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魔王だけど勇者たちほんと怖い。  作者: 暑季常夏
第1部 今日から魔王(他作品様とは一切関係ありません)
8/13

新世界

「ようこそ!新世界、『忘れ語り』へ!」


そういって手を大きく広げて世界を表現する天使ちゃんを見て僕は冷静を失っていた。

それもそのはず。さっきまで寂れた古臭い屋内にいたと言うのに、一瞬にして青い空がどこまでも続く緑豊かな場所にいたのだから。


それに季節は秋だったはずだ。それも冬に近い。

だとしたらここは外国なのか。いや、だが一分とかからずに他国へ行けるような技術力は世界にはまだない。


噂では『どこでもドラァ!』という衝撃を使った転移の実験をしていると聞くが成功はしていないはず。

ならばこの状況をどうやって説明しようか。仮にここが外国ならば、この国のお金も持ってないし、喋ることもできない。何より法律に関わるだろう。こんなもの違法でしかないのだから。


だが同時に認めなければならない事もできた。

それはこの天使ちゃんが本物の天使か未来人かなにかだということ。


本当に非現実的だ。認めたくないほどに。


「さあさあ、まずは新しい世界にこんにちはをした感想を一つ」


手でマイクを握ったようにして近づけてきた。


「本当に、信じられないよ」


この高くなった自分の声を含めて。

遠くの木を見ればフクロウにお面のようなものを被せてまるで二つ顔があるように見える生き物。草の方を見てみれば、花ではなく、代わりに鈴が生えた植物。


本当に異世界なんだなぁと実感した。


「それより、どうして僕の声が高くなっているのかな?」


ついでに言うと目の高さも下がった。

その違和感を感じていると、天使ちゃんは微笑みながら何かを取り出した。


「天使的アイテム、『鏡よ鏡』。本当は何が偽物で本物でと見極める鑑定道具として作られた鏡ですが、別に物を映すことには変わりないのでこれでどうぞ」


それはまた便利な道具だことだ。全国の鑑定士は喉から手が出るほど欲しいだろう。

それより、天使ちゃんは一体どこから二メートル近くある鏡を出したのだろうか。謎である。


鏡を見る。自分の全身を映してくれた。

そこにはなんと身長140後半くらいで、童顔で目が大きく鼻が細い大変可愛らしい少女が映っているではないか。ただ、転生前に来ていた紬は少女の姿に合わず浮いているのも確かであるが。


「マジですか」


正に、自分の二十代の頃の姿である。

当時なかなかにコンプレックスだった姿に戻ってはいたが、当時の不快感はない。あの頃は若かったんだなと頷く結果だ。


「当時の二十代の頃に変身させておきました。おじいちゃんのまま転生しても夢がないですし、いろんな事に興味がでちゃうお年頃の方が楽しめるでしょう?」


姿はまだ青年でギリギリ通るかもしれないが、心はおじいちゃんである。

思春期など遠い昔に捨ててきた。

天使ちゃんの微妙な気遣いを受けながら頰を掻いた。


「それは素晴らしい気遣いなんだろうけどさ。この髪、なに?」


僕は髪を指差して問う。

姿は二十代そのまんまなのに、髪だけ弄ってあったら聞かざるおえない。


「なに、とは?」


天使ちゃんは頭にハテナを浮かべて首を傾げた。

いや、だからさ。


「なんで女の子みたいに長くて、なにより白色なのかな!?」


びっくりである。仰天である。

最初鏡を見せられたとき別人が映っていると思ってしまったじゃないか。


後ろで一つに束ね結んでしまえる程の量の髪。

そして純白と言える色。


僕は二十代のときは髪を染めた覚えも伸ばしていた覚えもない。

むしろ、せめて男らしくと短くしていた記憶がある。


「ああ、長くしたのは私の趣味ですよ。男なのに可愛いってサイコーじゃないですか。そうそう、とある村に魔法使いとして修行している男の子がいるんですけど、それがまぁ可愛いくて!天使的力で髪の伸びが女性並みに早くして上げてるんですけど嫌がって切っちゃうんですよね。いやー実物ですよ。諦めて髪を伸ばすか一生頑張って切っていくか」

「どうして天使が人間に嫌がらせするのか」


その村の男の子には同情の念を送っておく。

って、そんなことはどうでもよくて。


「これはなに、天使的力?色、カラー」


白色って。アニメやゲームでなら見た事あるが実際にはほぼいないだろう。

色素が薄い訳でもアルビノ持ちでもないし。これで目が赤ければ完全にアニメキャラだ。


「ああ、ちなみに目は赤色ですよ」

「うそ!?」

「ほい鏡」


マジだった。白髪に赤色の瞳だった。天使ちゃんではなくて僕が中二病キャラだ。


「なんか中二病キャラみたいですね。ぷふ」


その頭火が出るまで撫でくり回してやろうか。

そう思っていると天使ちゃんはごほんと咳払いして説明をしてくれた。


「説明させていただきますと。人間って実際に発揮できる力はほんの数十パーセントで、百パーセントの力は使えないのはご存知ですか?」

「聞いた事はあるかも」

「はい。それは脳が力の拘束をしてくれているだけでして、本当はどんな人間でも俺TUEEE!出来るんですよ」


俺TUEEE!って。


「でもみんながみんな俺TUEEE!主人公じゃ世界の均等が壊れるでしょう?だから脳が働いてくれています。いやはやお利口さんですねー」


朗報、僕たちみんな俺TUEEE。


「ですがここは異世界!魔族も勇者も力の百パーセント発揮できるような化け物なのにあなた様だけ縛られてちゃ弱いので、拘束なんてなくさせていただきました」


はぁ……。と頷いて見せるが、百パーセントと言われても実感がない。

それに髪の説明にもなっていない。なにか、人間百パーセントの力発揮できると白くなるのか。全国のおじいちゃんTUEEEな。


「試しにジャンプしてみてくださいよ」

「いやそれでなにが変わるって………ぶぉぉぉお!?」


天使ちゃんの言葉に軽く飛んだら空を飛んだ!怖い怖い高い!変な声でた鼻水もでた!

空中を二分ぐらい彷徨ったら次には急速で着地に向かう!重力が僕を殺そうと襲ってくる!紐なしバンジーってこの事なんですね!

死んじゃぅぅう!?


「よっと」


地面が足につ……かなかった。

身体も潰れていないし、すこぶる健康だ。


「楽しかったですか?」


天使ちゃんの腕の中で放心していると可愛らしく笑ってきた。それはもう天使様のように美しい笑みで。

どうやら抱きかかえられていたらしい。


あの速度で落ちてくる人間を地面で抱えるか。

多分ビルの二十階ぐらいから落ちたと思っていたのに。


空は凄かった。見たこともない鳥がいっぱいいて。

空に浮かぶ島だって見えた。そしてなにより、


目を奪われ、心踊った。


これじゃあ、ここが異世界で、この子が天使だって認めなくちゃならないじゃないか。

それになにより、


「楽しかったよ」


これから楽しくなりそうじゃないか。

この世界のこれからに期待し、僕の中で天使ちゃんが天使様に変わる瞬間だった。

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