白い部屋
気がつくと、自分は白い部屋のベッドの上に寝ていた。
ここは一体どこなんだろうか。
たしか石につまづいたところまでは覚えていた。
自分はベッドから立ち上がり、周りを良く見ると部屋の隅にドアがあった。
あそこからなら出られそうだ。
この状況、ネットでよくある脱出ゲームに雰囲気が似ていた。
あの手のゲームでは、主人公は突然部屋に閉じ込められるという状況で、非現実的だなあと思ったこともあった。しかしまさか、自分がその状況に近いものになるなんて予想出来たであろうか。
自分はドアノブに手をかけたが、案の定鍵がかかっていた。
ドアノブには鍵穴がなく、どうあがいてもピッキングなどといったものは通じそうにもなかった。
まあ、それ以前にピッキングなんて技術がないのだが――
ドアに思いっきり体当たりをしてみたが、体が痛くなるだけで、ほとんど意味はなかった。
仕方ない、脱出ゲームと同じように部屋の中を探索するか。
そう思ったのもつかのま、
自分は部屋を見て落胆してしまった。
部屋の中には椅子と机、そして自分が寝ていたベッドしかなかったのである。
やれやれ、調べるものがほとんどないじゃないか。
自分は手始めに机の中を調べた。脱出ゲームなら、鍵かヒントのメモか何かがあるからだ。
しかし、それは無駄に終わった。中には何も入っていなかったのである。
次に自分はベッドのシーツをめくったり、下を覗き込んでみた。
しかしそこにも何も無く、自分の脱出ゲームは早速積んだのであった。
自分はイスに座り、なんで閉じ込められていたのかを考えた。
その時だ。ドアの外からこっちに向かってくる足音が自分の耳に聞こえた。
そしてゆっくりとドアノブが動きだし、男の人が入ってきたのである。
「おお、目が覚めたのか」
その男はずっしりとした体格をしており、
山で出会ったら、熊と間違えてしまうのではないかと思うくらいの風格をしていた。
「まだ、あまり今の状態に慣れていないようだな。
ひとまず、私が君のことを担当する者だ。タケシと呼んでくれ」
とりあえず、自分はどうしたらいいのだろうか。
死んだふりをするべきだろうか。
もしくはここはどこで、何で閉じ込められているのかを直接聞くべきだろうか。
いや、待つんだ。とりあえず挨拶してきたんだから、ここは挨拶をするべきだろう。
「始めまして。自分は山本徹と言います」
決まった――
自分はその行動力にほれぼれとしてしまった。
実際は突然質問しても、そんな簡単に返事をしてくれないと思ったからであった。
「徹か、よろしくな」
彼はそう言って大きな手を差し出してきた。
よく見ると、その手には汚れがついており、自分の目を疑った。
なんと、その手についているものは大量の血だったのである。
「おっと、すまんすまん。昼の仕事で汚れていたのをすっかり忘れていたよ」
彼はそう言って、ポケットから出した赤いハンカチで血をふき取った。
「よ……よろしく」
自分は震えながらも、彼と握手を交わした。
その大きな手に自分の手が握りつぶされるのではないかと少し心配してしまった。
いや、そんな心配よりも自分がこの後殺されてしまうのではないかという不安のほうが大きかった。
昔、何かの漫画で読んだことがある。
拉致された少年が殺人鬼に殺されて食べられるという衝撃的な内容で、子供ながらにトラウマを抱えたことがあった。そのお話の最初の導入部分は今の状況とほとんど同じで、何もない部屋で少年がいきなり殺人鬼に殺されるといったものであった。
自分が昔のトラウマを思い出し、不安になってジッとしていると、タケシが話しかけてきた。
「さて、君はリア充バスターズは初めてだったよな?」
彼は自分にそう話しかけてきた。
突然すぎて、自分には何を言っているのか理解できなかった。
例えでいえば、好きなゲームの話をしている時に好きな食べ物を聞かれるようなものだ。
いや、この例えもよく分からないものなんだが――
とりあえず、リア充バスターズって何なんだよ。
その時、自分の頭にビビッと来るものを感じた。
周りは白い壁と一つの机だけ。そうだ、ここは病院の一室なんだ。
そして自分は後頭部を強く打ったので、幻覚を見ているのだと。
「おーい、聞こえてるか?」
タケシは徹の体を揺すった。
その揺さりかたはとても力強く、体の臓器がバラバラになるのではないかと思うくらい強かった。
「き、聞こえてるから。揺すらないで……」
「なら良かった。さあ、これを持つんだ」
タケシは自分に銃を渡してきた。
その銃はあまり大きくなく、ポケットにすっぽり入るくらいの大きさであった。
何が何やら分からない自分にとって、これはさらに混乱をもたらした。
「あの?これは……」
「ハンドガンだがどうかしたのか?
さあ、それ持ってこっちに来い」
タケシはそう言ってドアに手帳を当てロックを解除し、扉を開けるのであった。
なるほど、タッチ式のロックだったか。自分はそう納得した。
こうして自分のリアル脱出ゲームは終了したのであった。
部屋から出ると、自分を誘導した。
ああ、もう訳が分からない。これは一体どうなっているんだ。
そして本当にここはどこなんだ。
自分たちは部屋の外に出て、長い廊下に出た。
廊下も部屋と同様に白く、ずっと見ていると目がやられそうだった。
「ここがどこで、今から何をするのかまだ分かってないだろう。
大丈夫だ。後でしっかり教えてやるから」
タケシはそう言うと今いた部屋のドアを閉め、ゆっくりと廊下を歩きだした。
長い廊下を自分はどれくらい歩いたんだろう。
10分、いや、30分は歩いたのではないだろうか。
「あの……あとどれくらい歩くのですか」
自分はタケシに質問した。
これが自分からタケシに話しかけた最初の瞬間だった。
「えーと、多分もうすぐ着くはずだ。何分、開いてる部屋がそこしかなくてなあ」
そんな質問をしていると、大きな白い扉が見えてきた。
「ほら、着いたぞ」
そう言ってタケシはその扉に手帳を当てて鍵を開けるないなや、中に入っていった。
自分も中に入ろうとした時だった。突然、背後に謎の視線を感じた。
だが、後ろを振り返るが誰もおらず、気味が悪くなった自分は走るように扉の中に入るのであった。
「さあ、これが君の隊員手帳だ。紛失とかするんじゃないぞ」
タケシは自分に小さな手帳を渡してきた。そこにはカタカナで『トオル』と自分の名前が書いてあった。
タケシはそこで簡単に手帳の使い方の説明をしてくれた。この施設ではすべての扉がロック式になっており、この手帳で触れることで扉が開くとのことであった。何でも最近物騒らしく、施設へのスパイが多く、セキュリティーが頑丈になっているとのことであった。
まあ、まず自分はスパイよりもこの施設が何かが知りたいんだけどね。
「さあ、この乗り物に乗るんだ」
そこには一台の車があった。外見は今あるどの車とも似ておらず、あえて例えれば私たちが考えている未来の空飛ぶ車そっくりであった。
「よし、乗ったな。それでは出発するぞ」
自分はタケシの隣に座り、車は走りだした。
いや、走ったというよりも車は空を飛び、施設の天井から飛び出して出発したのである。
煙突から外に出るのはこんな感じなのかなと、小さい頃見たアニメを自分は思い出した。
施設の外はどうなっているのかと思った。
しかし、その期待はすぐに断ち切られた。
車は天井に上る途中にある細い通路の中に入ったのである。
そこはトンネルのようになっており、やはりそこも一面が白かった。
一体、この通路はどこまで続くのか、そして自分は何をしに行くのか不安だった。
「あの、そろそろ説明をしてくれませんか。この施設のことやリア充バスターズのことなどを――」
自分はタケシに質問をした。今は少しでもこの悩みや不安を早く消したかったのだ。
「ああ、そういえばまだ説明していなかったな。そうだな、目的地まで少し時間がかかる。その間に君におおまかな説明をするよ」
そういって、タケシは自分にいろいろと説明を始めるのであった――




