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プロローグ

 煌々(こうこう)と光る町の明かりのせいで、闇に染まりきらない空の下。人通りのない住宅街を、少女が一人、足早に歩いていく。

 肩まで伸びた髪を一つに結い上げた少女は、大きな黒目が特徴的な愛らしい顔立ちをしていた。だが今は、石膏(せっこう)のように(こわ)張った表情がその愛らしさを霞めている。彼女は、あることを直感的に感じていたのだ。


 ――何者かに、後をつけられている。


 足音はしない。一度勇気を出して振り返ってみたけれど、誰もいなかった。それでも、少女の胸の内に渦巻く不安は消え去ることはなかった。

 オカルト的なものではない。生きている『ナニカ』の息遣いを、少女は本能的に感じ取っていたのだ。

 彼女の今日のファミレスでのアルバイトは、時間通り二十二時に終わった。しかしその後、他のアルバイトの女の子との話に花が咲いてしまい、帰るのが遅くなってしまっていた。年頃の少女たちの話は、一度咲くとなかなか終わり時を迎えないものだ。

 少女は歩きながら、花柄の白いショルダーバッグの中からスマートフォンを取り出す。時刻は二十二時四十六分を表示していた。闇夜に浮き上がる明るい画面が、少しだけ安心感を与えてくれる。

 少女はスマートフォンを持ったまま、歩く速度を上げた。


 ――バイトが終わってから、すぐに帰れば良かった。


 今の少女の胸に広がるのは、ただただ後悔ばかり。彼女の不安な心に呼応するかのように、等間隔に並ぶ街灯の一つが、点滅を繰り返している。その切れかけた街灯の下を通り過ぎた直後だった。


 ザザザザザ――。


 近くの民家に植えられた大木の葉と葉が、激しく擦れる音がした。少女は心臓が飛び出さんばかりに驚いた。

 この音は、風のせいだ。

 少女はそう思ったけれど、先ほどからまったくと言ってよいほど、風は吹いていなかった。夏特有の水気を含んだ空気が、少女の全身にねっとりとまとわりついたまま離れない。周囲は不気味なほど凪いでいる。

 風のせいでないのなら、今の音は――。

 それまで必死に冷静さを装っていた少女だったが、弾かれたように走り出した。駆けながら、手に持ったままのスマートフォンで通話画面を出そうとする。誰でもいい。とにかく人の声が聞きたい。助けを求めたい。だが、指が震えて上手くタップできない。

 そのタイミングを見計らったかのように、塀の上から大きな影が降りてきて、少女の前に立ち塞がった。


「あ……?」


 それ(・・)の姿を認識した少女の目が、大きく見開かれる。

 これは、現実ではないのか。悪い夢なのか。


 ――助けて、お姉ちゃん――。


 大きな影は、恐怖と混乱で立ち(すく)む少女目がけて、真っ直ぐに飛びかかる。

 少女が手にしていたスマートフォンが、カツンと硬い音を立て、アスファルトに転がった。





『○月○日午後十一時ごろ、S市北区の路上で、女性が死んでいるのを巡回中の警察官が見つけた。女性はあおむけに倒れ、腹部の一部が無くなっていた。遺体の損傷状態から、大型の動物に食い千切られた可能性が高いという。

 付近の動物園から大型獣が脱走したとの情報はなく、警察では何らかの野生動物に襲われたと見ている。被害者は遺留品から、近くに住む高校生(16)と判明した。N署では少女を襲った野生動物の行方を追うと共に、付近の住民に注意を呼びかけるなどしている。

 現場はS駅の南西約八百メートルの、住宅地の一角。』


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