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ギャルゲーハードモード転生とか聞いてないんだけど?!

 俺には彼女がいる。名前は真屋湊といって、一ヶ月前、つまり今年の六月から付き合い始めた。真屋さんは髪が長く身長も高めのモデル体型であり、しかし人当たりの良さから男女問わず周囲から話しかけられる、言うなれば完璧な女の子だ。


 今日も二人で学校から帰っていた。二人で歩くこのゆっくりとした時間が俺は大好きで、月並みだがこのまま時間が止まれば良いのにとも感じていた。


 ──本当に止まれば良かったのに。そう思わずにはいられなかった。




「危ないっ!!」


「きゃっ!」




 全速力で駆けてきた自動車が真屋さんに迫る。即座に反応した俺は真屋さんを突き飛ばし、転けてはいるものの車の通る道からは外れたことを確認する。代わりに自動車の正面へ躍り出た俺は、身を躱すことなく、躱すことが出来るはずもなくその場で立ち尽くしていた。


 子どもの頃はよくドッジボールをしてたっけ。小学生の時も懲りずに外で遊んで、中学では格好良いからと空手部に入部。高校生になって初めて彼女ができて、それから。






 これが走馬灯と気付いた時には、俺の見ていた世界は急変していた。




「え、ここどこ?」




 一面真っ白な空間で、見渡す限りどこもかしこも地平線が広がっている。俺に怪我は見られず、服も学生服のままだ。


 誰かいないのか。試しに動いてみても、全くと言って良いほど景色が変わらないため移動した感覚がない。そのまま歩くも地面も空も前方もすべてが白なのでだんだんと遠近感が失われてくる。これ以上は無駄だと判断した俺は立ち止まり、何かアクションが起こることを待った。


 普通なら焦るところだろうが、不思議と俺の鼓動は平常のものだった。




「やあ、こんにちは」


「……誰だ。姿が見えない」




 突然聞こえた声。辺りを見渡しても白な広がるだけで、声の主は見つからない。




「僕の姿は見つけられないから周りを見ても無駄だよ」


「なら名乗ってくれないかな。わからないことだらけなんだ」




 冷静に言葉を返す。なぜか自分でも理解できないくらい落ち着いており、それが逆に焦る要因にもなり得るほどだ。




「僕は神様……、というより超越者かな。そんなところ」


「証拠は?」




 間髪入れず問う。理由は簡単で、俺はこの“超越者”と名乗った言葉を一切信じていなかった。それは現実的ではないことに加え、先程車に轢かれた後拉致されたと考えるのが妥当だったからだ。そうなると自分が無傷なことに説明がつかないが、その点を排除すると相手の言葉よりかは幾分現実味を帯びている話だ。


 『信じていなかった』とあるように、俺はこの後の言葉を否応なしに信じさせられることになる。




「佐伯南人君、現在一六歳で来月一七歳。身長一七二、二センチに体重六二キロ。……と、こんなことは調べたら簡単にわかるか。じゃあ核心をつくよ」




 名前に身長などピッタリ当てられ少し動揺したが、この後の言葉に俺はさらに驚いた。




「君、今は片親でしょ? お母さんと二人暮らし。ダメだよ~、お父さんを半身不随なんて」


「……嘘だろ。その話は家族にしか……」


「だから言ったじゃん。僕は超越者だし、何でもわかるんだよ」




 言葉を失い立ち尽くす。依然姿は見えないが声だけははっきり響く。まるでテレパシーのようだ。




「とりあえずさ、なんでここに呼んだか説明するね。選ばれた、って言った方が正しいかも」


「なんでもいい。早く」


「せっかちだなあ。じゃあ単刀直入に。君には今からある世界で超絶高難度の恋愛をしてもらいます!」


「ちょ、ちょっと待って!」




 いきなり看過できないことが出てきたので制止する。超越者はまたかい? と態度を崩さず先を促した。




「俺彼女いるんだけど!」


「知らないよ。いや知ってるけど、僕には関係ないね」




 罪悪感の欠片も見えないトーンで話を続ける。




「まあメリットも無しに強要するつもりはないよ。ということで、君がその世界でもしも誰かと結婚することができたなら! その時は……、そうだな。ここでは便宜的に運命とでも名付けようか。君と真屋湊さんがあの時死なないように運命をいじってあげるよ」




「運命をいじる……?」


「言葉通りの意味だね」




 つまり俺がこのおかしな要求を満たせば俺も真屋さんも死なないってこと? というか今の言葉からすると俺が死ぬのはわかっていたが、真屋さんも死んでしまうのか。車からは轢かれないようにしっかりと突き飛ばしたはずだけど、ダメだったのかな。自分のしたことは無駄だったのかと考えると、妙に気が滅入った。




「ただしその世界は男も女に見える。その世界に行ったら違和感なんて何一つ感じなくなるし、言ってみたら究極のハーレム世界的な?」


「でもそれに何の意味が……」




 むしろ難易度は下がるんじゃないのか。俺以外女だったら単純に出逢う確率は二倍になる。




「実はその世界って僕が創ったんだよね。試験的な意味もあるけど、とりあえず究極のジェンダーレス社会ってとこ。だから同性での結婚は全く忌避されないし、一切の色眼鏡もない。つまり君が“女に見えている男”に言い寄っても普通に受け入れられるんだ」


「そんなの性別を訊けば良いじゃないか」


「それはルールで禁止にする。男と結婚したら初めからやり直しで、三回までやり直しが可能。どう?意外と簡単そうじゃない?」




 ルールを纏めると、男も女に見える世界で性別を訊かずに結婚すればゲームクリア。こう聞くと確かにとても簡単そうに見える。




「じゃあ一回テストプレイしてみよっか! 今から君は夢を見る感覚に陥ると思うから、とりあえずその夢を見続けてね。仮に君が女に見えている男を選んだ場合」




 超越者が仮のタイトルを言うと、言われていたように夢を見ているような感じになった。正確に言うと自分を俯瞰的に見ていた。 話はよくあるパターンで、どこか古い西洋風の街路で立っていた俺はある女の子に助けられるというテンプレ極まりないスタートを切る。小柄な身長だが可愛いげのある顔の子で、気弱そうな印象を持った。


 そこから俺とその子は仲良くなっていき、ある日はその子の家でご飯を食べたり、家がない俺に小さな家を見つけてくれ、その後その子が家に入り浸るようになったり、果ては恋人繋ぎをしながら古い町並みを歩いたり。そうして仲良くなった俺達は結婚することになり、その人生のなかで出会った色んな人達を集めて盛大な結婚式を行った。


 俺はタキシード、その子は純白のドレスを着ていた。やがて神父(と言っても見た目は女だが)の前に立ち、互いに永遠の愛を誓う。そうしてキスの時がやって来ると、急に視界が暗転した。




「ここまでは良いよね? 普通に恋愛して、普通に結婚。ただこれは飽くまで“女に見える男”との結婚だよ? もし君が間違えて男と結婚しちゃうと、こうなる」


「……?」




 次第に視界が戻ると、そこには先程までとは全く違う結婚式が繰り広げられていた。俺や半分くらいの女はそのままだが、他は男になっている。神父もただの老人になっていた。しかし何より驚いたのは結婚相手の風貌。


 ムキムキの体にアンバランスなウェディングドレスを纏い、目を瞑ってキスを待っていた。そのあり得ない光景に何の疑問もなく俺は男にキスを──




「うわあっ!! 何だよこれ!」


「こうなるから気を付けてね」




 つまり手当たり次第に声を掛けて適当に結婚してしまうと男とキスしてしまうことになり、かつやり直しになる、と。一瞬簡単そうとは思ったがやはり難易度は高いようだ。男女どちらかを見極めつつ恋仲になる。しかし超越者による言わば“ご都合主義”のせいで簡単にはわからないようになっているので、どこまで見極めが出来るかわからない。まあ最悪種明かしの結婚式の時に誰が男で誰が女か覚えることもできるし、しかも三回もチャンスがあるのだからクリアできないことはないだろう。




「あ、間違って残機使っちゃった。てことで君のチャンスは二回だね!」


「ふっざけんなよてめえ!!」


「怒ると口調が変わるの、気を付けた方がいいよ。質問がなかったらこのまま行ってもらうけど、何かある? あ、あと流石に可哀想だから向こうの世界の子達は少し惚れっぽくしてるよ。手とか繋いだりキスとかしたらすぐ落ちるかも」


「余計なお世話だ」




 毅然とした態度で言い放つ。なぜ余計なお世話なのか。それは。




「俺は真屋さんと初めて手を繋ぎたいし、初めてキスをしたい。だから俺はプラトニックなままゲームクリアしてやるよ!!」


「……なるほど、だから選ばれたんだ。意外と君達はさっき言った運命で繋がってるのかもね。それこそどんな世界でも」


「? それはどういう……」


「じゃあ頑張ってきてよ。応援してるからね」




 超越者のその言葉を境に、俺の視界はまた暗転した。今度は微睡みのような感覚に加え、若干乗り物酔いのようなものも感じた。








 目が覚めた俺は、学生服は同じで先程の古い街路に立っていた。周りには露店は勿論馬車なども健在である。


 何をどうすれば良いのかわからず、その場で立ち尽くしていた。すると、そこへ。




「あの、大丈夫ですか?」




 見覚えのある小柄で可愛い感じの女の子がこちらを見上げるようにして聞いてくる。普通なら喜んで対応するだろう。


 これがさっきのテストプレイの子じゃなければ。




「うわああああ!!! さっきのムキムキお化け!?!?」


「ええっ!? だ、誰がムキムキお化けですか!」




 思わず後退りする俺に、目の前の子は心外と言わんばかりに顔を赤くしていた。

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