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終わりゆく異世界で  作者: 橘 祐輔
第一章
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第四話 「預言者」

――――ぴちゃん、ぴちゃん。


 どこか遠くで滴る水の音を聞き、祐輔は目を覚ます。先程の森とは違い、じめっとした空気に違和感を覚える。意識の覚醒に伴い目を開くものの、辺りが暗くて何も見えない。


「ここ……は……?」


 地面がゴツゴツする。どうやら先程の森林とは別の場所に居るようだ。僅かに土と岩の匂いがすることから、洞窟のような空間にいるらしい。祐輔は僅かに痛む頭を軽く振りながらなんとか上体を起こし、今の状況を整理する。


「頭が痛てぇ。……でも、それ以外には特に外傷は無し、か」


 祐輔は恐る恐る全身を手で触り、どこも怪我はしていないことに安堵する。


「それにしても、ここはどこだ……? 俺は、確か――」


 意識を失う直前の出来事を思い出す。ローブの男。空から降ってきたドラゴンの頭。そして、叫ぶ少女。


「そうだ、あの女は!?」


 森で出会った少女のことを思い出した祐輔は、慌てて辺りを見回す。すると、すぐ横から僅かに声がした。しかし、隣に居るであろう少女からの反応はない。どうやら気を失っているようなので、仕方なく手探りで彼女の身体を揺する。


「……んん」

「おい、大丈夫か?」

「……んぅ、だ……れ?」

「俺だ、祐輔だよ。どこか怪我はしてないか? 悪いが、こっちからじゃ暗すぎてよく見えないんだ。異常が無いかは自分で確かめてくれ」


 そう言って祐輔はリリアに声をかける。すると、ようやくリリアの意識が覚醒する。


「ユー……スケ? ……ハッ!! 大丈夫ユースケ!? どこか怪我してない!?」

「それは今俺が聞いたんだけど……。俺は大丈夫だ。それよりも、ここは――」



「おやおやおや、お二人とも目を覚ましましたカ?」


――どこだ、と聞こうとするも、別の声に遮られてしまった。祐輔とリリアは声のする方向へと顔を向ける。

 すると、再び暗闇から声がする。


「あらあらあら、暗くてよく見えませんネ。火をつけなけれバ」


 パチンッ、と指を鳴らす音と同時に、周囲が明るくなり二人の視界に光が入る。急な光に思わず目を細める二人。


「さてさてさて、場所を改めたことですし少しお話をしましょうかネ」


 眩しさをなんとか堪え、目を開けるとそこには先程のローブの男が立っていた。フードを被っているので顔はよく見えないが、輪郭と肌の色白さから日本人ではないことがわかる。

 周りを見渡すと、十数メートルほどのドーム状の鍾乳洞に似た空間が広がっていた。リリアを見ると、すでに背後の壁に近づき低い体勢で周囲を警戒している。祐輔が何かを言おうとするが、それよりも速くリリアが男に対して口を開いた。


「アナタ一体どういうつもり? 他人の所有した火竜を殺した時点で、立派な犯罪者よ!」

「あれはあれはあれは、仕方がなかったのでス。私は私は私は、あくまで預言書に従ったまでですシ」

「……また“預言書”。さっきもアナタは、『ある意味では皇帝よりも上の位の者』とか言ってた。それはどういうこと? そもそも預言書の存在をどこで知ったの? 預言書に従うってどういう意味?」

「まぁまぁまぁ、そう一気に質問なさらないデ。しかししかししかし、そうですね私はまだ名乗っていなかったのでス。」


 そう言うと男は、片手を胸の前に添えもう一方の手を腰へ持っていき一礼をする。その佇まいは、さながら英国紳士のようだ。


「私は私は私は、預言書に選ばれし最後にして最高の預言者“紡がれた十預言(テン・センテンス)”の一人。エゼキエル=エレミアと申しまス。以後お見知りおきヲ」


 そしてエゼキエルは、祐輔達を真っ直ぐ見つめ返す。その瞳は濁りきっており、祐輔は思わず身震いをしてしまう。男の視線から逃れるように、祐輔は先程の発言を頭で咀嚼する。


「……て、“テン・センテンス”? 英語の集団とか、またベッタベタな展開だなオイ」


 祐輔は耳にしたあまりにもそれっぽいファンタジー用語に思わず薄笑いをしてしまう。しかしリリアは、濁った瞳に対して顔色一つ変えずに居た。依然として、エゼキエルへ鋭い視線を真っ直ぐに送る。


「……アナタ、『預言書に選ばれし』と言ったわね。一体誰に(・・)選ばれたというの?」

「それはそれはそれは、もちろん“預言書(・・・)”にでス」


 エゼキエルもまた、リリアの鋭い眼光に対して一切顔色を変えず淡々と答えた。そんなエゼキエルの態度を見たリリアは、今まで以上にエゼキエルを含め周囲を警戒する。次第にその場の緊張感が高まっていく。異世界に来てまだ一度も安息出来ていない祐輔は、怒涛のシリアス展開に思わず溜息を漏らす。そして、二人の一触即発な雰囲気に耐え切れずに口を開いた。


「な、なぁ、二人ともさっきから“預言書”って言うけど、一体何なんだ?」

「ごめんね、これは国家機密だから部外者のユースケには何も言えないの。ただ、関係者の顔を全て知っている私でも、アイツのことは見たことがない。だからアイツもユースケと同じ部外者のはず。……アナタ、預言書の存在をどこで知ったの?」

「残念ながらながらながら、その問いにはお答えできかねまス。……強いて言えば『お告げを受けた』、と言ったところでしょうカ」


 リリアは一度考え込むように黙り込んだが、またすぐにエゼキエルに対して口を開いた。


「……“お告げ”、つまりアナタ以外にも預言書に関わる誰か(・・)が居るってことね。それが人にしろ神にしろ、アナタ達は私達国家とは違う組織で預言書に関わっている。そして、ローズヴァルト家にはここ数年預言書に関する重要な報告が入ってきていないから、その組織はまだ表に出ていない」

「ほうほうほう、流石は“天聖”のローズヴァルト家。なかなかの洞察力でス。しかししかししかし、貴女がいくらここで考察したところでそれは無意味なのですけどネ」

「……どういうこと?」


 リリアが怪訝そうにエゼキエルを見る。するとエゼキエルは先程とは打って変わって、溌剌と答えた。


「それはそれはそれは……」


 そしてニタァ……と笑い、こう続けた。

 



「――――――貴女は、ここで殺される(・・・・)からでス」


 刹那、エゼキエルは一瞬にしてリリアの背後に回り込みその両手首を掴み挙げた。その驚異的な速さにリリアは僅かに反応できず、立ち上がる暇も無くエゼキエルに拘束されてしまう。祐輔に至ってはエゼキエルの動きすら目で追えていなかった。


「きゃっ!!」

「なっ!?」


 突然リリアの背後に現れたエゼキエルに驚愕する祐輔。今まで遠くに居たために気が付かなかったが、この男、かなりの高身長である。男子の平均的な身長の祐輔より、数十センチは高い。つまり、祐輔より十センチほど低いリリアにとっては、体格的にも抵抗することが極めて困難だった。

 エゼキエルはリリアの両手首を掴みあげながら、リリアの顔を覗き込み興奮気味に話す。


「預言書はこう紡いのでスッ!! 『ローズヴァルト家ノ炎ヲ討テ サスレバ終焉訪レタリ』トッ!!」

「アナタ、やめっ!! ……くっ!!」


 そしてリリアを壁際に押し付けると、突然壁から鉄の鎖が飛び出し、リリアの鉄枷に巻きつく。リリアは成す術もなくあっという間に壁に拘束されてしまった。


「お、おい!! その子から離れろ!!」


 呆気に取られていた祐輔が、慌てて声を出す。しかし、既に何もかもが遅い。つい先刻まで普通の高校生をしていた祐輔には、何もすることができない。

 エゼキエルは祐輔を一瞥し、濁った眼を見開きながら静かに口を開く。


「そうですそうですそうです、貴方でス。……預言書にはあの森に居るのは彼女だけと書かれていたはズ。」


 そして歯軋りをしながらさらにブツブツと呟く。


「なのになのになのに、なぜ貴方が居たのですカ? なぜでス? なぜなのでスッ!?」

「えっ、お、俺?」

「そうですそうですそうです、貴方ですヨッ!!預言書の紡ぐ未来は絶対ィッ!!あの場にあの場にあの場に、この者以外に存在してはならないのでスッ!!」


 そう言ってエゼキエルはローブの中から辞書サイズの書物を取り出した。そのまま荒々しくページを捲っていく。


「ほらほらほら、預言書には確かに――おヤ?」


 ぴたっ、とページを捲る手が止まる。しかし今度はエゼキエルが小刻みに震えだした。


「ばかなばかなばかナァ……。こんな……ことガ……」




 そして、恍惚とも狂気ともとれる表情でポツリと呟いた


「――預言書が、新たな未来を紡いダ」





少し間が空いてしまいましたスミマセン。


一応、完結までのプロットが完成したので今後は更新速度が上がるかと……(願望



誤字脱字、感想等お待ちしております。

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