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美しき御神楽

信念で結果を変えることはできない。結果を変えるのは何時も実力だけで、信念というのは自信過剰を引き起こす毒薬に等しいものだ。




槍を持った兵士は白髪の少女へ突進する。一方、その少女は右手で持っていた黒光りする刀を迷いなく振り抜く。その刃は兜と鎧の隙間を正確に通し、首を刈り取る。


兵士は崩れ落ち、隙間から鮮血が流れ出る。しかしそれを見る暇もなく次の兵士が声を上げ大剣を振り下ろすが、少女はそれを優雅に躱し左手で持っていたもう一本の刀で兵士の手首を切り落とす。そして大剣は兵士の手と共に地に落ちる。それは秒に満たないできごとだったので兵士は何をされたのか分からず唖然としていると首を切り落とされる。




これで58人を切り落とした。


どいつもこいつも動きは単純で、そして人数で押せば私を殺れると意気込んでいる。


無駄なのに。




だがまだ兵士達は諦めないようだ。いや、諦めていないのは指揮官だろうか。指揮官が兵士たちに信念を植え付けているなら兵士が諦めないのも納得する。




少女は突撃してくる兵士軍を見据える。


数はおよそ50人といったところか。問題は無い。


少女は着ていたチューブトップの和風の服の帯を締め直し、裾を整える。崩れかかったポニーテールを直し、茶色のブーツの紐を結び直す。兵士軍との距離はあと100メートル。刀を握り直し、深呼吸する。そして深呼吸を終えると騎士軍目掛け走りだす。




先頭集団はそれに怯むが、誰かの「構うな!」という声にもう1度気を取り戻し、少女を目視する。


遠目でははっきりと見えなかった少女の顔は、とても麗しいものだった。




そして少女の剣舞が始まる。




誰の刃も少女を捉えることはなく、また、少女の刃から逃れられる者もいなかった。ある者は首を切り落とされ、ある者は四肢を切り落とされ、痛覚と出血多量で意識を失い、やがて死ぬ。


そして50人といた兵士は僅か30秒で地に伏せた。


少女はため息をつきながら刀に付着した血を払い、切り殺した兵士の亡骸の方へ視線を移す。それは地獄絵図に等しい死体の山。常人ならたちまち嘔吐する斬殺跡。しかしそこに、1人の黒髪の青年がいた。装備からして兵士だ。しかし、武器を持っていない。


少女は感情のない赤い瞳で青年を睨み、会話を試みる。




「全員殺した筈だけど」




「すまんな。森をさまよってた。それで抜け出したと思えばこれだ」




声色からして青年は少し怒っているようだった。しかし感情に振り回され、考えなしで突撃をかます他の兵士とは違う。




「仲間が殺されているというのに随分と冷静ね」




「ああ...そうだな。...よっと」




青年は軽く答えると、死んだ兵士の片手剣を2本取り上げて片手に1本づつ握り、試しに振る。兵士から取り上げた片手剣は二刀流用に作られていない。当然、重量は常人にはまともに扱えるものではないし、リーチも癖がある。しかし青年は軽々と振り、違和感なく扱っている。それを見るだけで少女は青年がどういう人なのかを理解をする。




「意外と待ってくれるんだな」




「だって暇だもの。もう周りに人は居ないし、私を楽しませて?」




少女は無感情のジト目で上目遣いをすると、2本の黒光りの刀を構える。




「可愛い顔でそう言われると期待を裏切りたくはないが、生憎俺の実力じゃ無理かもな。だが、」




そう言って苦笑をすると、片手剣を構え、




「足りない部分は根性で埋め合わせるさ」




と青年は決めゼリフを吐き捨てる。すると少女は呆れたようにため息をつく。




「下らない。貴方はそこで倒れている兵士がどうやって死んだのか見てなかったの?信念なんて、無駄なのに」




「いいや、意外とそうじゃないかもしれないぞ、神楽レイちゃん?」




「...そう、気安く私の名前を呼ばないでくれる、若い兵士さん?」




「おっと、そういえば名乗り忘れたな。俺はヘルン公国騎士団副団長、エヴァンだッ!」




青年エヴァンが名乗るのを合図に両者は地を蹴る。20メートルあった距離は1秒でお互いの息が感じられるほどの距離になる。


最初に攻撃をしたのはレイ。真っ向勝負は刃渡り的に不利なのでエヴァンの突撃を器用に受け流し、背後を取ったところで首に刀を下ろす。幸いエヴァンは兜をしていない為、多少動きにくくても首は取れる。が、エヴァンはそれを予知していたのか片手剣を自分の背後にやりレイの刀を受け止める。


レイはブラインドの状態で自分の刀を受け止めたことに驚くと同時に、なんで騎士団はこんなにも面白い人物を今の今まで隠していたのかと嬉しい感情を抑えきれず口角が吊上がる。


エヴァンはレイの刀の力を利用してくるりと反転すると片手剣でレイの刀を壊す勢いで振るう 。


レイは刀に掛かる力を最低限にするため刀を傾けるが予想をはるかに上回る負荷が襲い、後ろに飛び退く。




「...折れたと思っていたんだが」




エヴァンはレイの戦闘力を落とすため、刀を使い物にならないようにするつもりだったのだがその思惑は上手くいかなかったようだ。黒の刃は傷ひとつ見せることなく、平然と佇んでいた。




「それ、相当の業物だな。それもそこら辺じゃ作れもいないほどの」




レイはその言葉に耳を傾ける事もなく、二刀をエヴァンの命を奪うため振るう。


八方向からの様々な斬撃、そして点の攻撃で防ぎにくい突き、徒手格闘など多種多様な攻撃をするが、それを捌ききるエヴァンの実力はレイを満足させるのには十分だった。


レイは今まで様々な人間を相手にしてきたが、レイとの一騎打ちに10秒以上付き合えた者は一人としていなかった。騎士部隊長、幹部、熟練暗殺者達は一般では常軌を逸脱した腕前なのだが、それを軽々しく殺めたレイと渡り合えるエヴァンという人物は、最早人間なのか疑わしくなる。


幾度となく続ける斬撃を受け流し、時には避け続けられるのでレイは埒が明かないと判断し、後方に大きく跳ぶ。


するとレイは大きく深呼吸をし、ゆっくりと腕を広げる。普通は戦意喪失と汲み取るが、エヴァンは絶え間なく流れ出るレイの殺意に油断することなく剣を構える。




「貴方は、とても強い。それも私が相手した中では1番。だから、使える」




レイはゆっくりと体を動かして構える。エヴァンは言葉と行動の意味が分からなかったが、自分の本能が囁く。危ない、と。




「神楽、ヤトノカミ」




そして神楽は始まる。


レイはエヴァンとの距離を詰め、再び刀を振り下ろす。さっきと同じようにエヴァンは受け流し、避け、偶に攻撃を仕掛けるが、どの攻撃も優雅にかわされ、受け流しや回避がしきれず顔に切り傷を付けられたり、鎧の隙間を浅く切られる。


さっきまでは両者傷一つ付けることは無かったことに対し、今度はエヴァンが一方的に傷を負うことになっている。


その理由はエヴァンにはにわかに信じがたいが恐らくレイは何も考えていないのである。人は視覚から脳、脳から筋肉と動くまでに時間がかかる。極限状態になれば、視覚から筋肉へ直接電気信号がいき、いわゆる条件反射になる。このタイムラグは絶対に消せないものであり、これの短さで熟練度が決まる。しかし、エヴァンが感じるにはそのラグがほぼ無いに等しいのである。まるで演技のような、定められた動きをしているように。




エヴァンは次第に追い詰められていき、左手の片手剣を弾き飛ばされてしまう。エヴァンの武器は残りの1本だけになり、ただでさえ苦しかった戦況は更に悪化する。しかしレイの斬撃は減ることなくエヴァンを狙い続ける。


するとエヴァンは転がっていた兵士の鎧に足を引っ掛けバランスを崩す。それを見逃す程レイは甘くなく、エヴァンの片手剣は10メートルほど飛ばされてしまう。




「これで、終わり」




レイの刀が振り下ろされる。勝負は決した。そう思われた。




「まだ、終わらねえ!!!」




しかし、副団長はまだ諦めなかった。篭手で刀を受け流し、レイの腕をつかむ。そのまま捻ろうとするがレイの筋力は腕の細さに見合わないほど強く、振りほどかれてしまう。レイは刀で腕を切り落とそうとするが、エヴァンは寸でのところで回避し、レイの背後へ回り込み、腕と体を絞める。抱きつく形で。




「~~~~ッッ!!」




レイは必死でもがくも、腕は拘束されてる上、鎧を着て騎士が使う片手剣を2本持って軽々と振り回す剛力羅に適うはずもなく。




「ちょっ!暴れんな!大人しくしろ!当たってる当たってる!」




副団長は初心らしく、レイの推定Dのの下乳が手に当たったりその重量を感じたりして顔を赤くさせる。


殺人鬼もそういうのには縁がなかった事もないが、大体が事の前に殺していたため、実際のところは初体験なので白く綺麗な肌をほんのり紅潮させている。


そうしてる合間に次の兵士団が到着する。レイはどうせ数秒で終わるだろうと思っていたのでこれは想定外だった。なので兵士たちは抱き合ってるエヴァンとレイを見るやいなや




「副団長と殺人鬼が抱き合ってる...!!」


「二人して火照ってやがる!よりにもよってあの二人が...!」


「てかあれヤる寸前でしょ」


「え、あの女って殺人鬼?めっちゃ色白美人じゃん」


「てかこれ副団長、国家反逆罪で指名手配じゃね?」


「「「「確かに」」」」




といっせいに言い出す。一方エヴァンは汗を滝のように流し、レイは赤い顔を刀を握った手で覆い、数秒の沈黙の後、一緒に森へと逃げていった。




こうして若き騎士と美しき殺人鬼の共闘記は始まる。




しかし道中、エヴァンがレイに「以外と大きいんだな」と言ってしまったことを後悔するのは別のお話である。

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