推理(5)
「あるところに、ハントという男がいた。その男は、偉大な父親の元、貴族でありながら冒険者としても活動するべく、師匠のブラドという凄腕の冒険者と日々精進していた」
ちらり、とベントの方を見てから、
「だが、実はハントには自信がなかった。偉大な父親に認められる自信だ。いわゆる、コンプレックスだ。トレジャー家という家名が、重荷になっていた。何とかして自分の力で成功しなくちゃならないと思っていた」
かなり失礼なことを言っているはずだが、ベントは反論することもなく、ただ悄然と目をしょぼつかせていた。
「一方のブラドは、そのハントの心根を見抜いていた。冒険者として鍛えながら、何とかハントを利用して稼げないかと思っていた。言っておくけど、全部俺の想像だ。それも、結構失礼なやつ」
あまりにも周りが黙って聞いているので、一応念を押しておく。
「分かっている。けど」
シロナが唇を指で撫でて言いよどみ、
「少なくとも、その状況でブラドがそう考えたっていうのはそこまで失礼な想像でもないわよ。冒険者なら、誰だって頭を過ぎるわ」
エニが言い添える。
確かに、そうかもしれない。
権力と財力を持つ令息が自らの弟子で、しかも何やら表に出せない悩みを抱えている。なるほど、俺だって、うまくやって大金持ちになれないかと考えてはしまうだろう。
「ともかく、そういう風に企んでアンテナを張っていたブラドと、モーラが出会う。この出会いについてはよく分からない。どういう風に絡んで、お互いに何を考えて協力することになったのやら。ともかく、モーラはあるダンジョンを発見したばかりで、しかもそのダンジョンの秘密をただ一人知っていた。そして、ハントとブラド、モーラはそのダンジョンと秘密を利用して、金儲けを企んだ」
「けど、金儲けって一体何だよ? 俺には、いまいちあいつらが企んだことがよく分からねえんだけどな」
首を鳴らすジンを向いて、
「プロデュースだ」
「あん?」
「帰らずの地下迷宮のプロデュースだよ、つまり。絶対にクリアできないダンジョンの上に、詳しく調査しようとする連中は、本物の入り口の帰還石と同期したモーラ達が一方的に殺せる。それも、不可解な状況を演出してね。その上で、噂をばら撒く」
「シャドウ、か」
ウォッチの呟きは寂しげだった。
ひょっとしたら、シャドウというモンスターと戦うのを楽しみにしていたのかもしれない。
「そう、そういう不可解な噂をばら撒いて、そしてダンジョンの不可解さがその噂の信憑性を高める。果ては、ブラド自身が他の冒険者とパーティーを組んで攻略に挑んだ挙句、自分以外を全滅させるなんて大胆な行動にも至った」
「そうか、そりゃそうだよな、唯一の生き残りとか大層なこと言われてたが、それは自分で演出してたわけだ」
口を開けてヘンヤは呆れている。
「普通、そんな目立つマネしねぇよな。自分が仕組んでるのに。ああ、ひひ、なるほど、ヴァンじゃねぇが、確かにブラドって男は屈折してるな。心理分析してみたいくらいだ」
「まて、確かにダンジョンの秘密を知っているハント、モーラ、ブラドなら冒険者の排除も容易いだろう。元々攻略不能なダンジョンだ、冒険者の不審な死と噂で帰らずの地下迷宮と呼ばれる超高難易度のダンジョンになるのも分かる。だが、何故だ? それで、何が起こる?」
「一つは、死体漁りだと思う。ダンジョンが有名になればなるほど、難易度が高いと思われれば思われるほど、高名で実力のある冒険者が挑戦する。その冒険者の装備やアイテムは、かなりの価値があるだろ。馬鹿にできない利益になるはずだ。そうして、もう一つは」
ウォッチの問いかけに俺は両手を広げて、
「当然、これだよ」
と、周りを見回す。
「辣腕の実業家であり貴族、ベント・トレジャーが目をつける。未だ攻略されていない、最高レベルの難易度のダンジョン。ダンジョンで財と名を成したベント・トレジャーが目をつけるのは予想できる。その後は? 当然、攻略プロジェクトが組まれる。プロジェクトは国中、いや世界中の有力者や冒険者が注目するものになる」
「いや、駄目だ。それは通らない」
だがウォッチは食い下がる。
「確かにこの攻略計画は注目はされている。だが、それに参加したブラドやハント、モーラが利益を得るためには、財や名を得るためには、結局のところダンジョンを攻略しなければならないはずだ。攻略が失敗に終われば、何も得ることはできない」
「それとも、秘密を解き明かしました、とでもいうの? それやっちゃうと、今までダンジョンで起きた不可解な事件の犯人が誰か分かっちゃうわよ。モーラが掘った正しい入り口への穴道だって残ってるだろうし」
ウォッチの反論もエニの疑問ももっともだ。
確かに、そうなんだが。
「多分、三人の思惑はそれぞれ違っていたんだと思う」
俺もそこに関してはあまり自信がない。
「ブラドは、また失敗してもよかったんじゃないかな。パーティーが崩壊して、それでもブラドはまた生き残る。それで、ブラドの名は上がるはずだし、そもそもあいつはどうやらそういうのが好きみたいだ。世間を騙したり、逆を行ったりするのが好きな屈折した男みたいだから」
「ハントは、どういうつもりだったんだ?」
酷く低い声でベントが訊く。
正直、ハントが何を考えていたかは手探りだ。
「おそらく、ハントもあのダンジョンから生きて帰りさえすれば、それで父親であるあなたにも、社会にも認められると、ひどく単純で楽観的な見方をしていたんじゃないですかね。あるいは、小細工を使って自分達が黒幕だとばれないようした上で、ダンジョンの秘密を解き明かしたことにして、自分が一躍時の人になるのを望んでいたのかもしれない。絶対攻略不能な帰らずの地下迷宮の謎を解いた男、結構憧れる称号でしょうし」
あるいは、と俺は考える。
ベントにはとても言えないが、ひょっとしたらハントはゴールを見ていなかったのかもしれない。ただ死体を漁って小金を稼ぎながら、世界中で話題になっているダンジョンをプロデュースしているということ自体に酔っていたのかもしれない。
世界の話題の中心を自らの手で作り出した、その夢が、ハントにとって巨大過ぎた父親への劣等感を払拭してくれる、唯一の武器だったのかもしれない。
何とも言えない気分になる。
父親が、ついに自分の作品であるダンジョンに目を向けて行動を開始した時、果たしてハントは何を思っていたのか。焦りか、それとも純粋な喜びか、もしくは優越感か。
「そして、モーラだけが別のことを企んでいた」
あの少女のような、陽気な女のことを思い浮かべる。
「と言っても、別にそんな妙なことを企んでいるわけじゃあない。むしろ、非常に分かり易い話だ。今回、ベントが依頼主となって帰らずの地下迷宮に多数の凄腕の冒険者が一気に挑む。この攻略が失敗すれば、このダンジョンの恐怖や攻略の困難さは更に強く世界に刻まれる。そして」
ぱちり、と俺は目を閉じる。喋りながら疲れてきていた。
「秘密を知っている人間は、少なければ少ないほどいい」
「モーラの目的は、秘密を守るために今回の攻略を失敗させることと、そしてその過程で秘密を知っているハントとブラドを殺すことってわけね」
ふむふむと納得した顔のキリオが、
「つまり最優先はハントとブラドの殺害だったのかな? その二人を殺しただけで、展開によっては攻略失敗ってことで引き上げるかもしれないものね。別に全滅させる必要はないし」
「だろうな。更に言うなら、最優先なのはブラドの方のはずだ。警戒心が強いから、察知されて逆に殺されるかもしれない。だから、一番にあいつが殺された」
ブラドも、あの鋼鉄の箱に入る際、まさか既に自分の死が確定しているとは思わなかっただろう。
「結局、三人の間で立てられた今回の攻略をどうするかという計画、そこまでは分からない。適当にお茶を濁すつもりだったのか、秘密を暴露するつもりだったのか。ともかく、モーラはその計画とは別の自分だけの計画を抱いて参加していた。最初の標的はブラド。多分、ブラドの秘密を知っていたモーラは、それを利用したあの殺し方を予め決めていたはずだ。不可解な死に方なら、よりダンジョンの恐怖を増加させる役に立つからな」
「今思ったけど」
ふと思いついたようにシロナが声をあげる。
「やっぱり、三人の中では、自分達以外の少なくとも数人を殺して、今回の攻略は失敗にする予定だった気がする」
「おっ、その心は?」
意外な人物からの指摘に驚きながらも理由を訊く。
「一番最初にキャンプした時のお椀、一つ足りなかった。ハントが一つ少なく持ってきていた。つまり、それで大丈夫だろうと準備の時に考えていた、というのは考えすぎ?」
「なるほど」
思わず俺は唸る。
「チャンスさえあれば最初の食事の前にメンバーが減っているだろうから、ほとんど無意識のうちに食器が足りないのにそのまま出発しちゃったわけか。根拠としては弱いけど、面白いな」
「どちらにしろ、ブラドの死はハントにとっては予想外だったわけだな」
話が際限なく膨らみそうだと危惧したのか、ジンがまとめる。
「ブラドの死の後、ハントが異常なほどに動揺していた。親しかった師を殺されたためだと思っていたが」
ウォッチが顎を撫でる。
「今思えば、自分達の陣営が殺されるという異常事態に動揺していたのか」
「当然、何が起こっているのかモーラに確認したかったはずだけど、他のメンバーの目もあるからそうはいかない。だから十階まで降りたところで、まずはメンバーを分けることにした」
「あれ、手分けって確か提案したのモーラじゃなかった?」
口に指を当て、エニが回想する。
「ああ、そこがモーラの狡猾なところでな、ハントが絶対に自分に話がしたいと分かっているから、自分から切り出してやったわけだ。それにハントが乗った」
「なるほどね」
納得したのか、エニが頷く。
「私とヴァン、ハント、モーラが上の階に戻っていく時、ハントが全員に密談したのも今思えばモーラが目的?」
かくり、とシロナが細い首を傾げる。
「だと思う。全員と密談して、しかもそれなりに内容のあることを言っていったから騙されたけど、あれはつまりハントがモーラと密談するためのカムフラージュだ」
そして、その密談の後で更に俺とシロナ、ハントとモーラに分かれた。俺とシロナを先に行かせて、ハントとモーラは自ら作り出した密室に閉じこもった。
「多分、モーラは惚けたんだと思う。何が起こっているのかは分からない。けど、とにかく何かまずいから、自分達は帰還石で一旦離脱しよう。ただし、普通に消えたら怪しまれるから、何らかの演出をして。こんな感じの提案をモーラはしたんだと思う。よく考えたら矛盾だらけの提案だけど、とにかく混乱していたハントは藁に縋る思いでそれに乗った。俺とシロナが途中で引き返してくるのは計画とは違うけど、想定外というわけでもなかった。その対策で合成壁で通せんぼしてたんだろうからね」
「本来の計画では、私とヴァンはハントの指示通り、二人で上に行くということ?」
「多分。そこで、声か何かで呼び寄せられて、あの一方通行の壁の前に行き、二人してモーラとハント死亡の証言者になる。これが本来のシナリオだったんだと思う。結局、証言者は俺一人になったけどな。あの二人は、まず合成壁で密室を作った後、一方通行の壁の出口側に血を塗りたくった。これは多分、最初から演出用ってことでモーラかハントが準備していたものだと思う。皮袋に入れるか何かしていたんだろう。それで猟奇の演出をすると共に、外から見えなくするわけだ。血に塗れて見えない空間にいきなり突っ込む奴はいないだろうからな。これで準備は完了だ。何かが起こったと知った証言者、つまり俺が血塗られた壁の向こう側に問いかけると、そこで打ち合わせどおりにハントが喋りだす。まず、俺に入って来ないように言って、そしてモーラの死、シャドウの実在、エトセトラエトセトラ。語っている途中に、予想とは違い、痺れを切らして俺が突っ込むよりも先にエニが合成壁を爆破した」
「あれ、予想外だったの?」
きょとんとしたエニに、
「だと思うよ。それよりも先に一方通行の壁から飛び込んでくるだろうから、その直前に帰還しようと待ち構えていたんじゃないか? ところが、予想外に俺とシロナがあの疑心暗鬼の状況でも手早く役割分担してジン達を呼びに行ったせいで、エニの爆破が早かった。慌てたんだろうな、ハントも慌てたがモーラも慌てた。何せ、まだハントを殺していないからな」
「なるほど、ひひ、えげつねえな。自分の死を語らせといてハントを殺して、それから帰還して一切俺達の目に触れないようにすれば、完全な死人になれる。喋るだけ喋らせて殺そうって話か」
「けど、誤算があった。本当は、それこそハントを殺した後、死体を細切れにして置いておくくらいのつもりだったんだろうと思う。気分の悪い話だけど、そうすれば自分の死体も同じようになったんだと偽装できる。が、その時間が無かった。とはいえ、逆にハントの死体だけまるまる残っているのにモーラの死体だけないとなると」
「まあ、どう考えてもモーラが怪しいわな」
ジンが薄く笑う。
「それくらいならいっそ、と咄嗟に思ってモーラはハントを殺害、そしてハントの血液だけを残してハントの死体と一緒に帰還した。いわば、二人とも死体が無いバージョンだな。怪しいとは思うが、自分のだけないのよりましだ。そう思ったんだろう。ところが、あまりにもエニの爆破が予想外だったせいで、忘れ物をした」
「ハントの手ね」
思い出したのか、エニが顔をしかめる。
「殺害の途中で切断されたんだろうが、あまりにも焦っていたからハントの手を置いたままにしていた。あれで、ハントは本当に死んだみたいだと俺達は考えて、そして全く死んだ痕跡すらないモーラに無意識レベルで疑いを持っていた。きっと、だからこそ俺のモーラ犯人説に皆すんなり納得したんだと思う」
「確かに、どこかでモーラの死を疑ってたってのはあるな」
ヘンヤが空にしたグラスを指で弾く。
「じゃあ、ハントの遺体は」
しわがれた声で久しぶりにベントが口を開く。
「ええ、おそらく、帰還石の近くに置かれていると思います」
とはいえ、これも完全な推測だ。実際にどうかは確認するしかない。
これから専門家のチームで穴を通って土中迷宮の入り口を探す作業が始まるらしい。なるべく早く入り口が見つかることを祈ろう。
「その後は、一方通行の壁の入り口側から、俺達の姿を観察していたわけか」
そこでウォッチは首を捻って、
「お前に訊くのもおかしいかもしれないが、キジーツ殺害は、あれは何だ?」
「おお、それ、不思議だったんだ。そもそも、どうしてキジーツは単独行動したんだよ」
ジンも便乗する。
「さあ?」
知るわけが無い。あんな妙な男が何を考えているかなんて。
ただ、
「あの状況で単独行動しても、自分が殺されることはないって自信があったんじゃないかな」
「えっ、どうして?」
目を真ん丸にするエニに、
「考えてもみろよ。あの時点で、生き残りは全員キャンプにいて、キジーツだけがいなくなった。そこでキジーツが殺されたら、どうなる?」
「あ、そっか。犯人は今生き残りの中にはいないってことになって、疑心暗鬼の状態が解決されるんだ。あれ、でも」
「そうだ」
俺はエニの言いたいことを察知して答える。
「確かに俺達の皆殺しが目的なら、疑心暗鬼の状態を続かせなきゃいけない。けど、そもそも犯人の目的はダンジョンの攻略を諦めさせることで、あの時点で俺達はもう上に戻ることしか考えていなかった。だからキジーツの殺害は犯人にとって特にデメリットのあることじゃなかった。そこは読み違えたんだと思う。もっとも、逆に言うとキジーツの殺害は犯人にとってメリットのあるものでもない。だってもう攻略は失敗しているわけだし。だから、本来なら殺さなくてもよかったはずだ」
「じゃあ、どうして殺されたわけ?」
「気付いたからだろ」
キリオの質問に答えたのは俺ではなく、ジンだった。
「キジーツの奴は気付いたみたいだな、あのダンジョンの構造に。だからこそ、ナイフを逆に持った、違うか?」
「ああ、ジンの言う通りだと思う」
刃の方を持ったナイフ、あれの解釈はシンプルで当然なものだ。
ようするに、近くにあるもので「逆」を示しただけ。
あれは、ダンジョンが逆であると、潜るダンジョンではなく、上がっていく塔のダンジョンだと示すダイイングメッセージだった。
「どういう経緯かは不明だけど、キジーツはあのダンジョンの秘密に気付いた。そして、単独行動していたキジーツを見張っていたモーラもそれに気付いた。それが、あの殺人の原因だと思う」
「モーラの奴、びっくりしただろうな、ひひ。予想外に殺さなきゃいけなくなった上に、相手が体の中から刃物を突き出すっていうこれまた予想外の反撃してくるんだからよ。俺なら焦るしびびるね」
ヘンヤが言うが、当然だ。俺だって焦るしびびる。
「そういう意味ではキジーツに感謝しないとな。モーラがそれで動揺していたから、俺達の芝居にあそこまでうまく引っかかってくれたのかもしれん」
「ひひひ、結局、不意打ちしたのに仕留めきれなかったあんたが言うか?」
冗談半分にヘンヤがジンに噛み付く。
そう、あの後、倒れた俺達の生死を確認するために近づいてきたモーラに飛び起きて斬りかかったのはジンらしい。もっとも、俺は薬のおかげで意識をなくしていたので伝聞だが。
「無茶を言うな。相手はいつでも帰還で戦線離脱できるんだぞ。一太刀浴びせただけでも上出来だろう」
自画自賛するジンに苦笑しつつ、ウォッチが俺に静かな目を向ける。
「ヴァン、一つ訊きたい」
「ん?」
「モーラの目的が攻略の失敗とあの二人の殺害にあると、そうお前は言ったな」
「ああ、うん」
「だが、今回の事件ではモーラは自分の死を偽装した。それについてはどう思う? これでは、例え俺達にモーラが犯人だと気づかれずとも、俺達の誰かが地上に辿り着いた時点でモーラの死の情報は広まる。その状況では、もうモーラは表の世界に立つことすらできない。違うか?」
「違わない」
簡潔に答える。
「モーラが自分の死を偽装したことについては、計画のうちというより流れでしたんだと思うけど。犯人だとばれなきゃ、誘拐されて記憶が曖昧とか言って誤魔化すつもりだったのか。それとも、ブラドやハントのように名を求めるつもりは最初からなく、身を隠しながら死体漁りで贅沢な暮らしができればよかったのか。ああ、ひょっとしたら、自分を死人にした時点で、やっぱり俺達を全滅させるつもりだったのかもしれない。それで自分が唯一の生き残りとして戻るつもりだったのが失敗したのかも」
それとも、と俺は最後の可能性を口に出さず思う。
それとも、モーラはハントと同じく、いやひょっとしたらブラドすらも同じだったのかもしれないが、ただ酔っていただけなのかもしれない。
誰も攻略できない、謎と危険に満ちた迷宮。
あらゆるダンジョンが攻略されつつあり、聖遺物も全ての国々によって厳重に管理される、そんな本当の冒険や夢が消えつつある時代に、本物の迷宮を作り出す。
自らの手で、本物の迷宮を、誰もが迷い命を奪われる迷宮を作り出すという夢に、酔っていただけなんじゃないのか。
だから、モーラは攻略を失敗させて、ブラドとハントを殺したんじゃないのか。
この謎と危険に満ちたダンジョンを、より完全なものにするために。
ふと、モーラがキャンプで語っていた言葉を思い出す。
謎は謎のままであるべきだと。御伽噺は御伽噺のままであるべきだと。
あれは、モーラの零れた本心だったのかもしれない。
「ベント様っ!」
俺の思考を打ち砕いたのは、突如として部屋に走りこんできたトレジャー家の執事だった。
「何事だ、騒がしい」
億劫そうに言うベントは、疲労の色の濃い顔をそちらに向ける。
「そっ、それがっ」
顔を強張らせた執事の後ろから、
「邪魔をする」
ぼろぼろのマントを羽織った、癖のある黒髪を無造作に肩まで伸ばした髭面の男が入ってくる。
「お前は」
ジンの顔が歪む。
「ジン、久しぶりだ。他の皆様は初めまして」
そして、その中年の男は自己紹介をする。
「俺の名はジャンゴ。『荒野のジャンゴ』と呼ばれている」




