勇者が売りなアバンチュール探偵
かつて、世界には、見た人間の足が竦む、天をも貫く摩天楼があった。
かつて、世界には、星の内部を食いつくしたと悪評が流れる、地下研究所があった。
その他、様々な世界の代表的な、建造物、歴史遺産、観光名所が存在した。
それらは今、歴史的功績も無に帰されたかのように、天地を返され地面へと墜落している。
世界は今、終わっていた。
だが残響のような破裂音が届いた。続けざまに大気を薙ぎ払う轟音が空間に伝播。
遠く、落下していく建造物に人影が二つ、各時代様式が混在する建物で、飛び交っている。
片方、彼女は銀色を一括りした髪型。布のような装備ではなく、青の機械装甲を身に纏い、手には弾倉式機械槍。
もう一人は男。 黒髪に、様々な言語の民族的な衣。手には、原始的な要素を一切捨てた、銃火器が握られていた。
飛び散る鉄火が激戦を彩る。空を翔け、超威力の魔法が飛び交い、建物を粉砕する。
そして
「埒が明かないわねもう、こっちも消耗してるんから早く済ませたいってのに!」
もう堪え切れなくなったのか、威嚇するように刺々しく声が放たれる。
彼女の近未来的な装備は装甲は所々歪み、対する男も、軽装であるにしては過剰とも言えるほどの切り口や、穴が開いていた。
「こっちも同じ意見だ。魔導士には見えない癖に、えげつないもん使いやがって。おかげでなけなしの一張羅がボロボロだ」
「君は、最初から腹筋モロダシだったじゃない!」
罪の擦り付けをされて顔を尖らせて文句を捲くし立てるが、男にとってはどこ吹く風。
明け透けなく余裕な態度を取られて、彼女の眉がへし折れそうになる。なにせ最初に仕掛けてきたのは、この男である。
「なんだ、まだやりあうか? 生憎とライフルの残弾が少ないから勘弁して欲しいんだが」
「違うわよ、色々な出来事でパンクしてたけどここどこよ! あなた誰よ! 他のみんな一体どこにいったのよ!?」
それを聞いて、男は軽く思案して
「ふむ……敵かと思って最初攻撃したがこりゃ心配なさそうだな。オレはダンゾウ。こっちは一人だったがあんたは別みたいだな、生憎と知らない」
男―――ダンゾウは、ペットを撫でるように銃に触れ、気楽に名乗った。
返答を聞いて怒りを露わにしながら彼女は言う。
「貴方ねえっ! 状況だから仕方ないとしても、あんなもの放つんじゃないわよ!」
「仕方ないだろう、さっきまで魔王の城に侵入してたんだしよ。出会った瞬間石化させて来る警備兵相手だったから、即座に消し炭にしねえと。だから手癖でジュと」
「気楽に神格レベルの一撃なんて放つもんじゃないわよ……ていうか魔王の城って、あなたもここにいたの?」
彼女は、今自分たちが足場にしている場所を指し示す。
丁度、混在する城の外装が地面になっている場所。彼女が立っているのが、機械的外装になっており、魔法陣が書き込まれている。ダンゾウが立っている場所は、レンガ作りの古臭い感じがする、洋風な城。
そこは
「私が立っている場所、ここが魔王城だった場所よ? 周りの景色が変貌する前、この場所で世界に仇名す魔王と戦って勝った場所よ」
「は? あんた何言ってんだ、こんな外から容易に攻め込めそうで無理だったここが、俺が殺した魔王が住む居城じゃねえか」
そこで、お互いの食い違いに気が付いた。
「……待った、疑問にも思わなかったが」
「私もよ、辺境に住んでたから知らないと思ってたけど」
彼らは、先ほどまで魔王の城に攻め込んでいた勇者である。
お互いの武装は、攻め込むためにきちんとした整備もしてある。だが超常の存在でもある魔王を勝つためには資金が、必要だ。資金援助があって初めて活躍できるのだが。一企業だけでは、そんな救世主たちを十全にサポートはできない、国が援助するのが基本である。そのため彼らはその国の看板を背負うことになる。
つまり、国家所属の英雄であることを世界に表明していることに他ならず。
『なんで、オレ(私)を見たことも聞いたこともないの?』
国家を上げての、救世主活動の宣伝。国の看板を背負うことは、彼らに偶像として、民衆に希望を持たせ、国家のイメージアップを行わなければならないのだ。どこへ行っても顔が知られている。言うなれば、世界的トップアイドル。
それを知らないのは、常識がないどころではない。
気付いた真実に頭を押さえながら、火器を置き、座り込む。顔色は混乱に染まっていた。
「待て、待てよ。頭がこんがらかって来た。 魔王討伐のためにどこの国から援助を受けた?」
「異種族が入り乱れた崩壊間際の国メドよ。国の再建をかけた、国家事業だから私の本とか写真集とか、出回ってる筈なんだけど……そっちは?」
「知らんな。そんな国すら聞いたことがない写真集なんてあったら三部買う。そもそも異種族だあ? 人間以外にも種族があるような言い方でこっちも混乱するわ!」
「ドワーフ・エルフ・ワイバーン・竜。これらの魔物と敵対する種族を纏めて、異種族って言ってるんだけど」
その情報を聞いて彼は思いっきり、倒れ込んだ。許容範囲を超えたらしい。
別の人間がキャパオーバーしたのを見て混乱が収まったのか。
「……もう埒が合かないし、割り切っていかない? 早くここから出たいんだけど。紅茶でも飲みながら対策しましょ?」
彼女は倒れ込んだ彼の元にいき、顔を覗き込む。頭が沸騰した彼と違い、この割り切りようだ。凛子とした佇まいで、声をかける。
「ねえダンゾウ。聞いてる?」
「……もうダメだろこれ。魔王倒したらこんなことになるってのは聞いてねえよ。突然ここに放り出されるし、変な女に出会うしで終わった……」
「変な女は余計よ、さっきまでの威勢はどこ行ったのよ。余裕のある調子は?」
「意味不明な存在に出会ったらこんなになるに決まってんだろ……ああもうだめだ……死ぬ……名も知らねえ過激装備の奴に看取られるのは最高だけどよォ……」
「あーもう過激言うな! 私の名前はベール・ミュラーよ、早く起きてシャキッとしなさい!」
さっきまでの調子はなく気落ちして、ひどく顔が濁った男、ダンゾウ。彼女、ベールは仕方なく彼を立たせようと腕を引っ張る。細かい文句を発しながらも見捨てない辺り、彼女の良さが出ている。
だが、ここまで強情に動かず、死ぬとか働きたくないとか、絶望したとか言い出した彼に、さすがに辟易したのか
「もう、どうすればいいのよ! 何でもしてあげるから、いい加減動きなさい!」
「それなら……したい……」
「もっと大きい声で! 気合い入れなさい!」
「オレ、接吻がしたいですッッ!」
〇
人の本能は、極限状態でその性能を発揮することがままある。
火事場力や睡眠、食欲など。本来ありえない状況で圧迫されてストレスを開放するためにおこっているともいえるだろう。
「何言ってんのよ君! 女の大事な唇を渡すわけないじゃない!」
「なんでもするっていったましたよねえ……女に二言はないんじゃないのか!?」
「あるに決まってるじゃない!!」
この状況も仕方がないともいえた。
彼は、怒涛のイベントをこなし切った後なのだ。
魔王殺害のために何度死線を超えたかもわからないが、頑張った後なのだ。
つまり、ムラムラしているのだ。
「けだもの! 野獣! 変態! 露出狂!」
「露出度はそっちのが上だから興奮するッッ!」
装甲服の下腹部にある、スラスターを起動させ飛翔。溜められた欲望を解放させ、ダンゾウは、空中を走り彼女を追う。またもや混沌とした魔王城を駆け巡り、最終的に。
「離しなさいこの変態! 今ならまだ私専属の神様の天罰で済むわよ!」
「ここまでくればさすがに抵抗は……できねえだろう?」
捕まった。
組み敷かれたベールは、装甲服の機能を使おうとするが起動しない。歪に口角を上げるダンゾウ。銃火器から、行動阻害術式が発動しているのため、起動しないのだ。
「こんの……魔王を討伐した自負はないの!? 」
「四天王は遠距離から嬲り殺したオレにプライドなんてない……さあ渡してもらうぞ……ッ!」
「タダの犯罪よねコレ!? 」
ベールは確実に服装も、この状況を巻き起こした原因であることは確かなので、復讐を誓う。
ダンゾウはもう、目がヤバい。目的を遂げた時の牢獄行きは免れないだろう。
「さて、オレの未来に乾杯だ、いただきます……!」
「ちょ……やめっ……!」
そして周りの景色が見ない程に、お互いの距離が近づいた瞬間。
パシャリと、電子音が二人の耳に響いた。
音がした方向に眼を向ける。
そこには、カード型の端末を持った、Tシャツにズボンと、彼らが先程から置かれていた状況から見て、異質な服装をしている。
周りには同じ服装の人間が数人。
それどころか、異様な城や灰色の空さえ消え去り。青々と茂った雑草。五月蝿い生物の鳴き声、訝しげに視線を向け、道を進んでいく人々。
空にて、眩く光る恒星が覆い被さるダンゾウの背にかかる。人々は、彼らを見てひそひそ話を繰り広げる。
「ねえ君たち……公園で真昼間から盛るのは、辞めようね?」
紋章が入った帽子をかぶる、青い服装の男性から声が掛かる。
咄嗟の状況に頭が今度こそ沸騰しそうになる二人。だがこの展開、この流れ。
魔王を討伐した超越者の思考回路が、正解を導き出す。
「この女が、こんな服装で誘ってきて……オレは本意じゃなかったんです……ううっ!」
「この男が、無理やり組み伏せて来て、抵抗の間もなく、襲われかけてたんです……!!」
総じて罪を擦り付け合い、勇者は問答無用で、連行された。




