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冒険の始まり

 スザクが討伐、調査、採取の3つのクエストを受注し、ククルの待つ飛竜船乗り場に向かっている時だった。

 ククルに近づく人物がいた。その容姿は、中性的で男か女か分からない。


「あ、ククル。これからクエスト?」

「クエストと言えばクエストだが、さっき仮登録したばかりのハンターに同行するだけだ」

「あぁ、ハンターになるためのアレね」

「あぁ、アレだ。俺らも受けたから分かるが相当辛いしな」

「そうだね。アレは2度と体験したくないよね」

「まぁ、お前は一年前に引退して、飛竜船の整備士として頑張ってるみたいだな。それで、ノアは何してるんだ?」


 ククルにノアと呼ばれた中性的な人物は、こう答えた。


「先ほどギルド本部から各支部にある情報が回ってきまして、それをこれからクエストに行くハンターたちに知らせていたところよ

「ふーん、そのある情報ってなんだ?」

「数時間前に飛竜種がベリオル村の入口で討伐されたのはご存知だよね?」

「まぁ、一応俺たちが討伐したしな」

「それで、ギルド本部から各支部に非常警戒の報告が入ったの」

「で、その内容は?」

「……先ほどギルド本部の飛竜隊が各地の調査に向かったところ、古龍種と禁忌種が活動を始めようとしているみたい」

「全部で何体の古龍種と禁忌種が活動を始めようとしていたかは分かるか?」

「はい。飛竜隊の調査報告では、現時点で各地の古龍種と禁忌種を合わせて75体がほぼ活動を始めようとしているとの事みたい」

「ほぼという事は、活動を始めようとしていない奴もいるということか?」

「うん。禁忌種の1体だけがまだ休眠状態らしいよ」

「それで、その禁忌種が何かは分かるか?」

「一応ね。雷氷龍・ロウギュエル。山霊付近へ接近するクエストを禁止しています」

「そうか。まぁ、今回はそこには行かないだろう。初めてのクエストだからな」

「万が一にも遭遇したら必ず逃げてね」

「なんだ、俺の心配してくれるのか?」

「心配す」

「お前が俺の心配するわけないか」


 ククルはノアの言葉を遮った。


「ところで、ノア。お前って、男だっけ? 女だっけ? どっちだったっけ?」

「女だよ! 何回言えば分かるんだよ! 失礼だよ!」

「悪い、悪い。だって、そのストンとした体型と言いどう見ても女には見え」

「何か言った?」

「え?」

「何か言ったって、聞いたの?」

「いえ、何も言ってません」

「本当に?」

「もちろんだ」

「なら、いいけど。本当に大丈夫だよね?」

「心配するな。ちゃんと帰ってきてやる。そんなに心配なら1つ賭けをしよう」

「賭け? 何を賭けるの?」

「俺が約束通り帰ってきたら、何か奢ってやるよ。それでどう?」

「本当に?」

「あぁ、本当だ」

「じゃあ、絶対帰ってきてよ?」

「分かってる。心配するな」


 ククルはノアの頭を数回撫でると、飛竜船乗り場入り口に目を向けた。


 ◇ ◇ ◇


 俺が、飛竜船乗り場に着くと、そこには様々な飛竜種が静かに佇んでいた。


「これが飛竜船……」

「あぁ、ギルドがある村全てに存在する航空手段の一つが、この飛竜船だ」

「あ、ククルさん」

「さて、3つのクエストをちゃんと受注してきたか?」

「はい。この3つです」


 そう言って、俺はククルさんに受注してきた3つのクエストを見せた。


「なるほど。場所は丘陵か。まぁ、ここなら比較的安全だし早く帰れるだろう」

「えっと、こちらの方は?」

「あぁ、飛竜船の整備士をやっている元ハンターのノアだ」

「元?」

「一年前に、諸事情で辞めてから整備士として働いている」

「初めまして、スザクです」

「初めまして、ノアです。スザクね、良い名前ね」

「そうですか? 俺は嫌ですけどね」

「どうして?」

「……俺のいた地域では東西南北を守る4体の神を祀る習慣がありまして、その習慣からある決まりがありまして、100年に一度、生まれてきた4人又は5人に神の名を付ける風習があります。そのうちの1体の神の名前なんです。スザクというのは南を守る四神の名前なんです。俺の他にも、4人がそれぞれに東、西、北を守る四神の名前を貰っているんです」

「ビャッコ、セイリュウ若しくはソウリュウ、スザク、ゲンブの4体だったか?」


 その声は、ククルさんでもノアさんでもない全く別の人物の声だった。


「あ、隊長……」

「ククル君、先ほど討伐した飛竜種から剥ぎ取ったものだ。ノア君、飛竜たちの餌にこれを。そしてスザク君。初めまして、ゲオルクだ」

「は、初めまして」

「隊長、どうしてここに?」

「あぁ、先ほどギルドの支部長室から出たらスザク君が出て行くのが見えたから後をつけてきた」

「全然気がつかなかった……」

「それもそうだろう。隊長は全ギルドでも現在十二名しかいないS級ハンターの一人だからな。気付かれたとしても、全てが終わったあとだからな。お前が気付かなくても無理はないだろ」

「ゲオルクさん、飛竜たちの餌をこんなにたくさんありがとうございます」

「気にする必要は無い。飛竜船は、ハンターには欠かせない移動手段の一つだからな」

「隊長はどうしてこちらに?」

「先ほどギルド本部から、俺宛に、いや、現S級ハンター十二名全員に手紙が届いた。明後日までにギルド本部に出向せざるをえなくなった。それに伴い、俺の隊はは一時的に解散する」

「……いつごろ戻る予定で?」

「分からない。数週間か、数ヶ月か、行ってみないと分からない」

「そうですか……」

「私がいない間は、他の二人と協力してオリベル村を頼むぞ」

「分かりました。お気を付けて」

「ノア君、飛竜騎士用の飛竜を使いたいんだが、速い奴はいるか?」

「はい、ちょうど2頭ほどいますが、どちらにします?」

「見てから決めることにしよう」

「分かりました。では、こちらにサインと判をお願いします」

「毎回思うが、めんどくさいな。もう少し楽にできないかな」

「一応、ギルド本部には言ってはいるんですけど、難しいみたいです。本部の技術班が西の国のギルドでは機械端末による運用試験を開始したみたいですよ。正式に採用になるには今回の運用試験の結果を見てからとのことです」

「そうか。まぁ、首を長くして待つか。では、失礼する」


 そう言ってゲオルグさんは、飛竜船乗り場の奥にある扉を開き中に入っていった。


「とりあえず飛竜船に乗れ。準備が出来たらすぐに向かうぞ」


 俺は、ククルさんの言う通りに飛竜船に乗ろうとした時だった。


「スザク、その右肩に掛けてあるものは何だ?」

「これは、父さんの……父親から貰ったものなんです。いつかハンターになる日が来たら持っていくようにって」

「お前の親父さんは、もしかすると……」

「ええ、ハンターですよ。級は聞いていないんですけどね。それでも、俺にとっては憧れで誇れる父親だったんです」

「……そうか、引き止めて悪かった。飛竜船に乗って待っていてくれ」


 俺は飛竜船に乗り、外が見えるフロアに向かった。


 ◇ ◇ ◇


 その頃、ククルとノアは話をしていた。


「ノア……」

「どうしたの、ククル?」

「いや、ちょっと昔を思い出しててな。初めてのクエストに行ったあの日、俺とノアの二人が心配で隊長がサポータとしてついてきてくれた事があっただろ」

「うん、懐かしいね」

「3つ目のクエスト内容の終わる直前に、突然現れた牙竜種を前にして、俺とノアは戦うことも逃げることも出来なくて、隊長がなんとか撃退しようとしてたよな」

「うん、そうだったね」

「そして、悲劇が起きた。隊長が愛用していた太刀を真っ二つに折られて、左眼を失った」

「……」

「戦えなくなった隊長から、俺たちに視線が向かい歩いてきたその時だった。赤い髪に黄金色の髪が混じった太刀を携えた袴姿の男が現れたんだよな」

「そして、一瞬の出来事だったんだよね」

「あぁ、太刀一つで牙竜種の牙を砕いて鋭い爪も砕いて、それで最後は、首を斬り落とした」

「そう、それで私たちはオリベル村に戻って、ゲオルグさんは直ぐに左眼の治療を受けた。幸い失明にはならなかったけど、後遺症として、戦えないと言われていたけど、そんな心配をよそに一週間後には復帰してたしね」

「あぁ、化け物かと思ったりもしたな」

「うん、でもなんで今、そんな前の事を思い出したの?」

「あぁ、スザクの髪の色を見てな」

「スザク君の?」

「あぁ、アイツの髪の色も赤い髪に黄金色の髪が混じっている。それに、着ているのも袴だ」

「そんなの偶然じゃないの?」

「偶然か、ならいいんだけどな」

「気にしすぎると、クエストでミスするよ」

「分かってるって。じゃ、行ってくる。帰ってくるまでに願い事を考えとけよ」

「うん……」


 ククルは、俯くノアに背中を向けて飛竜船へと乗っていく。

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