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薄命世代  作者: 赤狐
第二幕 終着駅の話
9/13

硝子


 気が付くと、自分の部屋ではなかった。

 寂れた駅。ホームの上に待機用として設けられた、白色のプラスチックシートに腰を掛けていた。


 駅全体を挟むように、白濁の空を背負った建物群が聳えていた。頭上には、波形のトタン屋根が伸びている。足下のコンクリートは所々が損壊し、灰のような砂塵と、ガラスの破片が散らばっていた。地面に打ち据えられた駅名表示板からは、文字が擦れて消えている。

 浮島のプラットホームの両脇を、錆びた線路が一本ずつ走っていた。駅構内には、それぞれの線路に向けて背中合わせに拵えられた、片面三席のプラスチックシートが、一定間隔で置かれている。


 一組離れたシートの傍には、一人の少年がいた。

 小柄な体格に、男子用の詰襟学生服を着込んでいる。その少年の姿は、少し距離があるせいか、陽炎のように揺らいで見えた。

 対岸のホームには、一人の男性が佇立していた。

 駅の構造は二面四線で、浮島が二つ並列している形だった。その男性の頭は丸刈りで、太縁の眼鏡をかけている。黒のスゥエット姿で、分厚い本を開きながら、駅構内の支柱にもたれ掛かっていた。

 不意に、賑やかな声が聞こえた。丸刈りの男性の背後にある階段から、家族連れが降りてきているところだった。まだ若いであろう父と母が、二人の娘がはしゃぐ様子に笑みを零している。 

 家族連れが出てきたのは、自分側と反対側のホームを繋ぐ、連絡通路の階段だった。線路の上空を跨ぐように、屋根付きの木造橋が架けられている。

 その連絡通路は、分断されていた。二つのホームの間に立ち並ぶ、架線柱の腕金から伸びた白い送電線が、通路の壁に突き刺さって、反対側まで貫いている。まるで有刺鉄線のようなそのロープは、大地に敷かれた線路に平行して、地平線の果てまで連なっていた。最後は空に溶けて、同化している。


 病的な寒空が俯瞰する、無機質な高層ビルが取り巻く、朽ち果てたプラットホーム。

 僕は、見覚えのない風景を眺めて、シートの背もたれに体を預けた。

 ひどく、厭な気分だった。


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