邂逅
俺は、平原の奥にそびえ立つ山の中を登っていた。奥へと進むにつれて、辺りは段々と暗くなっていくが空気は澄んでいた。さらに奥へと進むと、明かりが見えてきた。俺は、その明かりを目指して進んだ。その先に、広がっていたのは、たくさんの竜が棲む場所だった。
『ふむ、人間がこの場所に来るとは何年ぶりかな』
その声は、俺の頭の中に直接聞こえてきた。
『どうした、そんな所に立ってないで降りてきたらどうだ?』
俺は、その声に逆らうことが出来ずに、立っていた場所からゆっくりと降りて行く。
『ようこそ、我らが氷焔竜が治めし街へ』
「氷焔竜……」
『さて、我の姿を見せないのは失礼だな。今、お見せしよう』
俺の目の前に、初めからそこにいたかというように、1頭の竜が現れた。俺はその姿を見た時、体の力が抜けてしまい、その場に静かに倒れ込んだ。
◇ ◇ ◇
『ふむ、気を失ってしまったか……。仕方あるまい、運んでやるとするか』
その竜は、そう言うと人型へと姿を変えた。スザクを抱えると、街の奥に見える城へと運んだ。その城は、既に朽ちていて天高くそびえていたであろう塔も辛うじて面影が残る程度だった。よく見れば、城以外にも街の建物も殆どの建物が半壊若しくは骨組みが残っているだけだった。
ここにある城や建物を見る限り、数千年以上の時が過ぎているのがうかがえる。かつては、人が街を築き、城を築き、王が治める一つの小さな国があったのであろう。
そして、その城には氷焔竜と呼ばれし竜が住んでいる。氷竜・イグルド。氷と焔、相対する二つの力を持ち、竜種の中では比較的穏やかな性格であるが、一度怒れば手がつけられない。
◇ ◇ ◇
「う……う、うん。ここは?」
「ふむ、目が覚めたか」
まだ意識のはっきりとしないスザクに声をかけたのは、見た目は40代半ばから50代前半ではあるが、その体は逞しい体つきをしていた。そして、何より特徴的だったのは鋭く伸びた八重歯だった。
「誰だ……?」
「そう警戒するでない。我が名は、氷焔竜・イグルド。この街を治める者だ。先程は、街の者が驚かせてすまない」
「待ってくれよ。竜って言ったよな?」
「確かに言ったが」
「どう見たって、人間じゃないか……」
「がっはっはっは」
「えっと……」
「実は、なんで人間の姿になれるかって言うとな」
「……」
「我らにも分からんのじゃ」
「え……」
「まぁ、簡単に言うと、竜の力と言っておこう」
「ざっくりしてますね」
「がっはっはっは、小さい事は気にしてもしょうがないからな」
「はぁ……」
「しかし、人間がここに来るのは久しぶりだな」
「前にもここに来た人がいるんですか?」
「うむ、ちょうどお主と同じ髪の色をしておったな」
「名前は、なんて言ってました?」
「確か、アカツキと名乗っていた」
「……アカツキ」
「知っているのか?」
「……父親なんです」
「ふむ、父親だったか。どうりで良く似ている。して、彼は元気かな?」
「いえ、分からないんです」
「分からないと?」
「はい。どこで何をしているのか分からないんです」
「そうか。だが、あの男はそう簡単にくたばらんだろう。いずれ姿を見せるだろう」
「そうですよね。きっと大丈夫ですよね」
「うむ、さて、あまり長居をしては心配する人がいるんじゃないのかね?」
「あ……」
「なら、麓まで私が連れていこう」
「いえ、迷惑では……」
「何を言うか。久しぶりの客人だ。それに、渡したいものもある。ついてこい」
スザクは、イグルドについて行くと辿りついた場所。そこには、4つの箱が置いてあった。
「これは、一体?」
「この箱の中には、それぞれ別のモンスターから採れる素材が入っている。そこで好きな箱を選ぶといい。もちろん、箱の中身については教えるし、そのモンスターがどんなモンスターかも教えるが、その素材で何が作れるかは我にも分からん」
「あの、この右の箱には?」
「うむ、それには獄炎龍・ガドレイルの素材が入っている。その名の通り、火を得意とする龍だ」
「では、左隣の箱には?」
「雷光竜・ビルゲルト。その名の通り、雷を得意とする龍だ」
「その隣の箱は?」
「泡水竜・アイドラル。その名の通り、水を得意とする竜だ」
「その隣の箱は?」
「その箱の中身は、氷焔竜・イグルド。その名の通り、我が一族の名だ」
「……」
「その中身は、我が友であり家族でもあった。決して、人間に狩られた訳では無い。これは、自らの死期を悟った友が願い出た最期の頼みが、自分を素材に変えること。それだけだ」
「……」
「お主がどれを選ぶかは、お主の自由だ。好きなものを選ぶといい」
「俺は、俺は、この箱を選びます」
「それでいいのか?」
「はい。これを使って武器や防具を作ってもらいたいんです。きっと、あなたの友も報われると思うんです」
「そうか。ありがとう。では、麓まで送ろう」
イグルドは、淡く光るとその姿を次第に変化させていった。やがて、光が収まるとそこにいたのは、男の姿ではなく威厳ある竜の姿だった。頭部や胴体、前脚、後脚、尻尾には氷と焔を纏っていた。それが、氷焔竜と言われる所以でもある。
『さぁ、乗れ』
スザクは、促されてその背に跨る。そして、空に飛び上がった。