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浮遊霊とビジネス

 まず、タケシはこの世界について話してくれた。

この世界は現世でもあの世でもないらしく、狭間の世界であること。彼はそう説明してくれた。

「本来、現世で死んで成仏した生き物はみんな閻魔大王のところに連れて行かれる。そこで天国か地獄に行くのか判断される訳だ」


この説明で一つ、自分はすでに気づいたことがあった。

やっぱり自分はあの時、そう石でつまづいて後頭部を打った時に死んだということだ。


タケシはそのまま続きを話した。

「しかし、中には天国か地獄にも行けない死者もいる。

それは、現世では一般的に浮遊霊とか言われているな」

タケシが言う事は、全てが非現実的に聞こえた。

きっと今までの自分なら信じていなかっただろう。だが、この不思議な施設やこの乗り物を見て、何やかんやで信じている自分がそこにいたのであった。


しかし、天国や地獄何て無いものと思っていた自分には朗報だった。

どうやら天国に行ければ楽しく死後の世界を楽しめそうだ。地獄なら絶望だが――

「あれ、でも自分がここにいるということは……」

「そうだ。君も浮遊霊だから、今のままでは天国にも地獄にも行けないということだ」


自分は落胆した。

まさか、自分が天国にも地獄にも行けないとは――


「でも、何で浮遊霊は天国や地獄に行けないのですか?」

自分はさらに質問をしてみた。まだ天国に行ける方法があるかも知れないと思ったからだ。

「うん。そこは俺もよく分からないんだが、閻魔のおっちゃんによれば、現世に強い未練をのこしたものはあの世に連れて行けないんだと」


 未練か――

そういえば、テレビで霊媒師がそんな事をよく言っているのを昔見たことがあった。

「未練をなんとか消せないのですか?」

「あることはあるらしいんだ。未練というものは、その原因を現世でなんとか出来れば消滅するらしいんだが、死んで肉体が無くなった今、現世で何とかすることなんて中々出来ないからな。そこで当時の浮遊霊は何かしようと考えたわけだ」

「結局、何をしたんですか」

「現世と同じ様に仕事をしてお金を稼ぎ、きままに暮らすことを始めたのさ」

「えっ、現世と同じ事をしようと考えたのですか」

「そうだ。やっぱり、成仏出来なければみんな暇だからね。閻魔のおっちゃんもこれを承認して、現世、あの世につぐ3つ目の世界として狭間の世界を認めたのさ」

3つ目の世界なんて自分には衝撃だった。この世界には現世とあの世しかないと思っていたからだ。


「おもしろいことに、仕事とかはとくにやらなければいけないというルールはこの世界にはないんだ。浮遊霊は空腹になって死ぬこともないし、病気で苦しむこともないからな」

タケシはそう笑顔に語った。

「えっ、じゃあ僕もリア充バスターズとか言う仕事をやらなくてもいいのでは――」

「いや、中々そうはいかないのさ。この世界の仕事にも色々なものがあってね。例えば心霊スポットで人を驚かす仕事、死んだ人の魂を閻魔の所に誘導する仕事など多々あるんだ。ちなみに、仕事の内容というものは、主に個々の未練に基づいた仕事をするように、浮遊霊になった時に自動的に振り分けられるんだ。みんなが好きな仕事をやると、仕事にも障害が発生するからね」

「何か、そう聞くと幽霊というものがあまり怖くなくなってきますね」

「そうだろ。彼らは仕事として頑張っているんだ。現世とあの世に関係する重要な仕事も一部にはあるからね」


浮遊霊がビジネスか――

これでは現世とあまり変わらないのではないかと思ってしまった。


「ちなみに先ほどの質問だが、仕事でも管轄は分かれていて、浮遊霊個人でやる仕事から、集団でする仕事。そして、閻魔管轄の仕事があるんだ。俺達リア充バスターズは閻魔の管轄だから、現世でいえば、公務員みたいなものだな。この公務員の仕事は現世に関係するとても大きな仕事が多く、これに限っては振り分けられたら、嫌でもやらなくてはいけないんだ。だから、君は嫌でもリア充バスターズをやらなくてはいけないのさ」


「もしかして、一生ですか?」

「ははは。さすがにそれは無いよ。主に公務員の仕事は後から入ってきた人と交代で辞めて行くんだ。大体長くても10年くらいかな」


タケシから色々聞いているときに、自分達の後ろに車が近付いてきたことに気付いた。


 その車は自分たちの車の横にくっつくと、窓から男の人が顔を出して話しかけてきた。

「ようタケシ。久しぶりだなあ」

その話しかけてきた人は、爽やかな顔をしており、タケシと違って少し細かった。

「お、ハヤトじゃないか!そっちの仕事は上手くやっているのか」

タケシは彼に対して笑顔で返事をした。どうやら知り合いらしい。

「紹介するよ。俺の新しいパートナーのトオルだ」

「よっ、お初だな。俺はハヤトっていうんだ。もし狭間の世界で誰か会いたい人がいたら、俺の所に来てくれよな。すぐに探し出して会わせてやるぜ」

「ど、どうも――」

自分は彼に対して軽い会釈と挨拶をした。彼も浮遊霊なのであろうか。


「しっかし、本当なら早く成仏しちゃって、こんな探偵の業務をやめて天国で自由気ままに暮らしたいぜ」

「ははは、お前じゃあ地獄に行ってしまうかもしれないぜ」

タケシはそう冗談を入れて、笑いながらハヤトに言った。

「何をバカなことを言ってやがるんだ。地獄に行くのはお前かも知れないぜ」

ハヤトはそう笑いながら言うと、自分の腕に付けている腕時計をのぞいた。

「おっと時間だ。じゃあ、俺は先に行くぜ。また会おう」

「おう、じゃあな」

タケシとハヤトはお互い手を振ると、ハヤトの車はスピードを上げ、すぐに見えなくなってしまった。


「あいつは、この狭間の世界で探偵職を仕事にしているんだ。結構優秀と有名なんだぜ」

なるほど。会いたい人に会わせてくれるとはそういう意味か。自分はそう納得した。


「あの人も、浮遊霊なんですか?」

「そうだ。詳しいことは俺も知らないんだが、あいつは昔せっかく捕まえた犯人を逃してしまったらしくてな。今それが未練となって浮遊霊になってしまったんだとさ」


なるほど、そういうのもやっぱり死んだら引っ張るもんなんだな。

あれ、ところで自分の未練は何なのだろうか。

「あの……俺の未練って、何か分かりますか」

自分はタケシに何気なく聞いてみた。

「自分の未練が分からない浮遊霊か。それじゃあ、永遠に成仏出来ないぜ。でも、これからお前がやる仕事からみて、恋愛関係じゃないのか?」

恋愛関係。もしかして、恵美子さんに告白できなかったのが未練となっているのだろうか。


「さあ、もうすぐ着くぞ。しっかり掴まってろよ」

車は突然光をまとった。あまりのまぶしさに自分は目をつぶってしまったのであった。

そして、ゆっくりと目を開けると、眼下には住宅街が広がっていた。


「驚いたか。ここはお前もご存じの現世だ。とりあえず、あそこに着陸しようか」

車は住宅地の裏にある山に静かに着陸した。

そこは木々がたくさん生い茂っており、陽があまりあたらない場所だった。

「よし、車から降りるか」

車を降りると、何かふわふわした感覚に奪われた。

「もしかして俺、浮いてる?」

体が今にも風に飛ばされるのではないかと思った。特に誰に習ったわけでもないが、自分が浮きたいと思うと体は浮き、降りたいと思うと体は静かに下がっていった。

「現世では、俺たち浮遊霊は自由に浮くことが出来るんだ」

タケシは笑いながらそう説明をしてきた。

「さあ、こっちに来い。今回の作戦内容だ」

自分はタケシのほうにふらふらと浮きながら近づいて行った。


「今回の対象者は、この二人の男女だ」

彼は二人の男女の顔写真を見せた。

女の名前は山本美紀(19)、男の名前は山口健(19)というらしい。

「あの、これから一体何をするのでしょうか?」

自分は何をするのかよく分からず、そう質問した。


「そういえば、まだリア充バスターズの説明をしていなかったな。リア充バスターズは簡単に言えば、リア充を別れさせたり、もしくはリア充にさせないように阻止する仕事だ」

リア充を別れさせる。確かに、自分もリア充を見ると爆発しろだとか分かれろとか思ったこともあるが、いくらなんでも酷過ぎやないだろうか。

「何で別れさせるのかは、この作戦の途中で暇になったら説明するよ。今は時間がないんでね」

そう言ってタケシは腰にスナイパーライフルを担ぐと、住宅地に向かって飛ぶのであった。

「さあ、付いてくるんだ。やり方は実戦で説明しよう」


こうして、俺の初の仕事が始まったのであった。

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