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薄命世代  作者: 赤狐
幕間
7/13

影絵


 高坂徹は、笑っていた。

 教室の片隅で。少人数の男子生徒と、ぼそぼそと。

 不格好な、暗い笑顔を隠しながら。

 まるで、人目を避けるように。


 秋田幸司は、笑っていた。

 教室の中心で。男子女子の視線を一身に浴びながら。

 屈託のない、大袈裟な笑顔を見せつけて。

 まるで、率先して目立つように。


 静観怜子は、笑っていた。

 教室の一角で。取り巻きグループに囲まれながら。

 端正な、微笑の表情を作って。

 まるで、周りの理想とするイメージになるように。


 篠木中央高等学校。

 随分と年季の入った、古い第一校舎だった。その教室の中は、同じ制服を着た学生達で溢れかえっていた。

 一人で本を読む男子生徒。

 席をくっつけて喋っている女子生徒。

 早くに弁当を食べている運動部の生徒。

 輪になって騒いでいる生徒の一団。

 自然とグループごとの棲み分けが形成されていて、人口密度の密と疎がはっきりと浮かび上がっている。

 クラスメイト達の顔は、中庭に面した窓からの逆光で、あまりよく見えない。ぼんやりとしたシルエットの群れが、まとまりもなく蠢いている。

 だけど不思議と、口元の表情だけが明瞭に判別できる。逆にそれ以外の部位は、暗澹とした靄で覆われているように感じられた。


 影絵の教室。


 休み時間の喧噪の中で、一際大きな音が響いた。

 生徒達の視線が、一カ所に集中する。そこでは二ノ宮先輩の空席が、横倒しになっていた。

 蹴飛ばした張本人の秋田は、わざとらしくにやけながら、指の関節を鳴らしている。周りの反応を確認してから、大股で教室の隅へと歩いていく。

 その先では、高坂が両膝を震わせていた。秋田は正面にまで近づくと、壁のボードを拳で思い切り叩いた。暴力的な行動に、高坂がさっと顔を逸らす。

 秋田は息巻きながら、さらに詰め寄った。高坂と会話をしていたはずの男子生徒達は、我関せずといった様子で、すでに逃げてしまっていた。

 視線を合わせようとしない高坂に対して、秋田はなおも獰猛な笑みを浮かべる。高坂が抵抗をしないことを確認すると、そのままクラスメイト達を振り返った。片腕を突き上げて、興奮を共有させるように扇動をする。

 盛り上げるような歓声と、くすくすとした忍び笑いが入り混じる。成り行きを眺めていただけの傍観者達が、祭り騒ぎに便乗しようと、さらに囃し立てる。

 悪意に満ちた集団意識が、教室中に瀰漫(びまん)していた。

 離れた席から静観(せいかん)していた静観も、内心は興味津々なのだろう。表面上は取り繕いながらも、堪えきれないといった風に、身体をくの字に折って、陰湿な笑みを漏らしていた。


 それは、繰り返されている日常。

 どこにでもある、教室風景だった。

 静観は上品そうに口に手をあてて、嘲笑する。

 秋田は静観の仕草を見つめて、満足そうに嗤う。

 高坂は逆らわずに、卑屈な笑顔を貼り付けている。

 僕はその光景を、じっと見つめていた。

 机に顔を伏せながら。上目遣いで、ただ見つめていた。


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