登録完了
スザクは、イグルドの背に跨り大空を飛んでいた。下を見れば、地上が見えそこには草食種が数頭発見できた。すると、イグルドは態勢を変えると地上目掛けて降下していく。みるみるうちに地上に近づいていく。野生のカンだろうか、草食種らはその場を全速力で離れて行く。
やがて、地上に到達する所で、翼を羽ばたかせて着地する。羽ばたいた衝撃で、周囲の草木が揺れる。
『さあ、地上に着いたぞ』
「ありがとうございます」
『スザクよ、いつか必ず父親は見つかる。信じ続けていればな』
「はい!」
『では、また会えるのを楽しみにしてるぞ』
そう言って、イグルドは翼を羽ばたかせて舞い上がった。その姿は、段々と見えなくなっていった。スザクは、飛竜船のある方向に向かって歩き始めた。
飛竜船の乗り口近くの木に背中を預けているククルの姿があった。
「やっと来たか」
「遅くなってすみません」
「いや、気にするな。クエストも終わってるわけだから、村に戻って報告をしないとな」
「はい」
ククルとスザクが飛竜船に乗ると、飛竜船はオリベル村に向かって移動し始める。
そして、村に戻るとスザクは3つのクエストを達成したことをギルドで報告を済ませると、正式にハンターとして登録を受理された。
「さて、確か親父の店に行くんだったな」
「あ、はい」
「今の時間帯なら、人もいないだろうし丁度いい頃合いだ。着いてきてくれ」
「はい」
スザクは、ククルの後に続いてククルの父親が営む武具屋に向かう。
◇ ◇ ◇
「親父、来たぞ」
「おう。やっと来たか。待ちくたびれたぞ」
ククルの父親、ムーベルの営む武具屋には様々な武器や防具が揃っている。その武具屋は、新人ハンターやサポータ、ベテランハンターが購入しに来るほどの人気である。
「さて、坊主。お前はどんなハンターになりたいんだ?」
「俺は――」
◇ ◇ ◇
「本当にその武器と防具で良かったのか?」
「はい。これ以外には考えられません」
「太刀と短剣二刀に布製の服か。鎧装備じゃなくていいのか?」
「重いのが嫌ですし、これの方が落ち着くんで」
「そうか。今日はしっかりと休め。明日からは1人のハンターとして厳しく指導していくからな」
「はい!」
「さて、お前が今日から住むところなんだが、その前に寄り道してもいいか?」
「はい、大丈夫ですけど。どこに行くんですか?」
「行けば分かるさ」
ククルに連れていかれた場所。そこは、オリベル村を一望できる丘だった。
「ここは……?」
「夕陽が綺麗だろ?」
「はい。こんな景色初めて見ました」
「はは、そうか。たまにここに来るんだ。悩んだりした時は、ここに来て時間を潰す。そうしてると、いつの間にか悩みなんて忘れちまう」
「ククルさんでも悩む時ってあるんですね」
「おいおい、俺をなんだと思ってんだ」
「でも、この景色を見てると、なんだか落ち着きますね」
「だろ?」
「はい」
海へと沈んでいく夕陽を見ていた二人にどこからか男の声が聞こえた。
「確かにここの景色は実に素晴らしい。瞳に焼き付けるだけではもったいなさすぎる。これは絵に描いておくべきだろうか」
「誰だ!?」
「別に怪しい者ではない」
「いつからここに?」
「そうだね。君たちが来る前からここにいたよ」
「一切気配がしなかったんだが?」
「気配を消すのは得意なんでね」
「……」
「そう睨まないでほしいな。怪しい者ではないんだ」
「名を名乗れ!」
「怖いなぁ。でも人に名を尋ねる時は自分から名乗るべきでは?」
「ククル・イーレア、こっちはスザクだ。オリベル村でハンターをやっている」
「どうもご丁寧に。私は、アーネスト。世界中を旅している」
「この村に何のようだ?」
「旅の途中で寄ったのさ。この村は実にいい村じゃないか。しばらくはこの村の宿にお世話になろうかな」
「……」
「あまりここにいると君の機嫌を損ねそうだ。私は宿に行かせてもらうよ」
「ククルさん……」
「……ここに長居をする必要は無いな。取り敢えず、お前がこれから住むところに案内するよ」
オリベル村を一望できる丘を降りて、スザクが住む所に連れて行くククルだった。着いた先は、ハンターが主に住む場所で、たくさんのハンターが住んでいる。
「えっと、確かスザクが住む部屋は二階の一番奥の部屋だったかな」
そう言ってククルは、スザクを連れて手前から五つ目の部屋に案内した。
「今日からここがお前の住む場所になる」
「ここがこれからか住むところ」
「何か分からないことは、ここの管理人に聞いてくれ」
「ありがとうございます。ククルさん」
「あぁ、俺はこれで失礼するよ。あ、一つ言い忘れるところだった。スザク、お前の最初のハンターとしてのクラスはD級からのスタートだ」
ククルは、スザクに背を向けると去っていった。
神聖暦2995年。サイラキス・ウィンドル・フラス王国、オステン地方オリベル村ギルド支部。ここに一人のハンターが誕生した。