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派遣社員、宇宙へ行く!  作者: 相内みなぎ
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東京から出た事がない


2070年春

私は東京から出たことがない。

二十年間生きてきて一度もない。


関東、ではなくて東京だ。


疑われるけれど、本当。


小学校の修学旅行は自然と動物と英語を学ぶオーストラリアツアー。


中学校はイギリス、フランス、イタリアをまわるヨーロッパ美術館・芸術めぐりツアー。


高校ではニューヨーク、ロスアンジェルス、ハワイをめぐるアメリカツアーだった。


私はそのどれにも参加しなかった。

長野に行く林間学校も、沖縄へのマリンスポーツ体験や北海道でのスキー学習も一度も行っていない。


参加する地域を選べる農業体験や調理実習も全て都内を選択した。


何日も外泊なんて絶対に無理!

寝不足で倒れる!

家で、ゲームしたり漫画読んだりしている方がずっといい。


強制参加って学校も多いみたいだけど、私が通った公立高校はそんな事なかった。


私の他にも塾やお稽古事で欠席する生徒は何人もいたから別に寂しくもなかったしね。


出不精な私と違って活発なお婆ちゃんは、いい時代になったわと一年に数回は海外旅行に行く。


なんでも、地球の裏側まで半日で行けるようになったのはここ数年の事なんだって。


おばぁちゃんが若い頃は、飛行機に乗っている時間だけで一日がかりだったりしたらしい。


とにかく私は旅行が嫌い。

できればマンションの部屋から一歩も出ないで生きていきたいくらい。


そんな私が十九歳にして宇宙で働く事になるなんて‥



彼女の名前は松居楓。

去年高校を卒業したばかりの十九歳。


両親は私が物心付く前に事故で亡くなり、それから祖母と二人で暮らしてきた。


今は、楓が若者の自立を促す為に東京都が建てた格安マンション、祖母が年配者の為に建てられた格安マンションにそれぞれ分かれて暮らしている。


一緒に住むよりもその方が生活費がかからないのだ。


世の中は就職氷河期。


正社員の仕事が見付からなかった楓は、高校を卒業してロボット販売店にバイトとして働き始めた。


が、休みが月に一日だけという滅茶苦茶なシフトが続いて半年で退職した。


会社に残った人に恨めしそうな顔をされたが、限界だった。


働く気力がわかないまま半年が過ぎた。


いつものように自然と目が覚めるまで寝ていた楓は、スマホの通知でいつもりは目が覚めた。


アプリの通知だった。


おばあちゃんからかな?と思い見てみると違う。


◯◯リクルート?


寝ぼけた頭から必死に記憶を引っ張り出す。


そうだ、三ヶ月前にクオカードが貰えるからと登録し、アプリを入れた派遣会社だ。


一瞬通知を無視してしまおうかとも思ったが、貰うもの貰っといてそれはないなと思い直す。


たとえ五百円のクオカードだったとしても、だ。


楓はベッドに仰向けに寝たままアプリを開いた。


案の定、派遣先の案内だった。


松居楓様にピッタリの派遣先をご案内。


日本宇宙基地にあるロボットメーカーの工場勤務。

契約期間は一年。


興味ありますか?


はい  いいえ


一年でいいんだ。まずそう思った。


なるべく人と関わらないですむ仕事を派遣会社に希望していた。


なのでこの派遣先は希望にはそっている。


嫌だったら途中でアプリを閉じてしまえばいい。


楓は はい をタップする。


工場の流れ作業、寮はは全て個室。


悪くはないかもしれない。


応募しますか? まで進んでしまった。


一瞬、アプリを閉じてしまおうかと思ってしまう。


しかし、もう一年も無職だ。


嫌だったら辞めればいい。


しかし、宇宙まで行くのだ。


楓はそのままスマホを枕の横に置いて枕に顔を埋める。


宇宙、宇宙、宇宙・・・。


働きたくないわけでは決してないが、働くのが怖い。


ましてや宇宙にまでひとりで行くのはもっと怖い。


そうなのだ、働きたくない訳ではない。


両親のいない楓は、本当はもっとしっかりと働くつもりでいた。


せめて、生涯食いっぱぐれない程度には経験を積みたかった。


しかし、就職氷河期に出鼻をくじかれたのだ。



しかも、行くとなると宇宙に引っ越さなければならない。


技術が国外に流れないように宇宙に大規模な工場がある。それが宇宙基地だ。


日本は、ロボットメーカーや自動車メーカー、製薬会社がある。


アメリカなど他国の基地もあるが、それぞれかなり距離があり、基地から基地へは移動出来ない。


宇宙基地に行くには、宇宙エレベーターで宇宙ステーションまで行き、そこから小型シャトルで月を経由して日本宇宙基地まで行く事になる。


しかも月では必ず一泊し、再度人物のチェックをする。


宇宙基地で働くのは手続きに時間がかかる。


海外どころか東京からすら出たことがない楓には気が遠くなる距離だ。


しばし悩んだあと、楓はスマホを再び手に取る。


そして、 応募する をタップした。


一年、一年我慢すればいいんだ。


寮も食堂もあるし、生活費はほとんどかからないだろう。


もともとインドア派だし、お金のかかる趣味もない。


一年働けばそれなりにお金は貯まるだろう。


自分の他にも部屋に閉じこもっている人は絶対にいる。


飲み会なんて出る必要もないだろう。


何かそう、資格の勉強でもして一年後に備えるのだ。


そうだ、この一年で人生をかえるのだ。

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