食事だいじ。
辱めを受けながらも着替えた服。皺などがないか確認するために鏡の前で一回転。
くるり。それをうっとりとした顔で頬を染めるロアは見慣れたので無視。
それにしても、うん。
あいも変わらず魔王と言うには格好がつかない。
小さな身長に童顔。目は大きく、鼻は細い。女性なら誰もが羨む可愛い顔立ち。髪はせめて男らしくしてやると思い短いが、鏡に映るのは完全にショートカットの幼女である。身長は推定140後半といったところか。すげーだろ?これ、二十代なんだぜ。
この世界に身長を測る道具なんてなかったが、入社して健康診断の時に医者と仲良くなった時には一度身長を測ったが、150の壁は越えることができなかったはずだ。とうの昔に亡くなっているけれどプライベートでも仲良くなった変わった医者だった。
初めて出会った時も「私の愛玩用とならないか!?」と鼻を荒くしていたが、よく意味は分からなかったから断った。
話を戻すと、この姿は魔王とは呼べない。小さいし、眷属たちからも可愛いなんて呼ばれてしまう。男で可愛いと呼ばれて嬉しかったり許されるのは十代前半までである。この姿は既に社会に出た身だというのに可愛いと呼ばれても嬉しい訳がない。
この世界に来て色んな眷属たちと出会い触れ合い、様々なことを教えてもらった。もちろん、魔法も。
ならこの魔法をちょちょっと使い身長が高い優男にでも変身してみようかと考える。
どうして思いつかなかったのだろう・・・。
最初からこのことに気づいておけばイケメン高身長優男が作れたというのに。
僕は天才かもしれないと自惚れているとロアが三度のノックと共に入室。
「聞いてよロア!僕が魔法でイケメン高身長優男に……」
「さぁ魔王さま。お食事の用意ができましたよ」
「それもいいけどさ!イケメン高身」
「冷めてしまいますよ?」
「優男」
「ロアの料理はお嫌いですか……?」
うるうると目に涙を浮かべるロアの顔をみて、イケメン高身長優男になれる魔法の思いつきは一瞬にして霧散した。こんな美人さんを泣かせるなんて紳士失格じゃないかと自分を殴りたい。
「さあロア、食事にしよう」
後ろから抱くように身を寄せ、片手は腰に当て、暇を持て余すもう片方は優しく包むように手を取る。
紳士なら誰もが出来る行動だ。……昔映画で見て憧れただけだけど。
「君が作った料理はサイレスの晩餐より心踊るよ」
「魔王さま……」
よかった。彼女が寂しい顔をしなくて。
自分の判断の素晴らしさに拍手しそうな気持で『魔王さまのへや!』と書いた板版をぶら下げた自室を出て食卓へ向かう。
「魔王さまがイケメン高身長優男なんて、させる訳がないじゃないですか。絶対に。いや見てみたくもありますけどそんなの今まで我慢していた理性を放てと言ってるようなもの。今の魔王さまも素敵ですけどイケメン魔王さまなんてケルベロスの群れに子羊を放つようなことになるでしょう。この城では間違いなく。絶対に魔王さまにイケメンの魔法なんて使わせるものですか。魔王さまはずっとずっと私と過ごせればそれでいいはずなのにどうして突然そんなことを?もしかして私に至らぬ点が?そんな馬鹿な上級悪魔の私が魔王さまにご失態など………………」
ぶつぶつ呟き始めるロアを見て首を傾げる。
なんて言ってるのか知りたくもあったがレディは秘密が多いと聞く。紳士な僕は根掘り葉掘りなことはしない。
食卓の近くまで来ると香ばしい匂いが漂ってくる。
今日の食事はなにかなぁ〜とワクワクしているとお腹が鳴った。
食事だいじちょーだいじ。
この頃には既に、イケメン高身長優男化計画を完全に忘れさっていたことは言うまでもない。