異世界召喚された勇者の一度だけ使えるユニークスキルで、俺のスキルとステータス全部奪われた~憎悪の黒炎 後悔の白炎 二人の騎士の行き着く先は~
「剣聖、あなたは――いや、貴様はもう用済みだ」
ここは王都の王宮内、黄金を主色とした内装に、見るだけで分かる高価な物品が置かれている。そんな中で兵士に捉えられ、王座に座っている国王に鋭い視線を送っている少年がいた。瞳には憎悪が渦巻き、拘束を解けば今すぐにでも腰に差している剣を抜き飛びかかるだろう。
――彼の名前はクロノ。世界最強とうたわれていた存在だ。十五の時には先代の剣聖を圧倒し、十八で世界に名を轟かせた。
そんな彼がなぜ一般兵如きに拘束されているのか、理由は国王の隣に立っている少年だ。彼はこことは別の世界――異世界から召喚された存在らしく、勇者と言われる者。
そんな勇者は一つ、世界の理を無視するようなスキルを授かっていた。それは”他人のステータスとスキルを奪う”という物だった。努力で積み上げてきた物を、彼は努力をしないで手に入れる……奪われた者からすれば、それは死よりも残酷な絶望を与えるだろう。
「許さない……貴様ら絶対に殺してやる!!」
「ふはははっ! 面白いことを言う。何の力も無いお前に我が殺せるとでも? ん? なんとか言ったらどうだ元剣聖殿?」
ぎりぎりと歯を噛みしめ、顔を赤くし目を充血させながら、クロノは国王に殺意を向ける。今まで国のために戦ってきたことは全て無意味だったのか、初めから手のひらで踊らされていただけなのだろうか、と言う感情がクロノの憎悪を膨らませる。
今までの努力、そして、旅の途中で死んでいった仲間達の思い。その全てを踏みにじられたクロノ。そんなクロノに追い打ちを掛けるかのように勇者が口を開く。
「安心してください。あなたのスキルとステータスは私が受け継ぎます。なのでどうか……せいぜい苦しみながら死んでいってください! あは、あははは」
勇者は笑う。地に落ちているゴミを見るような目で。
「おいそこに居る兵士。コイツを転移陣に連れて行け。行き先はそうだな……ラグナ雪原だ。凍死なり魔物に食われるなりして死ぬだろう」
「はっ! おい、立て。さっさとしろ!」
兵士はクロノを蹴り飛ばし髪を掴んで引きずっていく。その様子を見ていた勇者と国王は、残虐に満ちた表情で笑っている。正気の沙汰ではない。この国は腐っている。クロノはそう思いながら唇を血がにじむほど強く噛みしめた。
暫くすると、部屋の前にたどりつく。投げ込まれるように室内に放り出だされるクロノ。扉を閉ざされ、暗闇が訪れる。そして、突然クロノの下に紫色の魔方陣が浮かび上がる、それは次第に大きくなっていき輝きを増していく。
「転移……か」
刹那、急激に魔方陣が大きくなり部屋全体を包み込んだ。そして、それと同時に光の輝きも強くなり視界を白の世界が覆う。
凍てつくような冷気が突然クロノを襲う。周囲を見渡せば、激しく吹き荒れる吹雪と、何処までも白く塗りつぶされたような雪原。所々に地割れのような物もあり、とてもではないが人間が何の準備も無しに生きていける環境ではない。
幸いなことに、周囲から魔物の気配はない。しかし、このままでは命の灯火が消えるのも時間の問題だろう。クロノは縛られた身体を起こし、立ち上がった。両手は後ろで拘束されているために使えないが、歩くことは最低限出来た。深く厚い雪の地面を奪われたばかりの低いステータスで歩く。想像以上に身体が重く一歩に対しての体力の消費が激しい。
「はぁ、はぁ。早く吹雪の凌げる場所に行かないと……。このままじゃ保たない」
深く刻まれた足跡は、吹雪によって直ぐになかったことのように消えていく。徐々に感覚の無くなっていく手足、身体は歩いていても震えるほどに体温が低下しており、いつ倒れてもおかしくない状態だ。それでも尚立っていられるのは、あの国への復讐心。これから先も忘れることなど無いであろう記憶だ。
しかし、クロノに待っていたのは絶望だった。この吹雪の中であるにもかかわらず聞こえてくる咆哮、それは今最も聞きたくない物……このラグナ雪原の主、氷結竜のものだ。辺り一面を覆う巨大な影、それはクロノの上空で静止し、吹雪とは別の暴風が吹き荒れる。
ばさばさと羽ばたく音が空から近づいてきたかと思うと、積もってる雪を巻き上げながら地に降りる。その姿はまさに空の王者と言うに相応しい姿だった。凍り付いた水色の竜燐に、鋭く光っている黄金の目。その瞳の中に映し出されるクロノの姿はとても小さく見える。
そして、その視線から感じ取れる氷結竜の感情。それは飢えだ。捕食者のその視線に足は竦み、まともに立っていられない。その場から逃げることも出来ずクロノは死を覚悟した。しかしクロノは――
――死にたくない
目の前に迫る巨大な口を前にクロノはそう願う。淡々と近づく死、何故こんな所に来てしまったのか、その原因に思考がたどり着く間もなく頭を口内が覆った。身体を包むかのように一口、 咀嚼すること無く喉を通って行く感覚にクロノは声にならない悲鳴を上げる。氷結竜はクロノが完全に体内に入ったのを確認し空に向かって咆哮を上げ、翼を拡げ空に舞いあがる。
氷結竜の体内で浮遊感を感じながら、酸素を求めるかのようにクロノは口を開ける。強烈な腐臭、ろくに酸素のないその空間に息苦しさを覚え、気が遠くなっていくのを感じる。そして、喉を通り胃にたどり着いたのだろう、少しだがゆとりのある空間に出た。
クロノはこの先に待っている地獄を予感する。そこでクロノの意識はまどろみの闇に消えていった――。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おとーさん! 早く早く!」
「こらこらアレシア、そんなに引っ張ると危ないぞ?」
「だって声が聞こえたんだもん!」
そう言ってアレシアは父の袖を引っ張っていく。ふわふわと雪のような白髪を舞わせながら扉の前まで走って行くと、目を瞑って大きく深呼吸をし、宝石のように澄んだ若葉色の瞳をきらきらと輝かせながら目を開く。そしてアレシアはドアノブに手を掛け元気よく扉を押して口を開く。
「おかーさん! 生まれたの!?」
目の前にはベットの上で身体を起こしている母が居る。そして、その腕の中には赤ちゃんが大事そうに抱えられた。アレシアはそれを見てぱあっとさらに表情を輝かせ、父の袖を離して駆けていく。
「ほら、あなたの妹よ。今日からアレシアはお姉ちゃんね!」
「うん! お姉ちゃんになった! 初めまして、私はアレシア。今日からあなたのお姉ちゃんよ?」
「あーうー!」
「ふふ、きっとよろしくねって言ったのね。これからしっかりと守ってあげないとねお姉ちゃん?」
「うん! まかせて! お母さんとお父さんみたいに強くなって絶対に守るから!」
アレシアはそう言って両拳を胸の前で握った。その様子を見た父と母は顔を見合わせ、優しくアレシアの頭を撫でる。
「そういえばこの子の名前はー?」
「もう決めてあるの。この子の名前は……」
――……夢……か。
洞窟内で一人の少女、アレシアが目を覚ます。その瞳には後悔が渦巻いており、光が消えかけていた。暖を取るために燃やしていた薪も無くなりかけており、アレシアは膝を抱えるようにして体温を逃がさないようにする。
「時間が経つほどに思い出すのが辛くなる……あの幸せだった日々はもう二度と……」
アレシア泣きそうな表情で抱えた膝に顔をうずくめた。しかし、アレシアは顔を直ぐに上げ首を振ったかと思うと、ほっぺを軽くたたいて表情を引き締めた。
「あーもう、せっかくのチャンスなんだからこんな落ち込んでちゃ駄目よね! 待っててね……お姉ちゃんかならずあなたを見つけ出すから」
アレシアがそう言うと同時に洞窟の外から何かの咆哮が聞こえてきた。
「ッ!来たみたいね」
アレシアは壁に立てかけてある剣を取り外へと足を運ぶ。そこに待っていたのは竜、しかし、ただの竜では無い。氷結竜だ。アレシアはするどい視線を向け、未だに気づいていない氷結竜に飛びか合っていく。
「やぁぁっ! っと、まずは翼一個ね」
キュォォォと悲鳴を上げる氷結竜、そこでアレシアの存在に気づいたらしく氷のブレスを吐く。舞っている粉雪を氷に変化させるほどの冷気。食らえばひとたまりも無いだろう、アレシアはと言うと余裕の表情を向けていた。
アレシアの足下の雪が唐突に溶け始める。それは急激に範囲を拡げたかと思うと次の瞬間、身体を 白い炎包み込んでいた。そう、赤では無く白い炎だ。その熱量は魔法を使ったとしても、簡単に出せる物では無い。
淡々と近づいてくる氷のブレス。それはアレシアを覆ったかと思うと、次の瞬間には熱気と冷気がぶつかった事による爆発音と共に蒸発していく。霧の立ちこめる中、氷結竜は翼で風を起こし払う。しかし、その時既に遅い。氷結竜の背後ではアレシアが剣を振りかぶっていた。首が飛ぶ。切断面の肉は焦げ、どすんと言う音を上げながら地に落ちた。
「私の白炎は伊達じゃ無いわよ」
そう言って氷結竜の鱗を剥ぎに行くアレシア。しかし、どこからか男の声が聞こえてくる。
「な、なに! どこから聞こえてきてるの!」
周囲を見渡す、しかし、何処を見ても人影は無い。そして、アレシアは耳を澄ませ声を辿る。その先には氷結竜。その腹部は黒く染まっていた。
「なにが起きてるの……」
アレシアがぽつりとそう言った瞬間、氷結竜から漆黒の炎が吹き出した。それを見てアレシアは直感的に感じ取った。『私と同じ炎』だと。




