〜寂れてしまった商会と繁栄する港町〜
その夜たらふく飲み食いさせられて持ち金をすべて持っていかれ
疲れ果てて海沿いを歩きながら自邸であり拠点であるキルク商会の前になんとか辿り付いた
土地は高祖父の代から引き継いだため港町の中でも1等地にある
だが建物は周りの物よりも一見して違和感はないがよく見るとどこか古めかしく至るところにコケや傷んでいる場所が目につく
我が一族が今に栄光を伝える唯一の遺産である
「ってよく爺さんは言ってたっけな〜」
夜月に照らされる自邸を眼前に海辺の湾岸の石積みの防波堤によっかかり酒場でもらったお土産の土酒を飲みながら回想にふける
この建物は港町ができて間もない頃
創成期時代に建てられた唯一の荘厳な建物であった
新大陸の発見およびその新航路の開拓に成功して流れ者だった初代が
航路の中間に位置するこの港に目を付けて瞬く間に港の原型として埠頭を町を建設していき莫大な利益を得た
たが時代の変化に伴って次第に力を付けた行商人が周りに新居を構え増改築をしていく一方で
この建物は港町のしいてはこの国の発展のため商会の財政は次第に厳しくなり力を失っていった…だからといって自分の代で潰すわけにはいかない
「俺は商会を立て直すぞ!!」
そんなことを酔った勢いで叫んでいると自邸の中から白い髪の紳士が飛び出て来た
「ぼっちゃま!まぁ〜たそんなにお呑みになって!
登城の知らせを受けただけだと言っていたのに
なのに帰りが遅くて我ら心配したのですぞ!」
「おぉムロ爺すまないな
ちょっと思ったより時間がかかってな」
「またそんなことを言ってなんですかこの無様な御姿は!
お祖父様が見たらさぞ悲しみますぞ!」
ムロ爺…デーニム・ムーロは昔お祖父様が航海士として雇っていた一人で一緒に苦楽を共にしてきたらしい
お祖父様が亡くなってから我が家の行く末を案じて執事長として長年仕えてきた
時には航海士の先生として接し時には私の父親代わりに叱ったり褒めたりしてくれた家族のような存在である
「もっと当主としての自覚を持って下されキルク様」
そう言いムーロは酔いつぶれて道路に伏しているキルクを抱きかかえる
「いつも…苦労…かけ…て…すまない…な…かならず…さい…こう…さ…せ…」
それを最後に強い眠気に襲われてそのまま深い眠りについてしまった
お読み頂きありがとうございます
今回の章は改めて加筆をした所です
しばらくは商会についての回が続く予定です