1人
「……ごめん、マイ、ちょっと頭痛い。帰るね」
凛奈は赤く腫れた目を擦り、疲れたようにそう言った。
「うん。大丈夫? 家まで帰れる?」
「大丈夫だよ。また明日。ばいばい」
大丈夫かな。
そう思いつつも、私はまっすぐ家に帰った。
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「ただいまー」
誰も応える訳がない。
だっていつも私1人だから。もう慣れたよ。
ずっと1人。これからも1人。
「ただいま」と言っても「おかえり」の声はない。
本当に、1人なんだ……。
《真衣香》
急に名前が思い浮かんだ。
私の、姉……、になるはずだった人。
本当は、私にも姉がいたんだ。
《ねぇお母さん。この写真に写ってるのはあたしなの?》
《そうね、この子はマイにとても似てるわ。この子の名前はね、真衣香。あなたのお姉ちゃんになるはずだったんだけどね、マイが生まれる1年前に病気で……》
そのお母さんの言葉の続きは、あの頃はわからなかった。
《それで、いま、真衣香ちゃんは?あたしのお姉ちゃんはどこにいるの?》
真衣香。私の名前はおそらく真衣香の"まい"をとってつけられた名前なのだろう。
もし、お姉ちゃんがまだ生きていたら、こんな思いをすることはなかったのかもしれない。
なんで、お母さんもお父さんも、お姉ちゃんも悪くないのに、なんで泣いてんの?バカだなぁ。
「……っ」
涙が止まらない。
なんで、こんなにも寂しいんだろう。
ねぇ、誰でもいい。誰でもいいから……
「私を、1人にしないで……っ」