エピローグ
連行されたリックは、素直に全てを供述しているらしい。
俺の鍵のアクセサリに入れられていた骨は、ジャンゴが保管していたものだそうだ。ジャンゴも、何かの時に使えるかもしれないと思い、キジーツを殺した相手を殺して、その骨を保管していたらしい。
それを、自分を殺した犯人に利用されるとは皮肉だが。
アジトに来た俺の反応を見て、青い狼の一員とは思えなかったというのが、最初のきっかけらしい。
不審に思って調べて、その骨を見つけ、羅針盤が偽物だということも発見した。
そして、とうとうリックはジャンゴを問い詰めた。
そこから、この事件は殺人事件へと転がり出したらしい。
ジャンゴの自業自得と言えなくもない。
だが、老いた男が、ずっと命懸けで戦い続ける生活から降りるためになりふり構わないのを、一体誰が責められるのか。
「それじゃあ、世話になったな」
キリオに肩を借りて、俺は研究所の前で最後に振り返る。
「はーい、よかったらまた来てね」
ぶんぶんと笑顔で手を振ってくれるリリーナと、不機嫌そうなハウザー。
二人とも見送りに来てくれた。
「さ、じゃあ、行こうか」
とキリオが馬車に向かって歩いていこうとするので、
「あ、ちょっと待ってくれ」
俺は一度それを止めて、よたよたとハウザーに近づく。
「何だよ」
「ああ、一つ、聞いておきたいことがあったんだ」
そして、俺はハウザーに顔を近づけ、リリーナには聞こえないくらいの声で質問する。
「お前達が一番最初に羅針盤を持ってシャークまで来た時、メンバーはジャンゴさんとお前と、それと、あれは誰だ?」
「あっという間だった気がするわね」
「ああ」
馬車に揺られ、キリオと会話する。
「怪我、さっさと治らないかな」
「ええーっ、もうちょっといいじゃん」
「どうしてだよ」
「あたしが看病できるし」
結構引くようなことを言うキリオに白い目を向けながら、俺はさっきのハウザーとの会話を回想する。
「何のことだ?」
ハウザーは、目を丸くして返してきた。
「最初にシャーク国にお前を告発しに行ったのは、俺、オヤジさん、そして」
「ローズじゃない、だろ」
俺の指摘にハウザーは黙った。
「能面っぽいし、見た目は似ていたが、違う」
だからこそ、研究所でローズと会った時に、はじめましてと挨拶した。
「はっ、普通、初対面の奴は中々気付かないんだけどな」
観念したように笑って、
「あれは、ローズの影武者。それで」
「それで?」
「俺の姉だ」
意味が分からず、俺は混乱する。
「お前の姉は、ローズだろ?」
「ありゃ、ローズの素性を隠すためのブラフだ。いや、ブラフってことでもないが、要するにな、ローズって名前で、ペース国で元々秘密の研究に従事してたのは、俺の姉で間違いない。けど、それとここで研究してるローズは別人なんだよ」
「どういうことだ?」
「ええっとだな」
がりがりと頭をかいて、
「どこから説明すりゃいいのか分からないけど、名無しの女がいたんだよ。そいつは、何かから逃げてて、自分の顔を変えるつもりだった」
「魔術で?」
「それだと、常に魔術使わないといけねえだろ。顔を手術するんだと」
「えっ」
それ、要するに整形だよな。
この世界に、そこまでの技術が存在していたのか?
「できるのか、そんなこと?」
「まあ、一応はできるらしい。ただ、表情をほとんど作れなくなるんだとよ」
息を呑む。
そういうことか。
「で、その女とオヤジさんが知り合いになってな。過去と顔を捨てようとする女が仲間になったわけだ。ちょうどその時、オヤジさんは別の依頼を受けてた。ペース国である研究をしていた女が、どうしても研究チームを抜けたいって話でよ。まあ、研究が研究だけに普通に抜けようとしても無理だし殺されるからな。それが、ローズ、うちの姉だ」
「入れ替わったってのか?」
「まあ、そういうことだ。半年かけて、うちの姉とその女はこっそり会って、入れ替わっても大丈夫なように、個人情報やら研究内容やらを伝授したらしい。その女は恐ろしいほどの切れ者で、姉の研究内容を半年の間にすっかり理解したそうだ」
「そして、入れ替わった」
「ああ、顔もできるだけそっくりに変えてな。入れ替わってしばらくして、ペース国の中でも風向きが変わったり、青い狼が暴れだしたせいで、結局うまく入れ替わったローズが抜けてオヤジさんの一派に入ったのは皮肉なもんだが」
「じゃあ、入れ替わった、お前の姉は?」
「基本的には、どっか田舎で悠々自適だ。時々、ローズの影武者としての役目はあるけどな。まあ、本物のローズが影武者ってのもおかしな話だが」
「そうか……」
あまりにも意外な真実に、うまく言葉が出ない。
「にしても大したもんだ、よく見抜いたな。俺なんて、入れ替わって三日くらい気付かなかったのによ」
「あんな無表情なのに?」
「入れ替わる半年前くらいから、段々表情なくしてたからな、うちの姉は」
そうか。ハウザーの姉側も当然そういう準備をしておくよな。
ひょっとして、それで。
「言っておくが」
強い口調でハウザーが、
「本物の姉じゃないから、殺されても冷静だったのか、なんて思うな。そういうわけじゃない。むしろ、今のローズの方が、俺に対して姉らしく接してくれたぐらいだ」
俺の内心を言い当てる。
返す言葉もなく、俺は黙る。
「本物のローズに、俺の姉になりきろうって意識が強すぎたせいか、偽物だと俺にバレた後も、過剰に姉っぽく接してきてよ。まあ、それで、ローズがオヤジさんところに行った時に、俺も行こうって気になってな」
「その、ローズが入れ替わってるって話は、皆知ってるのか?」
「さあ、どうだろうな。皆ってことはないが、入れ替わって随分経ったし、ペース国とは話がついてるからそこまで神経質に隠してもなかった。知っている奴なら知っているとは思うぜ。だからどうってわけでもないしよ」
そんなものか。
「まあ、妙な女だったよ、ローズは。なあ、最終的なあいつの目標って何だったか知ってるか?」
「いや」
知るわけないだろう。
「自己洗脳だ。自分で自分を洗脳して、記憶も改ざんして、本物のローズになるつもりだったんだよ。意識までな。よっぽど違う誰かになりたかったらしい。俺を過剰に弟扱いしたのも、その準備みたいなもんだったのかもな」
「そう、か」
つまり、ここで死んだローズという女は、誰でもない、いや、誰にも知られない女だったわけだ。
「じゃあ、弟役のお前も、ローズについては詳しく知らないのか」
「そうだな。俺と話す時のローズは、自分の過去ではなくて俺の実の姉のローズとしての過去を基に話してたし」
そこで、ハウザーは少しだけ笑った。
「ああ、一度だけ、そう言えばあったな、あいつの過去についての話が。まあ、完全な与太話、冗談の類だろうけど」
「へえ、どんなのだ?」
「いや、それがな」
俺は回想を打ち切り、となりで外の景色を眺めているキリオに顔を向ける。
その横顔からは、動揺は見てとれない。
俺のような動揺は。
「なあ」
好奇心を押さえきれず、俺は声をかける。
「どう思う?」
「え?」
「ハウザーの話だ。ローズの、弟分の話」
「ああ」
流れる景色から俺に目を移すことをせず、キリオは退屈そうに言う。
「あのローズにも、弟みたいな存在がいたって、その話? だから、ハウザーを可愛がったって」
「ああ。結構、真実味のある話じゃないか? 捨てた過去に弟のような存在がいて、だから入れ替わった先の弟を過剰に可愛がる」
「それ自体はね、でも、その弟のような存在って言うのが、ほら」
「ああ」
「どう考えても、冗談でしょ」
あっけらかんとキリオは言う。
「だよな、冗談、だよな」
自分に言い聞かせる。
そうだ。過去と顔を捨てた女の、ただの冗談。
そのはずだ。
「その弟分とやらと、俺を重ねて見てるだとよ。実際には、全然似てないらしいけど」
「そうか。けど、その弟分とやらなら、ローズの本当の正体を知ってるはずだよな」
俺が言うと、ハウザーは笑った。
「かもな。その弟分を捜すのには大して手間はかからねえ。気になったら捜してみたらどうだ?」
「え? 名前が分かってたりするのか?」
「いや、けど分かり易い特徴があるらしい」
ハウザーはまだ笑みを張り付かせたままで言った。
「ローズによると、その弟分は瞳が金色らしいぜ」
いつものように、これで一応完結です。
次の話のトリック思いついたら続きます。思いつかなかったら打ち切りエンドです(こんな終わらせ方しといてひどい話ですね)
さて、今回の事件ですが、ヴァンが作中で言うように、絶対確実だと言える部分は少なく色々なパターンが考えられます。
その中で、いくつかの重要ポイントをどれだけ的中させられるか、というタイプの推理になると思います。
ポイントとしては、
1.ヴァンを指した当初の羅針盤は偽物
2.鍵のアクセサリに人の体の一部がついている
3.本物の羅針盤はキジーツの死体の中
4.それを取り出すため、ローズは自らの意思で処置棟に向かおうとした
5.屋上からロープを使っての移動
6.処置棟の燃え焦げた跡、屋上の水浸しは屋上処置棟間の移動の痕跡を誤魔化すため
7.ジャンゴの死と焼却炉での処分
8.もちろん、犯人はリック
こんなところでしょうか。
で、このポイントを正解される方が結構多くてびっくりしました。というか、最後の方は返信がグレートがほとんどでしたねw
なお、今回は前回までと違い、ちょっと動機を工夫してみました。どうだったでしょうか?
一応、作中にヒントみたいなものは散りばめたつもりですが。
それでは、皆さん、今回もご愛読アンド挑戦への参加ありがとうございました。
また機会がありましたら、是非お願いします!!




