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派遣社員、宇宙へ行く!  作者: 相内みなぎ
5/25

月から宇宙基地へ

♪〜


毎朝聞いているスマホのアラーム音で楓は目を覚ます。


一瞬どこにいるのか分からなかったが、すぐに月にいることを思い出す。


時刻は九時だ。


集合時刻が遅めだったおかげで遅くまで寝られた。


急いで身支度をすませ、備え付けのポットで湯を沸かしコーヒーを入れる。


昨日買っておいたソーセージパンを食べ終わる頃には九時半になっていた。


集合時刻まで一時間ある。


楓は少しホテルの周りを歩いてみる事にした。


エレベーターで一階まで降りてロビーを抜け、外に出てみる。


外は朝だというのに薄暗く、見上げた空はドームに包まれ星空が見える。


そして遠くには地球が見えた。


昨日まであそこにいたのだ。


昨日はシャトルの滑走路から地下を通って直接ホテルに来た。


振り返りホテルを見てみると十階建てだった。

横の方に広い。


月ではあまり建物を高く建てられないらしい。


どうやら月に観光に来た旅行客たちはこのホテルとは反対側のもう少し大きなホテルに泊まる。


ホテルはドームの隅に建てられている。

なので、ホテルの後ろはすぐにドームの壁になっている。


月には博物館や資料館、大きめのクレーターなど観光スポットもあるが全て一日あれば事足りる。


クレーターや過去の宇宙飛行士の足跡などの観光スポットは、月上バスで見にいける。

バスの中からの観光だけれども。



一日ツアーや半日ツアーもある。


まだ時間があったが、ロビーで待つ事にした。


ロビーには月の観光スポットを巡るツアーのパンフレットやら月の歴史の博物館の割引券などが置いてあった。


楓はひとつひとつ見ていった。


無重力体験スタジオ

ドーム内では安全の為に重力を人工的に作っているが、ここでは無重力を体験できる。

日本円で三十分三千円。


月面科学館

宇宙をテーマにした科学館。

銀河系の惑星や星座など宇宙について学べる。


月のプラネタリウム

ドーム外にある天然のドーム型プラネタリウム。日にちや時間によって見られる星座が変わる。

日本円で一時間五千円。


月の歴史の博物館

アポロの月面着陸から近年の月面ドーム建設にいたるまで月にまつわる人類の歴史が学べる。


月の国際美術館

月や宇宙をモチーフにした絵画や彫刻か並ぶ国際的な美術館。


うさぎの餅つき

日本人経営のカフェ。餅を使ったお汁粉や月見団子が人気。


五年後にオープン予定のアメリカ出資のテーマパーク、スターウォーズスタジオ。


楓は全てのパンフレットをリュックにしまう。


宇宙基地に住めば、また月に来る事もあるだろう。


なにより遊びに来る気満々の祖母の為に。


まだ少し時間があったので、ロビーの隅にある売店を覗く。


月で生産されたという三日月や星の形のクッキーやチョコ。

三日月や星がモチーフのピアスやネックレスなどのアクセサリー。

月在住作家のアート作品だというポストカード。


楓は昨日買った月のしずくの入浴剤、シャンプー、コンディショナー、トリートメント。


三日月形の固形石鹸。


スターウォーズのロボットのおもちゃもある。


楓は、一番小さいクッキーの詰め合わせの箱を手に取ってレジに向かった。


ロビーに戻ると平野がいた。


「あ、おはよう〜!」


「・・・おはようございます・・」


朝から元気だ・・・。

あ、もう朝でもないか。


「眠れた?」

「はい・・・疲れてたみたいであさまでグッスリでした」

「それは良かった!」


この人は朝まで元気に遊んでいたのではないだろうか。


「いよいよだね〜大丈夫だとは思うんだけど、万が一基地に入れなかったらと思うと恐いよね〜内定も取り消しになる訳だし」


そうだった。

今日宇宙基地に行けるとは限らない。

宇宙基地に入れないかもしれないのだ。


「実はさ〜小さい頃兄貴と電動キックボード二人乗りして近所のお巡りさんに怒られた事あるんだよね。それがどうなってるか分からないんだよなぁ」


そう言って平野は笑う。


電動キックボードに二人乗りとは曲芸だ。


確かにその程度の悪行なら楓にも覚えがある。


だから基地に行くのは不安なのだ。


恐らくその程度の悪行でも記録に残っていれば、基地に入れては貰えない。


平野にしてもそのお巡りさんが交番に戻って、記録を書いていたらアウトだろう。


そうこうしているうちに約束の時間になり、受付から声がかかる。


「松居さま、平野さま」


二人は受付に向かう。


「こちらが案内になります」


渡された紙には、


日本宇宙基地へお越しの方へ


と書かれていた。


月に来た時に使った空港までいらして下さい。


日本宇宙基地へお越しの方はDゲートです。


そこの係員に宇宙基地までのチケットとパスポートをお渡し下さい。



「Dゲートだって。一緒?」


「はい、そうです」


答えた楓は平野と一緒に空港まで行くことにした。


空港までと行ってもこのホテルは空港と繋がっている。


昨日通った地下通路を逆に歩けばすぐだ。


しかし空港内はかなり複雑になっている。


案内の看板だけが頼りだ。


案内看板に従う。

入口から月から出国の方、各国基地へお越しの方、の順番に通路へ。

そこからDゲートへ。


制服を着た中年男性係員がいる。


まず、楓から係員にチケットとパスポートを見せる。


心臓がバクバクいっている。


「松居楓さまですね。日本宇宙基地へはこの先の乗り場から十三時半出発のシャトルになります。いい旅を」


あっさり終わった。


そのまま行ってしまおうとも思ったが、流石に少し薄情かと思い直し平野を待つ。


振り向いて見てみると、平野が職員からパスポートとチケットを返して貰っているところだった。


平野も無事にパスしたらしい。


「いや〜良かった!ハラハラした!!」


「お互い良かったですね・・」


どうやら当時のお巡りさんは、電動キックボードの二人乗りの事実を交番に戻ってからも報告書に書かなかったらしい。


有り難い事である。


楓自身も大丈夫だろうとは想っていたが、それでも不安だった。

横断歩道を青信号の点滅で渡って注意された事もあるし、目の前の女性が五十代に見えたので席を譲らなかったら七十代だった、なんて事もある。


それでもここで犯罪歴ナシ、とお墨付きを貰えた事は気分がいい。


これで宇宙基地で働ける。


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