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初めての仕事

 まだ少し肌寒い朝。自分とタケシはとある家の屋根に降り立った。

「さて、まずはもう一度今回のターゲットを説明するぞ」

タケシはそういうと、説明を始めた。

まず、女の名前は山本美紀。外見は少々小太りで、黒髪のおとなしめの女の子だ。

大学2年生で、家族構成も、弟がいる典型的な核家族だ。

男の方の名前は山口健。こちらもやや小太りで、顔についているほくろが特徴的だった。

こちらも大学2年生だ。家族構成はこちらも妹がいる核家族だが、現在はアパートを借りて一人暮らしをしているらしい。


「さて、この二人はまだリア充ではないが、

今日女の方が男に告白して彼らはリア充になる予定だ。俺たちはこれを阻止しなければいけない」


「さあ、いくぞ」

そう言ってタケシは手に持っているスナイパーライフルを構えた。

「な、なにをするんですか」

「今日、女の方が朝学校で告白する気だ。だからここで一旦妨害をする」

彼はライフルである家に狙いを定めた。そこには写真で見た山口健がすやすやと寝息を立てて寝ていた。


まさか、今ここで撃ち殺すのではないのか。自分はタケシの方を急いで見た。

しかし、良く見るとタケシはライフルをおろしていたのであった。

良かった。撃つのはやめたんだな。

そうホットしたのもつかの間だった。なんと、そのライフルの銃口からは少し煙が出ていたのだ。

「えっ、もしかして撃ったの?」

「そうだ。これで多少の時間稼ぎが出来る」

自分は再び彼の家を眺めた。しかし、特に何も変わっている様子はなかった。

「一体、何をしたんですか」

「目覚まし時計の電池を撃って機械から外したんだ。彼は自分一人では起きれないし、起こす親もいないからな。さらに、携帯を持っていないから、彼女が心配してかけてくることもない。これで確実に寝坊して、女の方が告白する時間が遅れるはずだ」


なるほど。確かにそれなら告白が遅れるな。自分はしみじみと思ってしまった。

「ただ別れさせるだけではない。いかに自然に別れさせられるかが、この仕事の難しいところなのだ」


そう言ってタケシは再び次の場所に向かって飛んでいった。

「あっ、待ってください」

自分もふらふらとまだあまり慣れていない浮遊状態で追いかけたのであった。


「俺たちの姿は普通の人には見えない、だが、たまに見える人間もいるから注意しろよ」

タケシはそう自分に言い聞かせた。おそらく、見える人間というのは、霊感がある人のことなんだろうなと自分は思った。

「さて、この後どうするかだ。このまま俺たちが帰っても、しばらくすればまた彼女が男に告白するだろう。さて、男の方はしばらくは大学には来ない。お前ならこの後どう行動する?」

タケシは自分に問いかけてきた。

自分は、俺ならどうするかを考えた。

一度好きになった人間をどうやって自然に別れさせることが出来るのか。

いやまず、そんな事が簡単に出来るのであろうか。

そして、一つの考えが浮かんだ。


「男の方が二股していたとか、変な噂を流せばいいのではないでしょうかね」


自分は思いつくままにいった。

「そうだ。初めてにしてはよく思いついたな」

そう言うと、タケシは腰に着けているカバンから一つの銃弾を取り出した。

「この銃弾は、上空に撃つと拡散して辺り一帯に噂話しをばら撒くことができるんだ。ほら、ここのボタンを押すと録音が始まる。ここに広めたい噂を録音するんだ」

タケシはそう言ってその銃弾を自分に渡してきた。

なんていう噂を広げようか。ホモ疑惑を噂にさせるか、もしくはマザコンであるか――

「いいか、あまり男の人生が狂わされるような噂にはするなよ。

あくまで自分たちの目的は、彼らをリア充にさせないことなんだから」

タケシはそう自分に言い聞かせた。きっと顔に出ていたのであろう。


よし、これでいこう。

自分は銃弾についている小さな録音ボタンを押したのであった。


「山口健はとなりのゼミの女の子と付き合っている」


自分は声が録音された銃弾をタケシに渡した。

「範囲は、同じ大学の生徒だけにするか」

そう言って、タケシは上空にめがけてライフルをぶっ放した。

「あと一時間もすれば、大学の生徒全体に噂が広まるはずだ。どれ、噂が広まるまでしばらくそこで休憩しよう」


 自分はタケシと共に大学内の木の上に腰かけた。

「あの、さっきの話ではあまりつかめなかったのですが、何で別れさせるのでしょうか。そして、リア充バスターズは具体的には何をするのでしょうか」

自分はこの休憩時間に聞けることは聞いてしまおうと思って質問した。

「よし、折角だから今詳しく説明してやるか――」



 リア充バスターズ

それはリア充を別れさせたり、リア充にさせないための仕事だ。

もちろん、ただ好き勝手にリア充を別れさせることは出来ないない。別れさせることの出来るリア充は、将来その付き合ったことが原因で起こる悲劇を生み起こす者だけだ。近年、DV(ドメスティックバイオレンス)や子供への虐待などが大きな問題となっている。これは、あの世でも大きな問題であり、特に幼い子供の虐待による死亡した魂は幼すぎるため、閻魔大王も天国や地獄のどちらかに裁くことが難しいらしく、仮に振り分けたとしても幼すぎる故、天国などで一人でいさせることが困難であった。そこで閻魔大王は、こんなことになるなら産まなければいいのだと思ったのだ。


「もしかして、それでリア充を別れさせる仕事を閻魔大王は作ったて言うのかい?」

「そうだ。閻魔のおっちゃんも気まぐれだからなあ。最初は浮遊霊や天国の人も、現世の人意図の恋愛の自由を奪うのかと反論はしたんだ。しかし、増え続ける悲劇の統計データを見て、みんな何も言えなくなったのさ」


確かに、自分も大学の福祉の講義で近年虐待が問題となっているというのは聞いたことがあった。その時の自分も、育てられないのならば最初から子供を作るなよと思ったことがある。

「結局、みんな快楽だけで子供を作ってしまうんだよなあ――」

タケシがそうつぶやいた。あながち間違ってはいないかも知れないと自分は思ってしまった。


 ここでふと、自分の頭に考えがよぎった。

「けど、この仕事には大きな欠点があるよ。それは、リア充を別れさせたら本来生まれるはずだった新しい生命が無くなるということだよね」

自分はつい上から目線でタケシに話してかけてしまった。

思ったことをすぐに言うのは、自分の悪い癖だ。


しかし、タケシは怒る様子もなく、真面目に返答をしたのであった。

「ああ、確かにその通りなんだ。その問題が一向に解決しないのに、閻魔のおっちゃんは『新しいビジネスだー』とか何とか言って始めたんだ。自分はしないからっていい気なもんだよな」

タケシはそう言って木から降り、話を続けた。

「生まれてきてもすぐに虐待されて死ぬか、元から産まれさせないようにするのか、難しい問題だよな。だけど、自分は虐待させて死なせるよりは元から産まれさせないほうが幸せなんじゃないかと思って、俺はこの仕事を続けている。仮に虐待は助けても、一人で両親から離して暮らさせるのも、また虐待だと思うからな――」


タケシのいう言葉はまた深く考えさせられた。

産まれない命も可哀想だが、生きていても苦しむほうはその100倍は可哀想に自分は思った。きっと、昔の弟の出来事を自分は思い出したのだろう。

自分の弟は中学2年生にして自殺した。

原因はいじめだった。弟はいつも生きてても苦痛なだけだとつぶやいており、その考え方は痛いほど自分は分かっていた。


「タケシさん。僕もほとんど同じ考えですよ」

「トオル。一緒に頑張ろうな」

自分たちは再び握手を交わした。


「ちなみに、彼らは何で阻止しなければいけないんですか」

自分はタケシに質問した。

「彼らは、来年に子供を産む予定だ。しかし、その子供はすぐに駅のロッカーに捨てられてしまい餓死してしまうんだ。我々はそうならないためにも今からここで食い止める必要があるんだ」

「あまり、いい話ではないですね」


 その時、自分の木の下を歩く見覚えのある男の姿が見えた。

「もしかして、山口健さん!?」

自分はそう叫んだ。間違いない、あの顔つきと顔のほくろはしっかり覚えている。

タケシも驚いていた。

「何で起きているんだ。計算だと、3時間は寝坊してくるはずだぞ」


噂話を広めてからまだ10分も経っていなかった。

やばい、このままでは彼女に告られて、彼はリア充になってしまう。


自分とタケシは彼を追いかけようとしたが、突然前に謎の女性が立ちふさがった。

その女性は金色の髪で、背中には美しい白い羽。そして手にはハートの形をした弓矢を持っていた。


「ここから先には通さないわよ」

彼女はそう呟いた。


自分は驚いてしまった。

その姿はまさにキューピットそのものだったのだ。

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