キューピット現る!?
その少女はとても美しく、自分は一瞬見とれてしまった。年齢はどれくらいであろうか。
見た感じ、自分と同じ大学生くらいに見えた。
実際のキューピットとは違い、彼女は白い服を身にまとっていたが、
その白衣はとてもピチピチで、上からでも胸が強調されているなど、非常にエロティックだった。
「トオル、気を付けるんだ。こいつはただのキューピットの格好をしているだけだ」
タケシはそう自分に言い聞かせた。
それを聞いた彼女はムッとした表情になり、こう言ったのであった。
「ちょっと、なんて事いうの。私は本物のキューピットよ」
キューピットか……
別に本物でも偽物でも、自分はただ単に若い女という男の野生本能でしか見れなかった。
「そこ。じろじろ見るんじゃない」
そう言って、自分はタケシに背中を思いっきり叩かれた。
「行くぞトオル。今はこんな奴に関わっている場合じゃないからな」
タケシはそのキューピットの横を通ろうとしたが、すぐにキューピットが邪魔した。
「ちょっと待ちなさいあなたたち。今彼らは新しい恋をしようとしているのよ。
それなのに、何で邪魔をしようとしてるの」
「確かな正論だ。だが、俺たちも仕事なんでね」
そう言うと、タケシはハンドガンを取り出しキューピットに向かって発砲した。
「な、何を……」
キューピットはそう言ってその場に倒れ込んだ。
「睡眠弾だ。しばらく寝ていな」
「えっと、この女の人は何者なの?」
「ああ、あいつは俺たちと同じ浮遊霊で、あれも閻魔のおっちゃんの考えた新しいビジネスなんだ。
だが、最近では勝手に独立していてな。リア充にさせることを目標に、やみくもに恋を成就させているんだ。おかげで俺たちリア充バスターズとは対立していて、よく邪魔をしてくるのさ」
タケシの話をまとめると、どうやら彼女たちは最初は恋を成就させ、少子高齢化などで問題となっている地区を改善するために結成されたらしいのだが、これにより虐待などの新しい問題が発生し、活動範囲を閻魔大王の手により狭まれたそうだ。納得がいかない彼女たちは閻魔の手から離れ、勝手にビジネスを独立。その結果、好き勝手に恋を成就させているらしく、さっきのように恋を邪魔する奴ら(主にリア充バスターズとか)を妨害することもあるらしいのだ。だが、実際には何か裏があるらしいのだがそれはよく分からないらしい。
「おそらく、あの男を目覚めさせたのはあのキューピットだろう。
急いで探しだして、何とか彼の行動を妨害しないと――」
自分たちは大学の上空で頑張って探した。
そして、自分は校舎内に見覚えのある人影を見つけた。
「いた。あそこにいる」
男は大学の階段を上って、彼女のいる教室に向かって走っていた。
手には一通の手紙を握っていた。
「そうか。キューピットの野郎が彼女の場所を知らせた手紙を渡しやがったな」
「ど……どうするの?」
「どうするって言っても、あと使える道具は――」
タケシはポケットの中からたくさんの銃弾を出した。
中には石ころ弾、噂弾、睡眠弾、閃光弾が入っていた。
どれをどう使うのかは分からないが、名前で大体分かった。
「本来はもっと種類があるんだが、今回はこれだけしか持ってきてないんだ。
まさかキューピットが邪魔するなんて思わなかったしな」
タケシはポケットから小さなスマホの形をしたものを取り出した。
「こいつは未来テレビと言って、この後なにが起こるか分かるんだ。閻魔のおっちゃんが過去の悪事を見るための道具を、未来版にしたものだな」
そこには男が彼女の場所に行く様子が映った。どうやらそれによると、二人は周りに人がいるため校舎の裏に行くらしい。
「どうやら、出会ってもすぐには告白しないらしいですね」
「らしいな。だが、多少の時間が増えても、俺たちはこれからどうしたら――」
「ひとまず、今は先回りして、そこで何か考えましょう」
自分たちは校舎の裏に先回りして、何か仕掛けをすることに決めた。
校舎の裏は意外ときれいで、ベンチまで置いてあった。
ここでたばこを隠れて吸う生徒でもいそうな雰囲気だった。
「とりあえずここに犬の糞でもおいて、ムードを壊してみるませんか」
自分はタケシにそう提案したが、すぐに否定された。
「いい考えだが、きっとすぐに移動して別の場所で告白するだろう。彼らがここに来るまであと5分。もっといい案を考えよう」
その時、突然自分たちの足元に粘つく何かが付いた。
「何だこれ、足が動かない――」
上空から甲高い笑い声が聞こえた
「オーホッホッホ。どうやらリア充バスターズもこれまでのようね」
その姿は、さっきのキューピットだった。
「あなたたち、よくも先ほどは私を眠らせてくれましたね。その粘着液で、リア充が出来る様子を見ていなさい」
そういうと彼女は近くのベンチに腰かけた。
「ここなら人は来ないし、邪魔をする物なんてない。
ああ、新しい愛ができるのよ。なんて素晴らしいのでしょうね」
「おい、今すぐこの粘着物をとれ!」
タケシは大きな声で怒鳴りつけ足をばたつかせようとしたが、やはりほどける様子はなかった。
「いやよ。あんたはこれでもくらいなさい」
そう言うと彼女はコショウを取り出してタケシの鼻付近にかけた。
「な……きさ、ブァックショイィィィィ」
すさまじいくしゃみだった。自分の鼓膜が破れるかと思ってしまった。
「ふふふ、この天使のコショウであの男の子を起こしてあげたの。私って頭いいでしょう」
その時、こちらに向かってくる二人の影が見えた。
「くそっ、来てしまったか……」
それはやっぱり例の二人だった。
どうやら自分は、目の前でリア充ができる瞬間を目撃することになるらしい。
「話ってなんだい?こんな誰もいないところに連れてきて」
山口健はそう彼女に向かって言った。実際は周りに俺たちがいるんだけどね。
「あの、実はあなたに聞きたいことがあるの――」
女のほうである山本美紀はそう言った。
はて、何かその顔は怒っているように見えた。
「あなた、隣のゼミの女の子と付き合っているって本当?」
突然の発言に、男のほうは吃驚した表情だった。
そして、自分たちのとなりにいるキューピットも同じく吃驚した表情だった。
「そうか、あの時撃った噂話弾が聞いていたんだな」
「ちょっと、何よこの展開。あなたたち、また何かしたのね。おしおきよ」
キューピットはそう言って再びコショウをタケシの顔に近づけた。
「よせっ、止め……バックショィィィィィィイ!」
今度のくしゃみは先ほどとは比べ物にならないくらい大きかった。
それにはさすがのキューピットも驚いたらしく、手に持っているコショウを落としたのである。
コショウは落ちた衝撃で蓋が開き、中身が風に流れて男のほうに飛んで行った。
「ミッションコンプリートだな」
タケシはそうつぶやいた。
未来テレビにはお互いが離れて別の異性と楽しんでいる姿が映し出されていた。
「今回はキューピットにも助けられちゃったね」
「ああ。邪魔しかしないが、今回ばかりは彼女のおかげでもあるだろう」
キューピットがコショウを落としたあとの出来事は、それはそれは悲惨だった。
虚無のうわさでお怒りの彼女に、男のほうがコショウが原因のくしゃみをし、彼女の顔に向かってダイレクトに当たったのであった。その時ついでに彼の鼻水も彼女の服につき、そのあと彼女の手のひらが男の頬にヒットしたのであった。
「何か、男のほうが可哀想な感じがするね」
「だが、彼はまた新しい異性を見つけてそっちは成功する兆しだ。これでよかったんだろう」
キューピットも結局あきらめて帰って行った。自分たちの勝利といえるだろう。
ここまでいけばハッピーエンドなのだが、ここで一つ、まだ問題があった。
「で、どうやってこの足を外そうか……」
足元には、まだキューピットのつけた粘着が広がっていた。
「あのくそ天使め、このままにして帰っていきやがったな」
こうして自分は、身動きが取れないまま初の任務を終えたのであった。




