プロローグ
小説と現実の一番大きな違いとしては、小説のように生きている間には現実の物語は終わらないということだ。
現実は、どんなドラマがあろうとも、死ぬまで続いていく。
――ヨーゼフ・ティッス
『創作物』より
ドアは唐突に開いた。
ぼさぼさの髪と髭で顔が隠れている中年の男と、マネキンじみた若い女性、そしてつまらなそうに視線を彷徨わせている目つきの悪い少年。
見たこともない三人組だった。いや、中年の男だけは、どこかで最近顔だけは合わせた気がしないでもない。
「これはこれは、ジャンゴ一派が勢ぞろいとは、珍しい」
だが俺の横にいた上司でもあるゲラルトの言葉で、ようやく目の前の三人、少なくともそのリーダーらしき中年の男の正体が分かる。
ジャンゴ。このパンゲア世界では珍しい、私立探偵。七探偵の一人であり、通称は荒野のジャンゴ。皆殺し、殺戮、無手の師匠。
一月前の事件の幕引きに、突如として乱入した時に顔を合わせた。
「それで、この王宮内の役職室にまで、どういう御用かな?」
そう、今、俺とゲラルトはシャーク王宮の中にある役職室で、二人で今後の探偵の人員配置について打ち合わせをしている。
そんな中、堂々と入ってくるジャンゴ。
まさか、忍び込んだり強引に押し入ったりしたとも思えない。ジャンゴは、あらゆる国の有力者にコネクションを持つと言われている。おそらく、そのコネを使って入り込んだのだろうが、まさか王宮のそれも役職室に入り込むことができるとは、ジャンゴの人脈、そして力は相当なものだ。
ジャンゴは、それに答えることなく、手に持っている金色のコンパスのようなものを覗き込み、黙って俺達の顔と見比べている。
「どういうつもりだい?」
目を細めるゲラルトから、見た目の飄々とした線の細さからは想像もできない圧力が吹き出し、隣にいる俺はのけ反りそうになる。
だが、それを受けてもジャンゴは無言のまま、ただ黙ってコンパスと、今度は傍らのマネキンのような若い美女の顔を見比べている。
若い美女は、少しだけ眉をひそめて、ふるふると首を振った。
「むう」
唸るジャンゴを見て、ようやく俺は気づく。
あれ?
不気味に黙っているように思えたが、違う。
これは、ひょっとして。
困惑している?
分かりにくいが、ジャンゴ、いやジャンゴだけではない、その三人組が、悟られないようにしながらも、困惑しているようだった。女は表情を崩さないことで、少年は逆に不機嫌そうにしていることで、その困惑を隠している。
困惑? 何に?
ジャンゴは、コンパスに目をやったまま、俺とゲラルトの周りをくるくると回り始めた。
意味が分からず、俺とゲラルトは顔を見合わせる。
ゆっくりと三周した後、ジャンゴは元の位置に戻ると、
「若造の方だ」
と呟き、少年と若い女が頷いた。
振り向いたジャンゴの顔には、やはり困惑が見て取れた。
「ヴァン・ホームズ」
俺の名を呼ぶその声にも、困惑は隠しきれない。
「お前を盗賊団『青い狼』の一員として、逮捕する」




