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あの春の夜に桃の花の散る様を眺めていた少年は、結局自らの足で里へ赴くことは出来なかった。それどころか山へ行くことも、河で魚を捕ることも、獣を捕えることも出来なかった。
ただし次の春を迎えることは出来た。病気がちだった少年は、その後両親が連れて来た名医のおかげで病が改善し、寝所から出られるようになった。自由に庭を歩けるようになった。毎日薬を飲み続けなければならない以外は、健常な者と変わらない生活が送れるようになった。
しかしその後の少年を待っていたのは、お家再興を掛けた科挙試験へ向けての猛勉強だった。少年には兄が三人いたが皆都の科挙試験に合格することが出来なかった。士官への道を諦め屋敷に戻って来ていた。末の息子である少年に両親は多大な期待をしたのは言うまでもない。少年は来る日も来る日も書物と向き合い、老師から教えを受けて勉強する日々。元々が聡明な子どもであった少年は若くして科挙試験に合格して、都に出て士官の口を得た。宮廷で働き始めた。気が付けばあの頃の小さくやせっぽちだった少年は頑強で背の高い美青年へと成長していった。