする羽目になってるんだか...」
味方がぼやいている間もどんどん敵の軍勢が迫って来る。
「撃ち方始め!」
号令によって様々な銃火器が火を噴き、
敵が足止めされているその間に俺達魔法に適性のあるメンバーは後方の指揮所で魔方陣を手に展開。
それを察した敵の飛び道具使い達が一斉に攻撃の準備を始めるがもう遅い、
回り込んだ彼美香達少数部隊は奇襲を仕掛けて敵の態勢を乱し、離脱。
「流石は〝エルフ〟殿!」
「魔法攻撃はじめ!」
魔法の準備を終え、各々の魔方陣から一筋の光が放たれる.....
2010年代日本、東京。
今は8月、都会特有の茹だる様な暑さの中目的地に向かう。
熱を反射するアスファルトと風を遮るビル群のコンボによってフルボッコにされたメンタルは、それでも目的地へと行かねばならぬという一心で足を動かす。
今なら蒸し焼きにされる肉達の気持ちが分かると意味不明な思考をしながらも進み続けた身体は、遂に目的地へ到達する。
陸上競技場。偶に国際的な大会にも使われるらしいこの競技場では、今日東京の高校の選抜者による陸上競技大会が行われていた。
入口を通り観戦席へと向かった俺は、ちょうど始まった走高跳で目当ての人物を見つける。
俺は樋口漣、平凡な高校二年生。
特殊な能力もなければ何処かの特殊部隊に居るわけでもなく、高校の成績もパッとしない本当の一般人。部活は美術部(殆ど名前のみの幽霊部員)、
そんな俺がクソ暑い中こうして陸上競技場まで足を運んだ訳は、知り合いが一人出ているからに他ならない。
競技者の中で一際〝目立つ〟彼女は深呼吸を一つ、そして助走を付けていく。
彼女は素人目にも上手いと判る綺麗な背面跳びでどんどんと記録を伸ばしていき、最終的に一位だった。
他の競技や表彰などが終わり、彼女が出てくるのを外で待つ。
やがて、着替えを終えた競技者達がゾロゾロと出てくる。その中に居た彼女は、俺を目にすると駆け寄ってくる。
「どう?私が跳んだところ見てた?」
「あぁ、見てたよ。一位おめでとう、お疲れ様。」
俺が労いの言葉をかけると、彼女の特徴の一つである金糸の様な美しい金髪が嬉し気に揺れる。
「しかし、最近〝小神人〟の基礎体力が下がって来てるってニュースでやってたのにあれだけの記録は凄いな、美香は」
そう言うと俺の幼馴染である彼女―――瑞奈美香の、というより美香〝達の〟もう一つの特徴である尖った耳が朱く染まる。
小神人。そう言われる人は多くないが、老若男女全世界何処にでも居て皆尖った耳を持つ。
美しい容姿が割合多く、外国では古来の伝説に沿って森精だとか言っている地域があったり(実際日本も地域信仰がもとでこの名前が付いた)、
差別主義者的な性格の人間からは亜人とかなんとか言われたりして居るらしいが実際には其処まで他の〝ヒト〟と違う訳では無く、
昔人類が誕生した時に偶々耳が尖っていて長寿になりやすかった人達が居り、
現在全世界に居るのはその子孫では無いかとかなんとか専門家が言っていたような気がする...
が、そんな事ぶっちゃけ俺には関係ないし、当事者達からすればそんな事を考えている暇があったら今日の晩御飯の内容を考えるらしい(美香談)。
あと皆が皆可愛かったり格好良かったりする訳じゃないし、むしろそうでない方が多いと昔釘を刺されたが、知り合い(幼馴染)の小神人が美香(とその両親)しかいない俺にとってはとても信じがたい。
...とまぁこれは置いておいて、俺は美香と一緒に家に帰ることにした。
「そう言えば、今日頑張ったお祝いで食事にでも行きたいんだけど、明日って空いてる?」
「ちょっと待ってね...」
そう言って美香は予定を確認する為にスマホを取り出す。
こういう所を見ると、やっぱり〝小神〟人などと言われていても普通の人間なんだなと感じる。
「ん、大丈夫、いけるよ」
「良かった」
「ところで何処のお店なの?」
待ってましたとばかりに俺は自慢げに携帯を見せる。映っているのは高めのレストラン。
「うっそ!?こんな高そうなところ良いの!?」
数日前から北海道か何処かに狩猟に行っていて今居ない貴女のお父様に、出掛ける前に頼まれたんですよ...
当分は節約して過ごさないとな...。
「大丈夫?無理して高いところ取ってない?」
「そんな事無いさ、大丈夫だよ」
無理してますよえぇ。
「ほんと?...ありがとね、私なんかの為に」
......ただまぁ幼馴染の嬉しそうな顔が見られたから良いか
「そういえばもうお前の父さんに連絡したのか?ずいぶん心配してたぞ」
「あ、そうだった...ごめん、ちょっと電話するね」
先程仕舞ったばかりの携帯を再び取り出し急いで電話を掛ける美香の姿は、人形の様に可憐な彼女の容姿からするととても違和感がありそうなものだが、日常的な慣れた手付きが違和感を消している。
当たり前だ、彼女も人間で、架空の御伽噺の世界の住人でもないのに...。
「...ん、分かった、ありがとう。じゃ、そっちも気を付けて」
やがて電話が終わったようだ。
「父さん、なんて?」
美香の表情は何処か照れ臭そうだ。
「おめでとう、って。何時も頑張ってるお前ならこの後の地方大会も簡単だろうって」
「良かったじゃないか。」
「後、明日は普段のご褒美で、食事だけじゃなくて漣と一日中思い切り羽伸ばせだってさ、明日の予定変えないとね!」
「そうだなハハハ」
......幸い浮かれていてなぜ食事のことを親が知ってるかについて勘付かれていない様だ、良かった良かった...半ば脅されたのがバレたら情けないじゃ済まねぇぞ...
これが運命の変わり目だった...。
翌日、午前10時に目的地の最寄り駅を通る電車の駅で待ち合わせをする。
正直互いの家を知っているし、そもそも家が近いのだから何方かの家周辺でも良いのだが其処は乙女心というものらしい(これまた何故か美香の父親から念を押された。)
「お待たせ」
俺より数分遅れで来た美香は、白いワンピースに黒い薄手のカーディガンを手に持ち、普段運動するときは纏め上げている髪を下ろしている。
こんなに細かくジロジロと観察してつまり何が言いたいかというと、可愛い。後綺麗。
まぁ実際に見ていたのは一秒にも満たないだろうが、本当は時間の許す限り眺めていたい気分だ。
「どう...?似合ってる?」
「あぁ、とても」
まだ10時とは思えないかなりの暑さに頭が働くのを拒否し、一言言葉を絞り出すのが精いっぱいだった。
これ以上無理に言葉を出そうと口を開くと暑さにやられて余計なことまで口走ってしまいそうなので口を噤む。
唯でさえ今日は同じように暑さでやられいつも以上に知能指数の下がっている猿共のナンパを警戒しないといけないのに(父親要請)、
これ以上体力を使っていられない。
そもそも彼女達(個人的に小神人呼びは嫌いなのでこう呼ぶ)は互いに遠慮がいらないからか、
余程の事が無い限り同族とくっ付くのだ。
俺だって出来れば美香みたいな可愛い子と付き合いたいが、
そういう事もあり俺は名誉ある相棒兼幼馴染の座(彼女達は馬が合う人と、恋愛感情無しでも基本一緒にくっ付いて行動することが多い)
で満足しているのだ。
ただ腐っても男子高校生なのでワンチャン無いかな~って期待したりする事もあれば夜に一人寂しく美香で{検閲済み}...
「じゃ、行こうか」
「うん!」
じゃ、ボディーガード兼相棒兼幼馴染としてエスコート頑張りますか!
電車に乗ったものの乗客が多く、美香を守るためにピッタリ密着...
なんて事は起こる筈も無いしそもそも冷房が効きづらくなるそんな状況を望みすらしていなかったので、
空いている車内で席に座ったまま存分に冷房の恩恵を堪能した。
「ふぅ...涼しい」
「空いててよかったね」
美香も暑さが結構キテいたようだ。
「まぁいくら休日とはいえこんな猛暑日に電車で遠出しようとする人は余りいないだろ」
俺らは遠出してるけどな。
その後特に何もなく、2駅ほどで目的地の最寄り駅へと到着した。
ドアが開き、途端に熱気が体を包み込んでいく。
冷房で冷えた体がまた熱くなる前にと少し急ぎ足で改札を通り、駅を出てすぐの目的地の建物へと向かう。
目的地はショッピングモール、ある程度見て回った後に昼食をここで取り、(出来ればプールに行きたかったが勇気がなく)映画を見た後で
さらに電車で移動、予約している高級レストランへと行く手筈だ。
...手筈、だったのだが......
「何だ...これ...?」
昼食時に軽い地震のようなものが起き、軽い地震にしては窓から外に見える市民の様子が変だとは思ったが所詮その程度の認識でしかなかった。
しかし食べ終えてから少しするとやがてサイレンや喧騒が大きくなり、
流石におかしいと感じた俺等はショッピングモールから出て辺りを見渡す。
...否、見渡さなくても直ぐに分かった。
俺の一般人という称号と、平凡な生活が粉々に砕かれた事に。




