初仕事
ククルとスザクが飛竜船に乗った後、飛竜騎士用の飛竜にいるところでは、ゲオルクが2頭の飛竜の目の前に手を差し出した。その手には、飛竜の餌が置かれている。
「さぁ、一緒に行きたいのはどっちだ?」
ゲオルクがそう言うと、2頭の内1頭は自分のいた場所へと引き返し、もう1頭はゲオルグの手に置かれた餌を舌先で数回突っついた。
「そうか、お前が一緒に行きたいか。よろしく頼むぞ」
その飛竜の鱗は白く瞳は青い竜。その気性は荒く如何なる飛竜騎士ですら、その背に乗せることを許さなかった。しかし、今その背にはゲオルグが乗っている。彼を主人として認めたのだ。
「いざ行かん! ギルド本部へと飛びたて!」
ゲオルクがそう叫ぶと、白き竜を雄叫びをあげ、空高く舞い上がる。
◇ ◇ ◇
飛竜船がゆっくりと空に上がったのと同じ時に、隣に舞い上がってきたのは、ゲオルクさんを乗せた白き竜だった。
「あれって、隊長か」
「ゲオルクさん……」
「へぇ、あの白き竜が隊長を主人と認めるとはね」
「そんなにあの白い竜は人に懐かないんですか?」
「あぁ、あの白き竜がまだ幼竜だった頃の話だ。目の前で親竜を殺されて以来、ずっと人を嫌っていてな。その幼竜を始末しようとしたハンターを止めたのが、今はこのギルドにいない人でな。その人には、よく懐いていた」
「それがあの白き竜……」
「人に懐いたのは、隊長で三人目だろうな」
「一人目は助けた人ですよね。二人目っていうのは?」
「ノアだよ。アイツは、飛竜船だけでなく飛竜騎士用の飛竜の世話もしているし、オリベル村のギルドにいる飛竜はアイツにとって家族みたいなもんだ」
「へぇ、すごいんですね。ノアさんって」
「あぁ、俺の幼馴染みだからな」
飛竜船の隣を飛んでいた白き竜は一気に速度を上げ、遥か彼方へと飛んでいく。
「あの速度なら、明日の夜には着くだろうな」
「1日は掛かるんですね」
「どんなギルドから飛竜で出ても最低1日は掛かる」
「ギルド本部ってどこにあるんですか?」
「ここから北に200キロほど行った所にある山の山頂にあってな。人が自力では立ち入れない。行くとしたら、この飛竜船か飛竜に乗っていくのどちらかだ」
「そんな所にあるんですね」
「まぁ、いずれA級ハンターになる為には一度ギルド本部を訪れる必要があるからな」
「そうなんですか……いつかA級ハンターになる為に行きたいです」
「まぁ、そのためには今日のクエストを終わらせてハンターにならないとな」
俺は、ククルさんの言葉にしっかりと頷くと、目的地である場所へと目を向けた。その先には、自然が広がった広大な平原とその奥に山がそびえる場所だった。
「お、そろそろか。スザク、降りる準備だ」
「分かりました」
そう言って、俺はククルさんの後についていく。飛竜船はゆっくりと、平原の端に設けられたベースキャンプの近くへと降り立った。飛竜船から降りると、花や草木の香りで溢れていた。空からは照りつける太陽と木々をかき分けるように吹く風があった。
「それじゃ、さっさと終わらせるぞ。それより、武器はどうするんだ?」
「大丈夫です。これがありますから」
俺はそう言うと、右肩に掛けていた包みを解いて、中から一振りの太刀を取り出した。
「それがお前の武器か」
「はい。いつか使いたかったんです。ずっと、この時を待っていたんです」
「ちょっと、手に持っていいか?」
「いいですよ」
俺はククルさんにその太刀を手渡した。
「これは、よく手入れされている。それも使った形跡はあるのに、まるで新品同様だ」
「ええ、父が使ってたものですから。それに、いつも必ず使ったあとは手入れしていたんです」
「そうか……」
ククルさんは、そっと俺の手に太刀を返した。その後、俺とククルさんは、クエストの依頼通りに次々とこなしていった。
◆ ◆ ◆
「スザク、これでクエストは終了だな」
「はい、そうですね」
「帰るまでしばらく時間があるがどうする?」
「少し探検してもいいですか?」
「構わないけど危ない所には行くなよ。俺は平原を見て回ってるから、何かあったらこれを使え」
「分かりました」
ククルさんに手渡された筒を持って俺は、そびえたつ山に向かって行った。