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推理(1)

 ひとまずの、表面的で客観的かつ大雑把にまとめた説明が、つまり俺が意識を失うまでの説明が終わる。


 だが、目の前のキリオは全く納得した顔をしていない。頬を膨らませて、


「だから、結局どういうことなのよ」


 ほとんど怒鳴るように叫ぶ。


「ううん」


 俺は唸る。そうは言っても、俺自身、結局全体としてどういうことだったのかは未だに分からない。なにせ、さっき救出されたばかりなのだ。


 毛布を羽織っているし、さっきからずっとホットワインを飲んでいるがまだ薬の影響か少し寒い。暖炉も焚いてもらっているというのに。


「私からもお願いしたい。君の話で、息子が死んだのは分かった。だが、どうして、何故死んだのか、それが分からなければ納得のしようもない」


 一気に老け込んだ様子のベントが言い添える。


 その心情は理解できなくもないので、俺は悩む。


 俺達がいるのはベントの屋敷の応接間。出発前、あのダンジョン攻略を依頼された場所だ。ベントが雇った救出部隊に助けられて、治療を受けた後ですぐにこの応接間に集められた。


「ヴァンのピンチを知ってかけつけた、このシャークのエース医術者、キリオが治療してあげたんだから、もう元気でしょ。さっさと話しなさいよ、特に」


 キリオが蛇のような目をして、横に座っている少女を睨む。


「そこの女との関係とか、詳しく」


「いや、エニは、さっき言ったようにパーティーのメンバーだよ。それ以上でも以下でもない」


 同じようにホットワインを飲んで、その味に舌鼓を打っているエニは上機嫌だ。


「そうよ、大体、あたしがいないとヴァンだって死んでたかもしれないのに、何よその態度」


 と口では言いながら、キリオをおちょくるようにエニの手がそっと俺の肩に乗る。


「ちょっと、肩!」


 激昂するキリオを無視して、


「しかし、確かにどこから話すべきかは難しいな。それぞれが、それぞれの考えで動いていた部分もあるからな」


 鎧を外して、珍しく身軽な格好をしているジンが言う。

 まだ顔の青い俺と違って、ジンは極めて血色がいい。さっきからばかすかとホットワインを飲んでいる。


「そうだな、話すとしたら、全員がそれぞれ、自分の行動と思考を話していくのが結局一番早いかもしれない」


 槍を置いた、幾分か表情の柔らかいウォッチが賛成して、


「ウォッチ殿がいうならそれが正しいかもしれねぇけどよ、全部、ばらばらに話していても収拾がつかねぇだろ」


 そして、それに少し遠慮しながらヘンヤが異を唱える。

 こんなヘンヤの態度も新鮮だ。


「ああっと、どうだろうな。ばらばらに色々なことを考えたり、行動したりはハントとモーラが死んでしまった事件があった後、キャンプに戻ってからが一番目立つ気がするな。そこから話すんでいいんじゃねぇか?」


 ジンの意見に、反対は出ない。


「なら、まずはヴァンから」


 いくらワインを飲んでも顔色をちっとも赤く染めず、真っ白いままのシロナがここで口を開く。


「え、俺?」


「妥当だな」


 頷くのはウォッチ。


「あの事件の大枠を最初に捉えたのはお前だ。お前の話から始めるのが一番分かりやすいだろ」


 ジンに促され、俺は皆の顔を見回す。

 誰もが、俺が話すことを期待している顔をしている。

 正直なところ、七探偵の一人があれだけ犠牲者を出した上で、こんな場所でぬくぬくと得意げに事件の解説するなんて恥ずかしいが、仕方が無い。


 俺は、話を始める。





「キャンプに戻って、ダンジョン攻略に慣れていないというのもあって、恥ずかしながら疲れの溜まっていた俺は事件について考えながら半分眠ってしまったわけだ。で、夢を見た。ダンジョンを上がっていくんだけど、上がれば上がるほど体が重くなるって夢だ。夢からはキジーツの悲鳴で起こされた。ああ、ちなみに、起きた時にはエニがいなかったんだけど」


 そこでエニを見るが、彼女は黙って肩をすくめる。


「ともかく、悲鳴に対してどうすべきかをジンによってキャンプの中心に集まった俺達は話した。だけど、俺はちょっと寝ぼけていたこともあって、整理することなく、夢の内容とか寝る直前に考えていた事件についての思考をそのままつらつら喋っちゃったんだ。大失態だよ」


 その様が本当に恥ずかしいので、そこでホットワインを煽って誤魔化してから、


「ただ、そこで喋りながら、気付いたんだ。ほら、喋っているうちに内容が整理されて正解が出ることってあるだろ、あれだよ。ともかく、考えるべきは、材料は何かって話だ。推理しようにも、何もかもわけが分からなくて推理しようが無い。分からないことが、材料が多すぎる。だから、そこから材料を選択しなくちゃいけない」


 キジーツは材料がないと表現して、俺は材料が多すぎると表現した。正反対のことを言っているようで、今にして思えば同じことについて別の表現をしただけだ。


「じゃあ、まず考えるべきは何か。それはもちろん、ハントとモーラの事件だ。どう考えても密室の中から、完全に消失してしまった。この異常さ、更にあの迷宮では以前から同じような事件が起こっていて、時空を操るモンスター、シャドウなんてものまで噂される始末だ。つまり、ダンジョンの抱える秘密とあの事件はリンクしている。最初に考えるべきは、あの事件だ」


 空にしたグラスをテーブルに置く。


「それと、俺の見た夢の内容がリンクした。ダンジョンを上がるほど体が重くなって、つまり進みにくくなる。これって現実の俺達の内容そのままじゃないか? キャンプのある地下七階よりも下なら、俺達はまだ自由にダンジョンを探索できた。けど、逆に上に進もうと思えば、ポイズンリザードっていうモンスターがいる。致死の毒を持つそいつと、仲間を心から信頼できない状態で戦うのは危険すぎる」


「確かに、そうね」


 キリオが頷く。


「医術者を信用できないっていうのは、かなりつらいわね」


「ああ。けど、妙な話じゃないか? つまり、上に昇った方が難易度が上昇しているんだ。そこに、いくつかの情報が重なる。壊れている入り口、同じように壊れている帰還石、一階から中級ダンジョンの最深部相当の難易度、同じく一階から中級ダンジョンの最深部相当のアイテム、それ以上進めない地下十階」


「馬鹿な」


 俺がキーワードをあげていくのを聞いていたベントが、喉をごくりと鳴らす。


「そんな、馬鹿な」


「考えてみれば、当然の話で、地震で入り口が埋まったって話だったけど、そもそも埋まったのが入り口だけだって誰が保証するんだ? 入り口だけじゃなくて、『丸ごと』埋まったのかもしれない」


「つまり、土中迷宮、帰らずの地下迷宮は」


 さすがにこの結論に驚いたのか、キリオは目を見開きながら、


「地震で埋まった『塔』だったってわけ?」


「ああ、塔の最上部、つまり通常なら最後に辿り着くべき場所の天井や壁が壊れて、おまけに丸ごと埋まってしまった。だから、誰もがその壊れた最上階を入り口と勘違いして、一番下にある『入り口』を目指す羽目になったんだ」


「まて、やはり、おかしい」


 ベントは納得がいかないのかテーブルをこつこつと苛立たしげに指で叩く。


「あの、壊れた帰還石はどう説明する? 誰かが偽装したものだというのか? だが、そもそもあのダンジョンは、歴史研究のための発掘で、偶然に発見されたものだぞ? 一体、誰がどのタイミングで帰還石を偽装するんだ?」


「最初からあった、と考えるのが一番自然な気がしますね」


 俺はあっさりと答える。

 こればかりは、完全な想像で答えるしかないから気が楽だ。


「最初だと?」


「ああ、最初というのは、つまり発見された時点で、です。その時には既にあの、偽物の壊れた帰還石があった」


「理屈が合わんぞ」


 混乱してベントが頭を片手で抱える。


「いやいや、単純に考えるべきです。あの地方は元々地震が多いんでしょう? つまり、いたんですよ、昔、それも記録に残らないくらいの大昔、あのダンジョンを発見した冒険者が。偽物の入り口から入ったその人間は、すぐに自分がいるのが塔の最上階だと気付きます。が、どうしたことか、その冒険者は底意地が悪いのか、たちの悪い悪戯をしたわけです。何も知らない大勢の冒険者が命を無駄に賭けるような悪戯を」


「なるほど、その後で」


 ぽん、とジンが手を叩く。


「また地震が起きて、その偽物の入り口が埋まっちまったわけだ。で、それをモーラ達が掘り起こす、と」


「ああ、経緯としては、それが一番自然だと思う。さて、そうなれば、密室からの消失なんて何の問題もなくなる。本当の入り口には、帰還石が存在しているわけだから」


「ちょっと待ってよ」


 エニが顔をしかめる。


「その本当の入り口とやらには、どうやって行くの? つまり、あのダンジョンは『後戻りができない塔』だったわけでしょ? だから、地下十階よりも下に潜れなかった。一番最初に入り口の帰還石に同期しなくちゃ、入り口に帰還しようがないじゃない」


「そうそう」


 そういうことだ。


「つまり、ダンジョンを通って偽の入り口から本当の入り口に辿り着くのは不可能なわけだ。となると、外を通るしかない」


「外って、外は土の中、あ」


 キリオが言いながら、ようやくその事実に気付いたのか言葉を止める。


「ひひ、そういや、あのダンジョンにいくまで、モーラ達ディガーが掘った穴を右往左往したな」


 自分の迂闊さを笑うように、ヘンヤは照れた顔で口の端を持ち上げる。


「いくつも横穴があって、別の道に行かないようにとモーラに釘を刺されたもんだが」


「あの横穴のうちどれかが、本当の入り口に続く穴になっていた、多分そんなとこだと俺は予想している。ともかく、そこで俺は気づいたわけだ。つまり、この事件には」


 あの、小柄な、まるであどけない少女のような穴掘り屋の姿を思い浮かべて、俺は言う。


「モーラが深く関わっている。これは、間違いないことだ」


「半分寝ぼけてたようなヴァンの言葉が次第に理路整然としてきて、最終的にこんな結論が出た時は驚いたぜ。まったく、腐っても七探偵の一人だ」


 馬鹿にしているのか褒めているのか、ジンの軽く細めた目を見ながら、俺は中途半端に誤魔化すような笑いを浮かべる。

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